会社には、日々企業活動を行っている会社や廃業してしまった会社のほかに「休眠会社」が存在します。休眠会社は、慣用的な会社名称ではなく、会社法で定義されている立派な会社の形態の一つです。
本記事では、会社を休眠会社にするメリットやデメリット、休眠会社にするための手続きなどを紹介したうえで、休眠会社のM&Aについても解説していきます。
休眠会社とは?
休眠会社とは、一般的には「長期間にわたって企業活動を行っていない会社」を指します。法律上では、「株式会社であって、当該株式会社に関する登記が最後にあった日から12年を経過したもの(会社法第472条1項)」と定められています。
株式会社の役員の任期は会社法上最長で10年と定められているため(会社法第332条第2項)、どの株式会社も必ず10年に1回は登記(役員の変更登記)を行わなければなりません。それを2年以上経過しても行われていない会社は、法律上「休眠会社」と定められています。
また、最後の登記から12年以上経過していない場合でも、経営者自身の判断によって税務署で休業の届出を行えば、会社を休眠状態にすることが可能です。
ちなみに、有限会社の役員や合同会社の社員などには任期がありません。したがってこれらの会社に関しては、最後に登記があった日から12年を経過しても法律上、休眠会社になることはありません。
会社を休眠させる目的
会社を休眠させる目的は、会社によって様々です。休眠会社は、事業を行っていないものの、会社自体は存続するため、将来的に事業を再開する可能性がある場合の選択肢とされる場合があります。
一般的によくある理由は以下のとおりです。
- 経営者の高齢化や病気など
- 事業再生に向けた時間を確保するため
- 廃業の準備
「みなし解散」や「廃業(清算)」との違い
休眠状態がつづくと、最終的に会社は解散されたものとみなされます。
商業登記法では、会社の商号は、同一の所在場所で同じ商号を付けることはできないと定められています(商業登記法第27条)。したがって、休眠会社が増えたまま放置しておくと、将来に新たに会社を設立する人がその商号を決める際の障害になりかねません。
そのため法律上休眠会社となった場合、法務局の登記官によって強制的に解散手続きが取られ、会社が解散させることができるようになりました。これを「みなし解散」と言います。
これに対して、「廃業(清算)」は自主的に会社を解散して、事業を廃止することを言います。「みなし解散」と「廃業(清算)」は、どちらも一旦行うと二度と事業を再開することができない点は同じです。
一方、休眠会社は事業を再開することが可能です。この点が「みなし解散」や「廃業(清算)」と休眠の大きな違いです。
休眠会社にする5つのメリット
休眠会社のメリットは、主に以下の5つが挙げられます。
①事業活動を再開させることができる
前述の通り休眠会社は廃業とは異なり、事業を再開させることができます。やむを得ない事情で事業の休止を余儀なくされる、しかし将来的に再開の可能性を残しておきたい場合の選択肢として活用することができます。
②手続きを比較的簡単に済ませられる
会社を休眠させるためには、法務局での登記や税務署への確定申告などを行う必要はなく、税務署や市区町村役場などへ休眠のための届け出書類を提出するだけで手続きとしては完了です。したがって、会社を休眠させるための費用や手間も最小限で済ますことができます。
③廃業にかかる費用を回避できる
会社を廃業するためには、法人の解散登記と清算人の選任登記、そして清算結了登記の3つの登記をしなければなりません。
また、廃業にあたっては官報で公告を行わなければなりませんが、掲載するためには4万円程度かかります。
これと並行して、法人の解散や清算を行うには、解散確定申告と清算確定申告を行わなければなりません。これらを司法書士や税理士などの専門家に依頼する場合は、別途数十万円程度の費用が必要となります。しかし、会社を休眠させることを選択すれば、これらの費用がかかりません。
④法人税・消費税の支払いを免除される場合がある
会社を休眠すると、事業を行わないわけですから、法人税や法人事業税、消費税の支払いは生じません。また、都道府県民税や市区町村税の均等割りに関しても、休眠の届け出を提出することで一部免除される場合があります。
⑤許認可の再取得が不要になる
廃業を選択した場合、新規で事業を起こす際に、必要な許認可を再取得する必要がありますが、休眠会社の場合、休眠前に取得した許認可については、一般的にその認可が取り消されることはありません。したがって、休眠から再開するような場合は、改めて許認可を再取得する必要はありません。
休眠会社にする5つのデメリット
休眠会社には、メリットだけでなくデメリットもあります。そのデメリットは、主に以下の5つです。
①手続きや会社維持の費用がかかる
上述のように、会社を休眠させるためには、各所へ書面を提出する手続きを行わなければなりません。また、休眠会社にすると税金の一部は免除となりますが、それでも免除されなかった法人市民税などの均等割りは支払い続けなければなりません。
②税務申告は毎年行う必要がある
休眠会社の届け出を提出し、事業を一切行わなかったとしても、税務申告は毎年行わなければなりません。したがって、税務申告を税理士などの専門家に依頼している場合は、毎年その費用を負担しなければなりません。
③みなし解散となる可能性がある
上述のように、最後に登記を行ってから12年が経過した株式会社は休眠会社とみなされ、そのまま放置しておくと最終的には登記官の職権によって強制的に解散の登記がされてしまいます。
法務大臣による「みなし解散」公告の日から2ヶ月以内に、「まだ事業を廃止していない」旨の届け出を本店所在地を管轄する法務局に提出し、役員変更などの必要な登記を行えば「みなし解散」を回避することはできますが、行われなければ会社を清算せざるを得なくなります。
④役員の登記変更が必要になる
会社を休眠させていたとしても、役員の任期は休眠期間と関係なく経過していきます。株式会社の役員の任期は最長で10年ですから、最長でも10年に1回は休眠中であるかどうかに関わらず任期満了に伴う役員の変更登記を行わなければなりません。
なお、役員の変更登記は任期満了後2週間以内に行わなければなりませんが、万が一その期間中に行われなかった場合は、会社法976条に基づき、100万円以下の過料が課せられます。
⑤固定資産税の支払いを課される可能性がある
休眠中であるかどうかに関わらず、一般に法人が所有している土地や家屋などの不動産に対しては、固定資産税が市区町村から課税されます。したがって、休眠中でもこれらの費用は必要です。ただし、同一市区町村内の課税標準額が土地であれば30万円、家屋であれば20万円未満の場合であれば、固定資産税が免税されます。
休眠会社にするための手続き
休眠会社にするための手続きとして、各行政機関に書類を提出する必要があります。
提出先や主な提出種類は以下のとおりです。
提出先 | 主な提出書類 |
管轄税務署 | ・異動届出書(休業の旨を記載) ・給与支払事務所等の廃止届出書 |
都道府県・市区町村(都税事務所) | ・異動届出書(休業の旨を記載) |
管轄年金事務所 | ・健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届 |
労働基準監督署 | ・労働保険確定保険料申告書 |
公共職業安定所(ハローワーク) | ・雇用保険適用事業所廃止届 |
休眠手続きにかかる費用
休眠手続きのための書類を提出する場合、特別に必要な費用はありません。ただし、税理士や社会保険労務士などの専門家に届出書類の作成を依頼すれば、手数料が必要になります。
休眠会社のM&Aの場合
休眠会社もM&Aによる売却や買収が行われるケースがあります。特に譲受ける側にとっては以下のようなメリットが挙げられます。
①社会的信用度が上がる可能性がある
社歴の長い休眠会社の中には、業界内で有名であるなどの理由から、社名にも価値のある場合があります。このような会社をM&Aによって買収すれば、グループ全体の知名度や社会的信用度が上がる可能性があります。
②許認可を得る手間やコストを省ける
許認可には、届け出さえ出せば簡単に受けられるものから、長い時間や費用・実績などがなければ受けられないものまであります。もし休眠会社が受けている許認可が後者のタイプのものであれば、M&Aを行うことにより取得のための手間やコストを省けます。
③節税につながる可能性がある
赤字が累積し、経営が苦しくなって会社を休眠した場合は、多額の繰越欠損金を抱えていることがあります。基本的には、繰越欠損金を利用した節税目的でM&Aを行うことはできませんが、M&Aによる合併が適格合併である場合などは、繰越欠損金を引き継いで節税になる可能性があります。
終わりに
経営者が高齢になった場合や廃業したいがための費用を準備している場合などに、これまで経営してきた会社を休眠会社にすることがあります。休眠会社にするためには書類を提出するだけで済むため、費用がさほど必要でなく、「もう一度やってみよう!」と思った時でも、会社を休眠会社から復活させるのは簡単です。ただし、休眠期間中も毎年の税務申告は必要ですし、役員の変更登記をしなければみなし解散とされてしまう可能性もあるため、この点には十分に注意が必要です。
休眠、廃業という選択だけでなくM&Aによる売却、事業承継も選択肢として視野に入れておいた方が良いでしょう。自社が持っている知名度やブランド力、許認可などは財務諸表上では資産として計上されていませんが、M&Aであればその価値が評価され、譲渡して対価を得られる可能性も十分に考えられます。後継者不在の問題解決にもつながります。
著者
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