日本の社会環境の大きな問題点として叫ばれているのが少子高齢化による、生産年齢人口の減少である。生産年齢人口の減少は、企業にとって働き手の減少となって跳ね返り、加えて政府の掲げる働き方改革の推進も人材不足という経営上の問題を大きくしている傾向にある。人材不足は、中小企業にとってより深刻な問題だ。コロナ禍が明け、景気が上向き傾向にある今、早急に対策を取ることが望まれる。

そこで、本記事では中小企業が抱える人材不足の要因と解決に向けての7つの対策を解説する。

目次

  1. 日本企業の人材不足の現状
    1. 人材不足が深刻な業種
  2. 中小企業は大企業よりも人手不足がより深刻
    1. 2024年はさらに人手不足の不安が高まる
    2. あらゆる業種で人材不足・育成難が進む
  3. 人材不足が経営に及ぼす影響-最悪、倒産もあり
  4. 中小企業が人材不足に陥る要因
    1. 少子高齢化
    2. 時間外労働の上限規制
    3. ワークライフバランスと労働環境のアンマッチ化
  5. 人材不足解決に向けての7つの対策
    1. 1.従業員を育成し、生産性向上を進める
    2. 2.自社の労働条件を改善する
    3. 3.職場環境を改善する
    4. 4.自社の業務プロセスを見直して改善する
    5. 5.多様な人材を活用する
    6. 6. 外部アウトソーシング業者を活用する
    7. 7. IT化によって省力化を図る
  6. 人材不足の中小企業が行った4つの成功事例
    1. 有限会社 COCO-LO
    2. 株式会社加藤製作所
    3. 株式会社荒木組
    4. アップコン株式会社
  7. 厚生労働省の支援策に着目しておく
  8. 社会環境をとらえ自社の問題点を改善することで人手不足を解決する
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(写真=Zodiacphoto/Shutterstock.com)

日本企業の人材不足の現状

まずは、日本企業が置かれている人材不足の状況を確認してみよう。

帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査」(2023年10月)のデータによると、人手不足を感じる企業は増加の勢いを増している。2023年10月時点で正社員の不足は52.1%、非正規社員では30.9%とどちらも高止まりが続いている状態だ。かつての最高記録は、正社員で53.9%(2018年11月)、非正規社員で34.9%(2018年12月)である。

しかし当時は、インバウンド需要の高まりや自然災害からの復興需要、オリンピックに向けての建設需要などといった要因があった。その後、新型コロナの影響により2020年には、人手不足割合は正社員で34%、非正規社員では19%と急降下。しかしコロナ禍が明けて景気が上向き傾向にあるなかで多くの企業は元の人手不足の状況に直面している傾向だ。

人材不足が深刻な業種

業種別で見ると正社員では「旅館・ホテル」が75.6%で人手不足割合が最も高かった。以下、「情報サービス(72.9%)」、「建設(69.5%)」、「メンテナンス・警備・検査(68.4%)」、「金融(63.9%)」と続く。

また非正規社員では「飲食店(82.0%)」を筆頭に「旅館・ホテル(73.5%)」、「人材派遣・紹介(64.2%)」、「メンテナンス・警備・検査(54.9%)」、「飲食料品小売(50.0%)」、「各種商品小売(50.0%)」、「教育サービス(50.0%)」と続く。

雇用形態にかかわらず、「旅館・ホテル」の人手不足は最も深刻であることがうかがえる。

中小企業は大企業よりも人手不足がより深刻

冒頭で紹介した帝国データバンクの調査では、対象となっている企業のうち84.6%が中小企業で大企業は15.4%に過ぎない。このことから人手不足を感じている企業の大部分は、中小企業であると推測される。

2023年版中小企業白書によると、業種によって程度に違いはあるものの、従業員数過不足DI(「過剰」から「不足」を差し引いたもの)はすべての業種で2013年第4半期にマイナスとなった。その後は、コロナ禍を除いてマイナス値(人材不足)は高まる方向で推移している。

具体的には、2023年10〜12月実績で以下のとおりの状況だ。

2024年はさらに人手不足の不安が高まる

人材不足は、企業の景況感にも影響している。日本政策金融公庫「2024年の中小企業の景況見通し(2023年12月発表)」によると、企業が2024年に向けて経営上の不安要素として高いTOP3は以下のとおりだ。

  • 1位:原材料価格、燃料コストの高騰(69.0%)
  • 2位:国内の消費低迷、販売不振(61.7%)
  • 3位:人材の不足、育成難(59.9%)

「人材の不足、育成難」に焦点を絞って見ると、コロナ禍にあった2022年に向けては37.0%、コロナ禍が収束傾向にあった2023年が44.9%、そしてコロナ禍が明けた2024年が59.9%と大幅に増えている。

経営上の不安要素として急上昇してきたからか、経営基盤の強化に向けて2024年に注力する分野として、「人材の確保・育成(65.1%)」とトップに位置していることに注目したい。前年までは「営業・販売力の強化(62.0%)」が首位であったが、今回の調査では人材分野が初めて営業・販売力強化を抜いており、人材不足は喫緊の課題となっていることが読み取れる。

あらゆる業種で人材不足・育成難が進む

中小企業では、すべての業種で人材不足感が高まっていることは先に述べたとおりだ。しかし本調査でも「人材不足・育成難」の割合は以下のとおり、あらゆる業種で高まっている。

人材不足が経営に及ぼす影響-最悪、倒産もあり

すでに人材不足による影響を受けている企業もそうでない企業も、人材不足が進むことによって、企業は具体的にどんな経営上のダメージにつながるのかを理解しておくべきだろう。

日本商工会議所と東京商工会議所が共同で行った調査(※1)によると、人材不足となっている中小企業の約8割は「在籍する人員で業務をやりくりしている」と回答している。ただこの場合、一人あたりの業務量が増えることで効率低下や残業時間の増大、過労などのリスクがあることは経営者として無視できない。

実際に「事業運営の具体的な支障が生じている(納期遅れ、品質・サービスの低下等)」企業は21.6%、「事業の拡大(新規顧客や新規市場の開拓)を見送った」という企業も18.7%と少なくない。他にも「やむを得ず事業を縮小・廃止した」との回答が11.8%あるが、帝国データバンクの調査(※2)でも2023年に人手不足で倒産した企業は過去最多の260件となっている。

※1:日本商工会議所・東京商工会議所「人手不足の状況および多様な人材の活躍等に関する調査(2023年9月28日付)」
※2:帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2023年)」

中小企業が人材不足に陥る要因

人材不足への対策を図るためにも日本企業、とりわけ中小企業が人材不足に陥っている要因を確認しておこう。主な要因としては、以下のものがあげられる。

少子高齢化

日本で少子高齢化が進んでいることは周知の事実だが、先行きの展望でも自然体では毎年50万人規模で労働力人口や就業者数が減少していくことが見込まれる。ITの導入など労働生産性の向上に努める企業も多いだろうが、中小企業では労働生産性向上が労働力人口の減少に追いつかないケースも推測される。

時間外労働の上限規制

人材不足との直接的なかかわりはないが、働き方改革の一環による時間外労働の上限規制も労働力不足に加担しているといえる。大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から時間外労働の上限規制が適用されて原則として月45時間、年360時間を超える時間外労働ができなくなった。この上限規制は、建設事業や自動車運転業務、医師など一部の業種では猶予されていたが、2024年3月末で猶予期間が終了し、同年4月からはこれらの業種も同様の上限規制が適用される。

いわゆる「2024年問題」として建設・自動車運転業などの労働力不足が憂慮されている。

ワークライフバランスと労働環境のアンマッチ化

近年は、働き方や仕事に対する考え方が多様化してきている。しかし中小企業では、就業規則や業務プロセスの見直しなどに対して柔軟な対応が難しい場合も多い。労働者が希望するワークライフバランスと職場の労働条件が合わずに従業員が企業を退職してしまうケースも増えている傾向だ。

人材が流失してしまう企業は、求職者にとっても魅力がなく新たな採用も難しいであろう。

人材不足解決に向けての7つの対策

中小企業の人材不足への対応策としては、大きく分けて人材確保および、生産性向上があげられる。しかし母数となる労働力人口が減少している時代においては、現職労働者の離職を防止するための対策も必要だろう。

以下で具体的な施策を紹介するので参考にして欲しい。

1.従業員を育成し、生産性向上を進める

人材不足の中でまず優先したいのが、現状の人材で業務を遂行することだ。そのために研修などで従業員個々のスキルアップを図り、従業員一人あたりの生産性を向上させる。加えて「業務の棚卸し」を行い「業務マニュアルの作成・整備」などを実施しておくと兼任が必要な場合も対応しやすい。

2.自社の労働条件を改善する

スキルアップは、生産性向上のために必要であるが、時としてより好条件でやりがいのある職場に転職されるリスクもはらむ。そのため優秀で大切な自社人材を留めておけるように、自社の労働条件を改善し、自社でのやりがいを感じてもらうことが大切だ。

賃金や処遇などを改善するだけでなく、例えばフレックスタイム制やテレワークを導入してワークライフバランスを保ちながらより働きやすく、従業員にとって魅力のある職場へと改善する。先に紹介した日本・東京商工会議所の調査でも離職防止や採用の対策として「賃上げ・募集賃金の引上げ」と回答した企業は72.5%と最も多く、次いで「ワークライフバランスの推進」が38.1%と2番目に多い。

労働条件を改善することで、既存の従業員の退職率を低下させるだけでなく、求職者からの応募増加も期待できる。

3.職場環境を改善する

従業員を定着させ、採用を増やすために、労働条件だけではなく、職場環境を改善する施策も考えたい。具体的には、従業員の処遇や配置を左右する人事評価制度の見直し、従業員のキャリアアップのための教育研修、業務・職場・人間関係の管理、福利厚生・安全管理・健康精神衛生などの取り組みがありそうだ。

4.自社の業務プロセスを見直して改善する

テレワークや有給休暇、育児休業などで一時的に担当者が不在になるときにでも他の従業員が代替対応できるように、自社の業務プロセスを見直す対策も必要性が増しそうだ。

具体的には、業務の標準化・マニュアル化、不要業務・重複業務の見直し、業務の簡素化、業務の見える化などを行う。

経営者がリーダーシップを取って業務プロセス見直しを実行することで、職場全体の働き方改革意識が従業員にも芽生えやすい。ただしトップダウン感が強すぎると逆効果になる場合もあるため、注意が必要だ。

業務プロセスの見直しは、生産性の向上につながり、企業の収益を高める。業務プロセスの施策を実行した企業は、施策を行わなかった企業に比べて、収益力が向上し、多様な人材の活用も進む。

5.多様な人材を活用する

生産年齢人口の減少をターゲットにした解決策として女性・シニアなどの活用をすでに実施している企業もあるだろう。しかし労働者の年齢や家庭事情によっては出産や育児、介護等との両立が難しく離職を余儀なくされる場合があることも事実だ。経営者としては、労働者が離職の道を選ばなくても済むように政府の両立支援制度も活用しながらテレワークや時短勤務など社内体制の整備も検討してほしい。

また外国人材の受け入れを検討することも選択肢の一つだ。日本・東京商工会議所の調査によると、すでに外国人材を受け入れている企業(26.6%)を含め、受け入れに前向きな企業は56.9%と過去最高となっている。

6. 外部アウトソーシング業者を活用する

企業によっては、受注の増加や繁忙期・閑散期の業務量の変化などに対応した人材を確保するために、外部アウトソーシングを活用している。アウトソーシングを活用している業務は、生産、建設、物流、情報処理などがあげられる。

7. IT化によって省力化を図る

IT化によって、財務・会計業務や、人事労務などを省力化している企業も多い。現状では、電子メールやワードやエクセルなどのオフィスシステムをIT導入と認識している企業の割合が高い。IT化は給与や経理関連業務に多く採用されているが、IT化の効果が期待できる受発注や顧客管理業務などへの導入の余地は多くある。

IT化を進めた企業では、人材不足が深刻化する中でも、業績を伸ばしている企業が多く存在する。

IT化を成功させるためには、経営者がリーダーシップを取って、導入の目的や目標を明確化すること、IT化専任部署を設けたり専任の担当者を配置したりすることが望ましい。導入したITツールとしては、業務パッケージソフトや開発したシステム、クラウドサービスなどがあげられる。

人材不足の中小企業が行った4つの成功事例

人材不足解決に向けての具体的な7つの施策を紹介したが、実際に施策を実行して成果を出している企業がある。

有限会社 COCO-LO

有限会社 COCO-LOは、群馬県桐生市にある、訪問看護事業所、通所介護事業所、居宅介護支援事業所、リハビリジムを運営する企業だ。有限会社 COCO-LOの人材不足解決に向けての施策の中心は、女性が働きやすい職場環境整備である。

具体的には出産、育児など多様なライフスタイルに応じた勤務形態を可能にする各種支援制度として「準社員制度(短時間正社員制度)」「ならし勤務制度」「育児休業制度」を実施した。

女性が働きやすい職場環境整備を実施した結果、地域での認知度が向上し、求職者からの問い合わせが常時くるようになった。また、求人をかけると人材の応募が殺到するようになり、女性に限らず、多様な人材の確保を実現している。

株式会社加藤製作所

株式会社加藤製作所は、岐阜県中津川市にあるプレス板金加工の企業である。加藤製作所の人材不足解決に向けての施策の中心は、シニア人材の活用である。

加藤製作所は、顧客のリクエストに応えて収益拡大のために、土日祝日の工場稼働を検討したが、人材不足という大きな壁に阻まれた。そこで、社長が発案したのがシニア人材の活用である。

シニア人材の活用によって、工場の365日稼働をほぼ実現できており、現在では、企業の従業員の半数がシニア人材となっている。当初は土日限定のシニア人材の活用であったが、現在は平日も勤務するシニア人材が増加している。若手や中堅の仕事と決めていた業務であってもシニア人材に任せられるものは担当させるという方針も取っている。

株式会社荒木組

株式会社荒木組は、岡山県岡山市にある総合建設業である。荒木組は厚生労働省が創設した「働きやすく生産性の高い企業・職場表彰」で2018年度中小企業部門最優秀賞に選ばれた企業のひとつだ。荒木組の人材不足解決に向けての施策の中心は、職場環境の改善と能力教育である。

・職場環境の改善

「ありがとうカード」で感謝の気持ちを役職員に伝える取り組みを導入し、お互いを尊重できる職場風土づくりを行った。そのほか、休暇取得の促進のため年次有給休暇に上乗せして、祝日の日数分、「家族休暇」を付与した。

・能力教育

建設業はさまざまな工種の協力会社と連携して事業を行う。そのため、協力会社とともに学び、コミュニケーションを取ることが重要だ。荒木組は、毎月3回、協力会社の職長を育成する勉強会「アラキ・アカデミー」を実施している。

能力教育の施策を実施した結果、人材育成をする余裕がない協力会社がさらに安全管理などを適切に行うことにつながり、荒木組従業員の管理負担や労働時間の削減につながっている。

建設業は3K(きつい・汚い・危険)と呼ばれ、離職率も高く人材不足が深刻な業界といわれている。そんな中で、荒木組は自社の役職員と関連して事業を行う協力会社とともに、従業員が働きやすい企業を目標に施策を行っている。

アップコン株式会社

アップコン株式会社は、神奈川県川崎市にある建設業である。アップコン株式会社は、株式会社荒木組と同様、厚生労働省の「働きやすく生産性の高い企業・職場表彰」で2018年度中小企業部門最優秀賞に選ばれた企業のひとつだ。アップコン株式会社の人材不足解決に向けての主な施策は、次の4点だ。

・職場環境を改善

アップコン株式会社は、職場環境の中でも従業員の健康について注力している。企業理念として「健康第一」を掲げ、施策として「健康活動ポイント制度」を導入した。健康活動ポイント制度とは、従業員が、ウオーキング、禁煙などを行うことによりポイント付与する制度で、獲得したポイントはギフトなどと交換できる。健康活動ポイント制度実施の成果として、従業員の病欠や遅刻が大幅に減少した。

・従業員を育成

アップコン株式会社は、従業員のチャレンジ精神を育成するために、資格取得を推進している。具体策として、全職員に日本語検定受検を必須とした。その結果、コミュニケーション能力の向上や報告書作成時間の短縮が実現した。

・自社の業務の見直し、改善

アップコン株式会社は、自社の業務の見直し・改善として、業務に新技術を採用することで、生産性を向上させた。具体的には、従来2名体制で行っていた施工や調査の業務に、実用新案を取得した新技術を導入し、1名で実施可能とした。

・多様な人材を活用

アップコン株式会社では、定年退職制度がなく、年齢による処遇変更をしていない。80歳以上まで勤務していた従業員もおり、シニアや高齢者の人材を活用できる環境が整備されている。

厚生労働省の支援策に着目しておく

中小企業の人材不足の問題は、企業だけの課題ではなく、日本の国の問題として大きく取り上げられている。

厚生労働省では、人手不足が深刻化する中でも、特に今後必要とされる、「看護・介護・保育」といった、社会保障関連の業界や、大きな人手不足が叫ばれる「建築」業界において、「雇用管理改善支援」「求人と求職のマッチング支援」「能力開発支援」「非正規雇用労働者の正社員化支援」をはじめ、いくつかの支援策を実施している。

厚生労働省では上記業界のみならず、人手不足の解決に向けて、従業員にとって魅力的な職場を目指す企業向けのポータルサイトを運営している。さらに、相談窓口を配置、雇用管理改善のコンサルティングも実施している。

各種助成金や働きやすく生産性を向上させた企業の成功事例も紹介しているので注目したい。

社会環境をとらえ自社の問題点を改善することで人手不足を解決する

人手不足の要因となる日本企業の置かれている社会環境自体は、企業努力で変えられるものではない。大切なことは、現在から将来に向けて急速に変化していく社会環境をしっかりととらえることだ。現状と将来を見据えて、施策に取り組み、自社の問題点を改善することで、人手不足を解決していくのである。

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