Meta(旧Facebook)は、社運を賭けたメタバース事業が不調だ。2021年第4四半期(10~12月)にメタバースAR/VR(拡張現実/仮想現実)部門が1兆円以上の営業赤字を計上し、時価総額が米企業史上最大の約29兆円の急減となるなど、苦戦を強いられている。
ユーザー流出で伸び悩むFacebook 期待外れの四半期決済
2022年2月2日にMetaが発表した決算報告は、同社が重大な分岐点に立っていることを市場に知らしめる内容だった。
長年にわたり、SNSの頂点に君臨してきたFacebookだが、成長の鈍化は隠しようがない。新型コロナの巣籠消費でユーザー数の伸びは一時的に息を吹き返したものの、将来の主要顧客候補である若年層は確実にTikTokやYouTubeなどの他のSNSやメディアに流れている。
第4四半期の月間アクティブユーザー数は、29億1,000万人と前四半期からほぼ横ばい状態で、アナリスト予想を4,000万人下回った。さらに、1日のアクティブユーザー数は19億3,000万人と四半期ベースで初めて減少した。
2022年第1四半期(1~3月)の売上高は270億~290億ドル(約3兆 1,184億~3兆3,494億円)と、これも予想を大幅に下回る見通しだ。
約29兆円消し去った「メタショック」
特に不穏な空気を醸し出しているのは、社名を変更してまで挑んだ戦略転換であるメタバース事業だ。
メタバースAR/VR部門リアリティラボ(Reality Labs)の投資を含む業績が初めて公表されたが、営業損益は33億ドル(約3,812億5,543万円)の赤字だった。2021年通年の赤字は、総額102億ドル(約1兆1,784億円)にものぼる。人件関連コストや研究開発営業費用などが48%増加したことを考慮しても、不透明さは否めない。
売上高は前年同期比22%増の8億7,700万ドル(約1,013億 4,657万円)だったが、市場の動揺を抑制する材料としては不十分だった。ブルームバーグ紙によると、決算報告後に同社の株価は26%急落し、時価総額から2,513億ドル(約29兆353億円)が一瞬にして吹き飛んだ。米企業の1日の時価総額損失額としては史上最大規模である。
FRB(米連邦準備理事会)の金利政策転換の影響から、2022年に入りテクノロジー株のボラティリティが高まっている状況を踏まえると、Meta株の反発もあるかもしれない。しかし、決算発表後に株価が上昇したAlphabet、利益と収益が予想を上回ったAppleとMicrosoftなどと比較すると、Metaの将来に対する懸念が広がるのももっともなことだ。
「理想のメタバース」に温度差?約7割が「興味ない」
同氏が巨額の資金を投じて入れ込んでいるメタバース事業は、果たして同氏が期待しているほどの成功をもたらすのだろうか。
ザッカーバーグCEOはメタバース構想を介して、「もう一つの世界(Another World)」を構築しようとしている。人々がまるで現実の世界にいるように、仮想空間で活動し、リアルなコミュ二ケーションを楽しめるというものだ。主要ターゲットとして想定しているのは、Z世代(1980~1995年生まれ)とそれより若いデジタル世代だろう。
ところが、一般のSNSユーザーとザッカーバーグCEOの理想とするメタバースの温度差を示す、複数の調査結果が報告されている。
米調査企業モーニングコンサルトの調査では、回答者2,000人のうち68%が「メタバースに興味がない」と回答した。メタバースの支持率が高かった世代であるミレニアム世代ですら、興味があるのは半分以下の割合(46%)だった。
それでは、どのような層がメタバースに関心をもっているのか。
香港のメタバースゲーミング企業アドヴォケイトグループ(Advokate Group)が米消費者1,000人を対象に実施した調査では、メタバース参加者の全員が「メタバースでお金を稼ぎたい」と回答した。これらの回答者の主な関心事は、「Play-to-Earn(遊んで稼ぐ)」をコンセプトとする、収益化できるNFTゲームやブロックチェーンゲームだ。
IZEAが米成人インターネットユーザーを対象に行った調査では、SNSのインフルエンサーの約70%が「メタバースは既存のSNSに取って代わる」と確信しており、56%がすでにメタバースを利用していることなどが判明した。
もちろん、少数の調査結果だけを見て、メタバースの将来性を予測するのは早急過ぎる。しかし、これらの調査結果を見る限り、大半の消費者がメタバースに求めているのは収益性の高いエンターテイメント要素であり、ザッカーバーグ氏の唱える「もう一つの現実」ではないようだ。
消費者の不信感も足かせに?
MetaがFacebook時代から直面している数々の個人情報保護問題が、メタバース事業の足かせになっている可能性も否定できない。
この仮説を裏付ける調査結果がある。
前述のアドヴォケイトグループの調査では、メタバースに関心がある回答者の77%以上は、Metaがユーザーデータを所有していることについての懸念を示した。また、87%が「Metaの運営するメタバースよりブロックチェーンベースのメタバースを利用したい」とも回答した。
一方、中小企業向け顧客体験ツールを提供するポーランドのスタートアップ、ティディオ(Tidio)が実施した調査からは、回答者1,050人のうち77%が「メタバースはユーザーにとって有害である」と考えていることが分かった。「仮想世界への依存性(46%)」に次いで最も多かった理由は、「プライバシー問題の急増(41%)」だった。
戦いは始まったばかり……
JPモルガン・チェースやモルガン・スタンレーなど大手投資会社は、決算発表後、軒並みMetaの目標株価を引き下げた。しかし、これらの専門家が指摘しているように、短期的な不確実性は高まっているものの、長期的な展開はまだまだ未知の世界である。
足元の問題は大黒柱であるFacebookの低迷と広告事業の減速、メタバース事業の莫大なコストという三重苦と、Metaがどこまで戦い続けられるのかだ。戦いは始まったばかりである。
文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)