現状維持バイアスの本質とは?その具体例と克服法を解説
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日常でも仕事でも、人が何かを判断するシーンに直面した時に、リスクを覚悟の上で変化を求めるケースは極めて少ない。多くの場合は危険を避けて、現状維持を選択する。多くの人が抱くこうした心理効果は「現状維持バイアス」と呼ばれる。

現状維持バイアスとは、決してネガティブにとらえるべき心理ではないが、ビジネスの局面においては、現状維持バイアスが負の方向に作用する可能性がある。では、それを回避するためのポイントは何か、ここから現状維持バイアスの本質に迫ってみよう。

目次

  1. 現状維持バイアスとは?
    1. 現状維持バイアスの基礎的分析
    2. 心理学、行動経済学との関連性
  2. 現状維持バイアスの具体例
    1. 日常生活における現状維持バイアス
    2. ビジネス分野での現状維持バイアス
  3. 現状維持バイアスの原因と克服法
    1. 現状維持バイアスの原因
    2. 現状維持バイアスの克服法
    3. ビジネス分野への活用
  4. バイアスは誰にでもある自然な心理
  5. 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ

現状維持バイアスとは?

現状維持バイアスとは、「Status Quo Bias(ステイタス・クオ・バイアス)」としてアメリカを中心に認知されている心理的概念である。本来バイアスとは「偏見・先入観」などの偏った見方を表す言葉であり、現状維持バイアスは現在の状態を維持する方向に働く、人が潜在的に持っている心理的効果と言えるだろう。

ただし、まだ日本では現状維持バイアスという考え方が、広く認知されているとは言い難い。そこで最初に、アメリカでの分析記事をもとに、現状維持バイアスの基礎と定義について解説する。

現状維持バイアスの基礎的分析

現状維持バイアスとは、意識面での傾向・誤認識や心理面での責任など、複数のバイアスが関わり合うことで生じる。さらに現状維持バイアスには、人間が本質的に持つ変化を避ける特性が大きな影響を与える。

例えば我々が何かを選択すべき状況に直面した時、選択肢の中から最もリスクと変化が大きいものを選ぶことは、ほとんどのケースでありえないだろう。通常なら現在の状況の延長線上にあり、その状況を長く維持できる選択肢を選ぶはずだ。

しかも、より効率的で優れていると感じられる選択肢があっても、過去に実際に体験した事実にもとづき、心理的に安心できる選択肢を選ぶ。具体例として投資家の心理を考えてみよう。

投資の世界では日常的に多くの選択肢に直面するが、経験豊かな投資家でも、実際に投資先を選ぶ時には現状維持バイアスが起動する。他に多くの投資先があるにもかかわらず、投資家は無意識に現状維持を基準に投資先を選ぶのである。

こうした事例は日常生活でも、いたるところで見られる。服を選ぶ時、試験の問題に答える時、自動販売機の前に立った時など実例には事欠かない。このバイアスの裏にあるのは、コスト面でのリスクや失敗を避けたいという心理である。つまり現状維持バイアスを乗り越えるとしたら、新たな成功体験を手に入れるしかないとも言えるだろう。

心理学、行動経済学との関連性

現状維持バイアスはその性質から、心理学や行動学により分析されることが多い。こうした学問分野では、合理性や先行経験、損失や後悔という要素をもとに現状維持バイアスを解説している。

例えば、過去の体験を先行経験として定義し、さまざまな選択肢に対して先行経験がポジティブな場合、現状変更よりも現状維持のほうが損失や後悔が少ないと判断されるため、現状維持バイアスが働くと紹介されている。この状況では、合理的な意思決定の余地は少ないという。

現状維持か現状変更かという選択肢の前では、人は合理的思考に頼らず、現状を変えた場合に失うかもしれない物事を踏まえ、損失と後悔を事前に回避することを選ぶ。これが、現状維持バイアスが働く基本的な仕組みと考えてよいだろう。

現状維持バイアスの具体例

我々のほとんどは、慣れ親しんだものに執着する傾向が強く、日常生活や仕事上でも大きな変化を好まない。そのような観点から、ここでは日常的に起こりうる現状維持バイアスの具体例を見てみよう。

日常生活における現状維持バイアス

・通勤通学の時にいつも同じ道を通り、電車やバスでも毎回同じ席に座るなど、日常の小さな選択でも現状維持バイアスが働いている

・アメリカでコカ・コーラ社が、新しいコーラを開発した時に、事前のテストでは多くの消費者が新商品の味を好んだにもかかわらず、新旧2つの商品を実際に売り出してみると、かなりの割合で消費者は旧タイプのコーラを選択したという

・人が食事に行く時に、いつも決まったお店で決まったメニューを注文することも、現状維持バイアスの具体例であるかもしれない

・ドイツのある街では、工業地帯の拡張により住民がすぐ近くのエリアに移住を迫られた。新しい居住地では、住みやすくするためのさまざまなプランが提案されたが、住民が選択したのは移住前の街とほとんど変わらないレイアウトだったという

こうした具体例を挙げればきりがないが、普段の生活の中で誰もが経験する購買活動、資産運用、恋愛などでも無意識のうちに現状維持バイアスが働く場合がある。むしろ現状維持バイアスが生じないケースのほうが、ずっと少ないかもしれない。

ビジネス分野での現状維持バイアス

ビジネス分野で最も重大な選択肢、それは企業経営に関わる判断になるだろう。今後の経営方針を策定する時、取引先を開拓する時、事業開拓をする時など、あらゆるシーンで経営者は現状維持バイアスを体験するはずである。

特にマーケティングでは分析と判断を迫られるケースが多く、思い切った判断が必要になるかもしれないが、多くの経営者や経営陣は現状維持を選択すると考えられる。また、何に投資をするべきか、資本投下でも損失を避ける傾向が強いのではないだろうか。

一方、企業で働く従業員に関しても、なるべく転職などによるリスクを回避して、同じ企業内で仕事を続けたいという傾向が強いと考えられる。これも現状維持バイアスの現れであろう。

現状維持バイアスの原因と克服法

ここからは、先行する分析結果にもとづいて、現状維持バイアスの原因と克服法について解説する。さらにこれらの知識をもとに、ビジネス分野で現状維持バイアスに対処する方法についても考えてみよう。

現状維持バイアスの原因

現状維持バイアスは一つの原因により生じるものではなく、いくつかのバイアスが相互作用しながら人の判断に影響を与えることで現れる。これらのバイアス、つまり原因の主なものを以下順番に紹介する。

①選択の麻痺(Choice Paralysis)
選択肢のあまりの重大さに圧倒された経験を持つと、次に判断する機会を迎えた時、安全だと分かっている選択肢か、何もしないという選択肢を選ぶ傾向が強まる。

②損失に対する嫌悪(Loss Aversion)
研究結果によれば、人は何かを手に入れることよりも、何かを失わないことのほうに重点を置くという。そのため現状変更による損失を回避して、変化をともなわない選択肢を選ぶ傾向が強くなるのだ。

③先行経験(Mere Exposure Effect)
人は過去に経験した選択にとらわれることが多く、経験を重ねるたびにそれが先行経験になり、常に現状維持バイアスが生じることになる。つまり先行経験が現状維持を強め、それが新たなバイアスとなることで、現状維持バイアスが繰り返されるわけである。

④サンクコスト効果(Sunk Cost Fallacy)
ある対象に時間やお金などを注ぎ込む場合、人は以前と同じ条件のもとで労力を費やすことを好む。たとえその労力が合理的ではないと分かっていても、損失と後悔を回避するために現状維持を選択するのだ。

⑤認識の不一致(Cognitive Dissonance)
過去に経験のない選択肢を前にすると、人は自身の認識との不一致を感じることになり、それを消去するために過去に経験した認識をもとに判断を再構築しようとする。これは、不快な感情を回避する行動とも深く関わっている。

現状維持バイアスの克服法

現状維持バイアスは、現代社会の政治・経済・生活などの全分野で影響力を発揮している。これを正しい方向に向かわせるための克服法としては、他者の意見を聞いてみることが最も効果的かもしれない。

例えばビジネスの現場で判断に迫られている人、特に重大な責任を負っている人は、主観的な考えからなるべく危険を回避しようとするだろう。経営上の損失と後悔を味わいたくないからだ。しかし現状維持バイアスに判断を任せてしまうと、ビジネス・チャンスを棒に振る可能性もある。

この時点で自身が現状維持バイアスの影響下にあることを知るのは難しいため、適切なアドバイスが得られる相手に意見を聞くとよいだろう。企業内に、第三者の観点から経営アドバイスができる仕組みを作っておくのも一つの方法だ。

また、人による判断とは別に、各種システムによる数値面での分析結果を参考にすることも、主観を排除して現状維持バイアスの影響をなくすためには効果的かもしれない。

ビジネス分野への活用

多くの人が現状維持バイアスに影響されることを利用して、効率的なビジネス・モデルを作ることも可能である。顧客との契約関係を結ぶのであれば、契約更新時には自動的に同様の内容に更新できるようにしておくと、安定的に顧客数を維持できるだろう。携帯電話の契約を例にとっても、他社に乗り換えるより同じ会社の携帯を使い続けるほうが、圧倒的にユーザー数が多いのである。

さらに人材確保の点でも、現状維持バイアスを逆手に取ることができる。転職のリスクにより失うものと、現在の職場で継続的に働くことのメリットを対比して、それを従業員に認識してもらえば、貴重な人材を失う危険性を減らすことができるだろう。

バイアスは誰にでもある自然な心理

なかなかチャンスをモノにできないという場合には、自身が何らかのバイアスに影響されていないか、一度疑ってみたほうがよいかもしれない。選択肢が重大になればなるほど、我々は失敗した時の損失を恐れる。その結果さまざまなバイアスが融合して、現状維持バイアスが起動するのだ。

しかし、これは決してマイナスに働く心理作用ではない。現状維持バイアスを排除して、自ら危険な賭けに出られる人は、全体から見ればほんのわずかに過ぎない。我々は自分の中にある複数のバイアスにより、危険から守られているとも言える。ただし、大きなチャンスを手に入れたいと思ったら、時にはバイアスを外してみることが必要なのではないだろうか。

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金城寛人
金城寛人
中小企業診断士・株式会社エルニコ執行役員
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