医者が教える「ヤブ医者」の見分け方
金子俊之(かねこ・としゆき)
とうきょうスカイツリ―駅前内科院長・医学博士。1979年東京都生まれ金沢医科大学医学部卒。順天堂大学大学院医学研究科修了。日本リウマチ学会専門医・指導医。日本内科学会認定医。リウマチ・膠原病内科の名医。幼少の頃より動物や人体に興味を持ち医師を目指す中、基礎研究と臨床両方の経験を積めるリウマチ・膠原病を専門に力を注ぐ。大学卒業後は初期研修からリウマチ・膠原病領域で権威のある順天堂医院で学び、日本リウマチ学会専門医・指導医を取得。患者は30〜40代といった比較的若くリウマチを発症した女性が多く、都内だけでなく、関東近郊・全国からも来院する等、好評を得ている。また、専門分野に留まらず、医学業界(病院・医者)について鋭い発言を放つ等、今話題を呼んでいる期待の若手医師!

※画像をクリックするとAmazonに飛びます

健診内容から判別 健診結果を誤診しつづける医者

健診医療機関で働いている医者のほとんどがヤブ医者だということは繰り返しお話ししました。

なにしろ流れ作業で検査をおこなうのですから、彼らが思慮深く診察をすることはありません。そのため延々と健診結果を誤診しつづけている可能性が高いのです。

誤診されやすい健診には、

・触診
・心電図
・膠原病チェック(抗核抗体・ANAという項目の採血)
・リウマチチェック(RF・RAといった項目の採血)
・その他一般的な採血
・オプションのMRIやCTといった検査

などがあります。

それぞれについて詳しく説明しましょう。

~触診による誤診~

かつて私が健診医療機関でアルバイトをしていたときです。600人中300人ぐらいの人に、触診だけで

「甲状腺が腫れてますね」

と言っている医者がいたのを今でも強烈に覚えています。触診だけで600人中300人もの患者さんに平気でそんなことを言ってしまうのですから一体どんな神経をしているのだと、私は驚きを隠せませんでした。

とにかく健診医療機関にいる医者には、とんでもないヤブ医者がいるという事実だけは知っておいてください。

甲状腺炎など確かに甲状腺が腫れる病気はあるのですが、それは触診より採血やエコーでないと正確に診断できません。

その様子はまるで、何百人の患者さんを工場のベルトコンベヤーのようにあっちからこっちに流して、誤診を繰り返しているようなものです。

一体どうしたら600人中300人の甲状腺に異常があるなどと考えられるのでしょうか?

しかも、そういった方がたまたま一人などではなく、私が確認しただけでも十数人いました!(つまり、私も若いときには結構健診バイトに行ったということになりますね)。

そうやってヤブ医者に誤診されたせいで不安を感じた患者さんは慌てて内分泌内科に来院しますので、甲状腺内分泌内科に最近患者さんが増えています。

~心電図による誤診~

心電図による健診は安価で、体にとくに痛みを感じることがないので、健診する分にはなんの問題もありません。

しかし心電図による判断については循環器の勉強をちゃんとした医者がしっかり診ないとよくわからないケースがほとんどです。

心電図の機械にはコメントが出てきて自動で機械判定してくれます。ある健診医療機関の医者は自分の頭で考えることを一切せず、心電図の機械判定をそのまま診断書に記載しています。

本来医者というのは機械判定を鵜呑みにするのではなく、自分の頭で判定しなければいけません。

そのため健康診断の心電図の結果欄に平気で「急性心筋梗塞」などと書いてしまうのです。

もしも、その患者さんが本当に急性心筋梗塞であれば非常に緊急性の高い病気なので今頃は亡くなってトラブルにもなっているはずです。

そんな緊急性の高い病名を機械の判定通りに鵜呑みにして健診結果に平然と書く医者というのは、医者として失格ともいえるレベルではないでしょうか。

心電図で検査すること自体は悪くありませんが、きちんと患者さんの年齢や性別、処方歴やバックグラウンドなども加味したうえで考えられる医者でなければ診断の評価はとてもむずかしくなります。

ヤブ医者に大きな病気だと誤診されたせいで患者さんがあとでトラブルに巻き込まれるケースだけは避けていただきたいのです。

~膠原病・リウマチチェックによる誤診~

健診医療機関にはがんチェック同様に、膠原病・リウマチチェックなどもあります。

たとえばリウマチチェックでは、RFという項目を採血し

「あなたは関節リウマチの可能性が高いですよ」
とか
「あなたはリウマチの可能性はありません」

など平気で書く医者がいるのです。

そんな簡単に膠原病・関節リウマチの診断がつくならば専門医なんていりません。

健診医療機関にいるヤブ医者は、検査項目やそれを判断するための感度や特異度についてもまったく理解できていません。

関節リウマチも膠原病もいろいろな角度から判断する必要があるので、採血だけで はわかりません。

それなのに診察を少しやっただけで

「関節リウマチの可能性あり」

と誤診するヤブ医者が本当に多いのです。

そんな無責任なヤブ医者に誤診されるたびに、患者さんは不安を煽られるだけです。

先日、私のクリニックに

「健診医療機関で関節リウマチの可能性が高いといわれたので診てください」

と言う患者さんが来院しました。

受診したところリウマチ因子の値は18程度でした。実は、女性は健康でもRFが少し高い方というのがたくさんいらっしゃるのです。

関節リウマチは基本的に採血ひとつで判断するものではありません。

やはり症状ありきの病気ですから、関節リウマチの症状がまったくなければ、基本的には経過観察で治療することはないのでがんのように未然に見つけて防ぐ病気でもありません。

未然に見つけて重症化を防ぐのが健診でありスクリーニングの目的なので、関節リウマチとか膠原病はそもそも健診やスクリーニングには適していないといえます。

リウマチ因子が高いということだけで誤診を受けてしまった患者さんは、慌ててインターネットを使って情報を収集します。

関連サイトを見ると、

「リウマチは不治の病で手足の変形は絶対にさけられない。寿命も短くなる」

といった内容が書かれているものが多いので、それを読んだ患者さんは、真っ青な顔をして私のクリニックに来院します。

健診医療機関で誤診を受けたうえに、さらにウェブでも間違った情報が書かれていたら……。

その患者さんの不安は相当なものでしょう。

そんなことが起こらないようにするためにも健診医療機関で膠原病・関節リウマチチェックをやるべきではありません。そもそも誤診につながるような無駄な検査はすべて排除していくべきだと思います。

~採血による誤診~

健診医療機関で採血をする機会は非常に多いでしょう。

しかし、これも誤解が多い項目です。

LDLコレステロールが基準値をちょっとはみ出しただけで「異常」とすぐに誤診してしまうヤブ医者には注意が必要です。

その患者さんの既往歴や状況をしっかりと把握したあとで、このレベルであれば治療しなくていいとか数値としては異常値で高いときは問題があるが、低いときは問題ない、などトータルで判断することが大切です。

それなのに機械的に判断した結果、

「LDLコレステロールが低値です。すぐに専門医療機関を受診してください」

などと記載されるのです。

低コレステロールにいったいどのような治療法があるのでしょうか?

また専門医療機関とはどこにあるのでしょうか?

受診を勧めるならせめて当該医療機関を紹介すべきです。

本来、健診医療機関というのは、どこがどう異常なのかを正しく判断してどこを治療すべきかを患者さんに明確にする役割があります。

そんなこともできずに、ただ患者さんの恐怖や不安をあおるだけの健診医療機関が世の中にはたくさん存在しているのです。

~MRIによる誤診~

MRIは、撮影から得られる情報量が多い検査のため最先端の機械といえるでしょう。高精度でいろいろな情報が得られる検査なので診断にも有用なのは事実ですが、それを診て判断するのがヤブ医者だと宝の持ち腐れになってしまいます。

今はMRIも非常に解像度が進んでいて、正直に申し上げると通常の診療科の医者では読影がしきれないのが現状です。

それにもかかわらず経験不足の医者が流れ作業のようにデータを読影してしまい誤診につながっているケースが多いのです。それに、整形外科などのクリニックでCTやMRIを導入してしまい、元をとるために無駄に検査をしてしまう医療機関もあります。

そもそもMRIなどは町の開業医が簡単に読影できるレベルのものではありません。そのため、MRIを受けるときは、放射線科の専門医の医者とダブルチェックしてくれるようなしっかりとした医療機関を選ぶようにしてください。

関節リウマチのMRI検査でも滑膜の評価をする機会がありますが、非常に読影が難しいうえに造影剤を使用して評価をしなくてはいけないので、私は必ず放射線科の医者に読影してもらうようにしています。

中小病院の整形外科でMRIを撮ったときに「異常なし」と判断された患者さんが後になって「腰が痛い」と訴えてきたので改めてMRIの専門医に読影してもらった結果、腰部脊柱管狭窄症だったケースもあります。

だからこそMRI検査の読影については慎重にならなければいけません。

そもそもMRIのように先端技術が導入された機械の読影を無知なヤブ医者に任せるのはもったいないだけではなく、危険極まりない行為ともいえるでしょう。そしてあなた自身の身を守るためにも、MRIなどの複雑な検査をおこなうときは必ず信頼できる専門医に相談するようにしてください。

これまで私は健診医療機関での誤診されやすい健診(触診・心電図・膠原病・リウマチチェック・採血・MRI検査)についてそれぞれ説明しました。

繰り返しますが健診医療機関にはとにかくヤブ医者が多いのです。

検査数値が異常かそうでないかだけでしか判断できないヤブ医者がたくさん存在するため、その分誤診も多くなります。

みなさんが検査をしたときに、かりに「要治療」と診断されても冷静に対応するようにしてください。

本書を読んで、
「健診に行くのが怖くなった」
なんて思った方もいるのではないでしょうか。

しかし、何度も申し上げているとおり

・乳がん
・大腸がん
・胃がん

など日本人がなりやすい病気を早期発見するためにも定期的に健診を受けることはとても大切です。

ですから余計なオプションを省いたベーシックな健診だけは毎年必ず受けてほしいと思っています。