D2C(DtoC)とは、「Direct to Consumer」の略だ。自社で企画・製造した商品を消費者に直接販売するビジネスモデルを指す言葉である。他の会社や小売業者を通さず直接消費者とつながるD2Cが注目されるようになった理由には何があるのだろうか。本記事では、D2Cが注目されるようになった理由、および導入のメリットやデメリットについて紹介する。
目次
D2Cとは?
まずD2Cとは、どのようなビジネスなのかを確認しておこう。D2Cでは、自社で企画製造した商品を消費者に直接販売する。販売を仲介する会社や小売業者を通さず、「楽天市場」「Amazon」といったプラットフォームサイトの利用も行わない。多くは、自社の通販サイトを利用するのが特徴だ。またD2C企業は、実店舗ではなく多くがECサイトで運営している傾向にある。
そのため実店舗での販売の補完を目的に通販部門を持っている「ユニクロ」などはD2C企業には当たらない。なおD2Cと混同されがちな用語に「B2B」「B2C」というものがある。これらとの違いも確認しておこう。
・B2B(BtoB):「Business to Business」の略、企業同士での取引を指す言葉
・B2C(BtoC):「Business to Consumer」の略、企業と消費者の取引を指す言葉
B2Bは、企業間の取引だがB2Cは対消費者という意味でD2Cと同じではある。しかしD2Cが製造も自社で行うのに対しB2Cでは製造は行わない点が大きな違いだ。ちなみに消費者に対して販売のみを行う楽天市場やAmazonなどはB2Cに該当する。
D2Cの特徴
D2Cの特徴を、さらに詳しく見て行こう。従来のB2Cとの違いも踏まえつつ、D2Cの特徴をしっかりと把握してほしい。
顧客に直接販売・コミュニケーション
自社で企画・製造した商品を顧客と直接コミュニケーションし、販売する点がD2Cの最も大きな特徴だ。販売チャネルは、自社サイトやTwitter・InstagramといったSNSなどがある。顧客と直接やり取りをする人件費などは増加するが、中間業者を挟まない分、顧客情報を蓄積しやすくよりよい商品開発につなげられるメリットは大きい。
またSNSを使用したインタラクティブなコミュニケーションにより、顧客のロイヤリティを高め、自社商品のファンになってもらいやすくなる点も見逃せないポイントだ。
顧客との関係を深めてLTV(顧客生涯価値)を高める
LTV(Life Time Value)とは、顧客生涯価値という意味で顧客が企業と関わっている間に商品を購入する金額の合計を指す。D2Cにより顧客とSNSなどを使用してコミュニケーションを進めることで、ファン化する顧客が増えLTVが高まる。ただしLTVを効果的に高めるためには、自社製品のターゲット層を正確に把握し、ターゲット層に合わせた情報発信などの工夫も必要だ。
中間コストカットによる低価格での商品提供
顧客に直接販売するD2Cでは、中間業者を通さないため、中間コストをカットできる。直販に必要なコストを差し引いても中間業者を通すより低価格かつ高品質な商品を提供できる可能性もあるだろう。顧客にとって、以前よりも低価格かつ高品質の商品を購入できることは大きなメリットだ。商品のファンになってもらえる可能性も高まる。
D2Cが注目される背景
D2Cが注目されるようになった理由についても触れておこう。
コストを抑えられる
自社サイトでの販売が主となるD2Cでは、店舗の運営費が不要で中間業者も入らない。そのためコストを抑えられるという特徴がある。近年D2Cが注目されるようになった大きな理由である。また企業運営にコストがかからないため、商品価格を下げることも可能だ。消費者側から見てもD2Cには、メリットが多いだろう。
消費者の意見を取り入れやすい
D2Cは、消費者の動向に特に敏感なファッション業界や化粧品業界雑貨類のメーカーが取り入れていることが多い。その理由には、D2Cは消費者の意見を受け取りやすい点がある。例えばファッション関係のD2Cであれば「どのようなデザインがいいか」「どのような素材の服を着たいか」などについてもアンケートで消費者に尋ねることが可能だ。
このようなアンケートの結果を今後の商品企画に活かすことが期待できる。
ネット通販に抵抗がある人が少なくなった
2000年代以降、インターネットの普及によりネット通販が広く普及した。さらに2020年の新型コロナウイルス感染拡大により巣ごもり需要が増加し店舗にショッピングに行く習慣も薄れつつある。自宅に居ながらネットで買い物をする流れにシフトしてきているのだ。総務省統計局の調査でもネットショッピング利用世帯の割合は、2020年5月時点で50%(前年同月は40%程度)を超えている。
これは、2002年に調査を始めて以降最も高い数字だ。ネットショッピングの利用は、若者世代に限ったことではない。例えば2020年4月時点で65歳以上の世帯におけるネットショッピングの利用率は27.1%、同5月が30.3%と約3割を占めている。年齢や世代を問わずネットショッピングを利用にするようになったことがD2Cの後押しになったともいえるだろう。
消費者の考え方の変化
D2Cが注目されるようになった背景には、消費者の考え方が変わってきていることも関係している。以前は「皆が持っているものが欲しい」「必要なものが買えたらよい」「なるべく安く買えるところを探している」という消費者も多かった。しかし近年は「自分の考えに近いブランドの商品が欲しい」「商品を購入する前にメーカーの想いまで知っておきたい」という人も増えている。
百貨店などの実店舗やショッピングのプラットフォームサイトではなく、わざわざD2Cのサイトを訪問しメーカーやブランドの考え方やモノづくりの姿勢を確認する消費者が多くなったこともD2Cが広がる一因といえるだろう。
D2Cのメリット
D2Cには、どのようなメリットがあるのだろうか。企業側から見たメリットを確認しておこう。
収益性に期待ができる
D2Cでは、企画・製造を自社で行うため、他社への依頼料や流通のコストがかからない。さらに店舗を持たず自社サイトで商品を販売するスタイルを取ることが多いため、店舗運営にかかるコスト(店舗の賃料、人件費など)やプラットフォームサイトの出店料がかからない。できるだけ経営コストをかけず高い収益性を保ちたい企業には、メリットが多いといえる。
「ブランド」のファンを増やすことができる
百貨店やショッピングモール、プラットフォームサイトなどへ出店する場合「とりあえず」「必要だから」「安いから」といった理由で購入されることも多い。またプラットフォームサイトには、似たような商品を扱う店も多いため、2回目、3回目の購入につなげることが難しいかもしれない。
しかし自社サイトの場合は、サイトに訪れてくれる消費者に商品購入だけでなく自社の想いをじっくり伝えることもできる。結果的にメーカーやブランドのファンを増やすことにもつなげられるだろう。一度ファンになった消費者は、何度も商品を購入してくれるリピーターになることも期待できる。
顧客データを収集できる
自社サイトであれば顧客データを効率よく収集できることもメリットの一つだ。サイトの滞在時間や離脱率などのデータを分析すれば今後の販売戦略に活かすこともできるだろう。またデータがあれば顧客の購入の傾向が分かるため、ダイレクトメールなどに効率よく活用できる。リピーター作りや定期購入者の発掘にも役立てることができるはずだ。
また顧客データは、消費者の新しい商品開発のヒントにすることもできる。売れ筋商品やこれからの流行を探るうえでも有益な情報となるだろう。
販売方法を自分たちで決めることができる
百貨店やプラットフォームサイトへの出店の場合、セールを行う期間、売り出す商品などをある程度その店・サイトに合わせることが必要だ。しかしD2Cの場合は、自社サイトになるため、自分たちでセールの時期や内容を決めることができる。売れ筋商品や消費者のニーズに合った商品のセールも柔軟に開催できるため、今以上に消費者の心をつかむことも可能だ。
また自社サイトであればニーズにきめ細かに対応した商品展開もできる。例えば「小ロットで新しい商品を次々と発売していく」「服のサイズを細かく準備してどのような体形の人にも買ってもらえるように工夫する」など消費者に飽きられない仕組みを作ることも検討できるだろう。
D2Cのデメリット
D2Cには、デメリットもある。こちらについても確認しておこう。
魅力的な商品が必要
D2Cでは、自社で商品を企画製造することになるが、収益を上げるためには魅力的な商品を開発しなければならない。顧客のニーズを探り購入につながるような商品を企画するにはそれなりの時間とコストがかかることも覚悟しておかねばならないだろう。
顧客開拓が必要
既存のプラットフォームサイトを利用した場合、そのサイトをすでに利用している顧客を取り込むことが可能だ。しかし自社サイトを作った場合、一から顧客の開拓が必要になる。自社の顧客ターゲットとなる層へサイトの認知度が上がるようにダイレクトメールを利用したり顧客になりそうな人たちが興味のあるサイトに広告を出したりするなど、ある程度の時間や手間がかかることも押さえておきたい。
定着までに時間がかかる
自社サイトの場合、顧客開拓だけでなく定着するのにも時間がかかる。全く認知度がないところから「認知度を上げてファンを増やす」という目標に向かって多角的に取り組んでいくことが必要だ。
D2C成功のポイント
D2Cにもメリット・デメリットの両面がある。D2Cを軌道に乗せて成功させるポイントを見て行こう。
独自の世界観による商品力・ブランド力
D2C成功のポイントは、他社にはない独自のブランド力および強力な商品力にある。自社のターゲット層に響き、なおかつ自社にしか表現しえない世界観を提示できれば、顧客は自然と自社ブランドのファンになる可能性を高められるだろう。
ただしブランド力だけが強くて商品自体がありきたりのものでは、商品を手にした時点で顧客が落胆する可能性がある。ブランド力とともに、商品の魅力を高める開発力も伴えばD2C成功の足がかりとなり得るだろう。
マーケティングによるコンテンツ力
D2Cでは、情報発信が重要だ。商品の解説だけでなく、ブランドストーリーや商品の活用法など、商品を思わず手にしたくなる情報を発信しなければならない。自社サイトだけでなく、オウンドメディアを立ち上げて情報発信すると効果的な場合もある。
また自社のターゲット層に響くコンテンツ力を育てるためには、マーケティング活動が不可欠だ。自社サイトのアクセスログから顧客の行動を把握し、より効果的なコンテンツを作成・発信したい。自社サイトへ集客するためのSEO対策なども必要だ。
SNSを活用した顧客との交流
自社サイト・オウンドメディア以外に、SNSを活用した顧客との交流もD2C成功のポイントだ。Twitter・Instagram・YouTubeなど商品の性質により、相性のよいSNSは異なる。顧客と積極的に交流することで、自社のブランド価値は高まるだろう。SNS運用には、炎上対策などさまざまな注意点もあるため、運用開始前には有識者の支援を得るなどの対策も必要だ。
D2Cの成功事例
これからD2Cに取り組みたいのならば成功事例を知っておくことも重要だ。いくつかの企業の成功事例をチェックしてみよう。
土屋鞄製造所
1965年創業、ランドセルの製造で有名な企業。2000年以降は、仕事用カバンや大人が使える財布などの革小物の販売を自社サイトで行っている。サイトでは一つひとつの商品について開発に至るまでのエピソードや職人の想いを紹介しており、購入する人もそれらのストーリーを共有できる。
FUJIMI
サプリメントなどの通信販売を行う企業。サイト上でいくつかの質問に答えると自分に合ったサプリメントが処方され、消費者は処方されたサプリメントを定期購入する仕組みである。一人ひとり届く商品が違うという、「パーソナライズ」で顧客の心をつかむのに成功している。
FABRIC TOKYO
メンズアパレル企業。オーダーメイドのスーツやシャツの販売を行う。生地メーカーや中間業者を通さず自社ですべてを行うため、オーダーメイドでありながら比較的安価で商品を提供できるのが大きな強みだ。採寸については「自分で行う」「手持ちのスーツを計る」「店舗で行う」など、さまざまな方法が選択できる。
採寸したサイズデータをクラウドに登録しておくとインターネット上から自分にぴったり合ったサイズの服がいつでも注文可能になる気軽さも消費者に受け入れられている理由の一つだ。
D2Cに関するQ&A
Q.D2Cとは?
A.D2C(Direct to Consumer)とは、販売を仲介する会社や小売業者などを通さず、顧客にオンライン上で直接販売を行うビジネスモデルの一種。D2Cでは、自社で企画製造した商品を消費者に直接販売する。また中間業者を通さないため、中間マージンを節約できるほか、自社商品を購入する顧客の属性などの情報蓄積も可能だ。これにより今後の商品開発やマーケティングに活かせるメリットがある。
Q.B2CとD2Cの違いは?
A.B2C(Business to Consumer)とは、企業と消費者の取引を指す言葉だ。楽天市場やAmazonなどのECモールはB2Cの一種である。D2Cも企業と消費者が取引をする点は同じだが、B2Cの企業側は、商品の企画・製造を担当しないケースもある点が大きな違いだ。
Q.D2Cのメリットは?
A.企業側から見たD2Cの主なメリットは、以下の4点である。
・収益性に期待できる
・「ブランド」のファンを増やすことができる
・顧客データを収集できる
・販売方法を自分たちで決めることができる
中間業者を通さない分、収益性の改善が期待でき販売方法を自社で決定できる。また顧客と直接コミュニケーションを取るため、自社のファン層を把握し、自社ブランドのファンを増やすことも可能だ。顧客側から見れば中間マージンがなくなる分、より高品質な商品を低価格で入手でき商品に対する要望を直接企業に伝えることでその反応をもらえるというメリットがある。
Q.D2Cブランドの成功事例は?
A.例えば土屋鞄製造所は、革小物の販売をD2Cで進めて成功した事例の一つだ。自社サイトで販売商品の開発ストーリーや職人の思いを詳しく伝えることで、ブランドのファンを増やすことに成功している。またサプリメント販売のFUJIMIは、いくつかの設問によりその人に最適なサプリメントを処方し、定期購入できる仕組みを採用する「パーソナライズ」でD2Cを成功させた。
Q.D2Cの市場規模は?
A.株式会社売れるネット広告社が2020年に行った調査によると、デジタルD2Cの市場規模は、2020年で約2兆3,000億円、2025年には約3兆円を超えると予想されている。スマートフォンやSNSの普及により、消費者が自分で情報を取りに行けるようになったことやコロナ禍による購買行動の変化もあり、デジタルD2Cの市場規模は今後も伸びると考えられる。
さらなる発展が期待されるD2C。重要なのはブランディングと商品力
自社で商品の企画・製造・販売を行うD2Cは「運営コストを抑えられる」「顧客のニーズに応えられる」という特徴がある。消費者側から見ても低価格で品質の良いものを購入できる点は大きなメリットだ。ただしD2Cであればすべての企業がうまくいくわけではない。「ブランドの認知度を上げる」「ファンを増やす」「魅力的な商品を作る」といった強みがないと消費者の心はつかめないだろう。
これからD2Cというビジネスモデルの成功を目指すのであれば、商品開発と同時にブランディングにも力を入れていくことが非常に重要となってくる。