経営戦略の質を高めるには、全体の構成を強くイメージする必要がある。各戦略の関係性を意識した上で策定しないと、一貫性・整合性のある経営戦略を完成させることは難しい。ここでは経営戦略の階層や種類、代表的な戦略などを事例とともに解説していく。
目次
経営戦略の策定は全体像をイメージするところから
一般的な経営戦略は、小さな目標を積み重ねながら、最終的に大きな経営目標を達成する構図になっている。そのため、策定の前には全体像をイメージしておかないと、一貫性や整合性のない経営戦略が出来上がってしまう。
また、経営戦略は実行と検証を繰り返しながら、日々ブラッシュアップしていくものだ。このときに全体像をイメージできていると、問題を抱えている部分や適正な修正内容を見極めやすくなる。
経営戦略の階層とは?押さえておきたい3つの種類
まずは、経営戦略全体を構成している3つの階層から見ていこう。
1.企業戦略(全体戦略、成長戦略)
企業戦略とは、会社の方向性を決定づける全社的な戦略のことだ。経営戦略のなかでは最も上の階層であり、その特性から「全体戦略」や「成長戦略」とも呼ばれている。
企業戦略において決定するものとしては、主に以下の事項が挙げられる。
企業戦略は資金調達と密接な関係があり、上記の3つを定めておくと「どの経営資源がどれくらい必要になるのか?」を明確にできる。また、金融機関などを納得させる材料にもなるので、資金調達の前にはじっくりと企業戦略を練っておきたい。
2.事業戦略(競合戦略)
2つ目の事業戦略は、企業戦略の下に位置する階層である。事業戦略では主に以下のような事項を決定し、一つひとつの事業に関する競合戦略やマーケティング戦略、改善プログラムなどを立案していく。
上記を見るとわかるように、事業戦略は企業の収益性を大きく左右するものだ。そのため、自社の強みや弱み、業界動向、競合他社の状況などを細かく分析した上で、慎重に計画を立てることが重要になる。
3.機能別戦略
最も下の階層に位置する機能別戦略は、社内の各機能(営業・生産・人事など)に関する戦略である。簡単に言えば「現場レベルの戦略」であり、機能別戦略では主に以下のような事項を決めていく。
具体的なものとしては、営業戦略や人事戦略などをイメージすると分かりやすい。各機能における現時点での課題を明確にしながら、より効率的に利益を生み出せるような体制を構築していく。
企業戦略・事業戦略・機能別戦略の関係性
ここまでをまとめると、経営戦略の全体はピラミッドのような構図で表すことができ、そのピラミッドは企業戦略・事業戦略・機能別戦略の3つで構成されている。
ピラミッドの最下層に位置する機能別戦略は、その上の事業戦略を実現するために存在する。さらに、事業戦略も企業戦略実現のために存在するものなので、経営戦略は「企業戦略→事業戦略→機能別戦略」の順で策定する必要がある。
また、組織戦略全体がトップダウンの形になりやすい点も、経営者が注意しておきたいポイントだ。例えば、ピラミッド最上部にあたる企業戦略を上層部だけで決めると、組織戦略は必然的にトップダウンの形になる。
しかし、本当の意味で経営環境を改善したいのであれば、上層部の意見を押しつけるような経営戦略は望ましくない。特に現場が抱える問題点や課題は、実際に働く従業員でないと分からないことが多いため、経営戦略の策定時にはボトムアップをとり入れることも意識しておこう。
各戦略の責任者も意識しておきたいポイント
組織がそれほど大きくない中小企業であっても、企業戦略から機能別戦略までを経営者1人で管理することは難しい。そのため、経営戦略を実行するにあたっては、各戦略の責任者も明確にしておく必要がある。
企業によって役職名に違いはあるが、以下では各戦略の一般的な責任者をまとめた。
このように責任者を分けるとスムーズに経営戦略を進めやすくなるが、各責任者が独自に戦略を進めると、経営戦略全体にズレが生じてしまう恐れがある。そのため、各戦略の最終的な決定権については、1つ上の階層の責任者に帰属させることが望ましい。
代表的な経営戦略を事例とともに解説
ここまで解説したように、経営戦略の策定では各階層でさらに細かい戦略を立てていく。では、この細分化された戦略には具体的にどのようなものがあるだろうか。
ここからは事例を交えて、代表的な戦略の種類を解説していこう。
コストリーダーシップ戦略(価格戦略)
コストリーダーシップ戦略とは、競合他社に対して価格面で優位に立つための戦略のこと。具体例としては、2014年頃に発生した大手牛丼チェーン3社の価格戦争が分かりやすい。
当時、牛丼・牛めし(並盛り)の価格は280円だったが、消費税増税の影響で『吉野家』は20円の値上げを、『松屋』は10円の値上げを決めた。一方で『すき家』は10円の値下げを実施しており、競合2社に対して価格的な優位性を築き上げている。
ただし、価格的な優位性を築いたからと言って、必ずしも事業が軌道に乗るとは限らない。値下げ後に同じ収益性を維持するためには、より多くの顧客を引き入れる必要があるので、場合によっては現場の従業員に負担がかかってしまう。
つまり、会社全体の収益性から判断すると、値上げのほうが効果的になるケースもある。値上げも立派なコストリーダーシップ戦略になり得るので、値下げだけに目を向けないことが重要だ。
集中戦略
集中戦略とは、事業の進出地域やターゲット層の範囲をあえて狭くし、その特定分野に経営資源を集中させることだ。
例えば、ファーストフードの大手である『マクドナルド』は、ハンバーガーに限らず幅広いファーストフードを提供している。一方で、『ケンタッキーフライドチキン』はチキン類を中心に商品展開をしており、マクドナルドとは違った客層を取り込んできた。
この事例のように集中戦略をうまく活用すれば、同じ業界に強力なライバルがいても多くのニーズを獲得できる。中小企業にとっては効果的な戦略になりやすいので、事業が行き詰まった場合はぜひ集中戦略を練っていきたい。
差別化戦略
次に紹介する差別化戦略は、中小企業の経営戦略として特に重視されている。
差別化戦略とは、ほかの競合他社がもたない強みを構築することで、業界内での競争力を確立する戦略のこと。膨大な資金や規模がなくても実践できるため、中小企業が大企業に勝つための戦略として重宝されている。
差別化戦略の具体例としては、コンビニ業界が分かりやすい。国内の大手コンビニは常に差別化戦略を図っており、企業によって「健康志向」や「高品質」、「低価格」など別々のコンセプトを構築している。
差別化戦略を成功させるポイントは、狙っているターゲット層のニーズを明確にすることだ。また、競合他社の強み・弱みを細かく分析し、自社ならではの武器を見極めることも重要になる。
中期戦略と長期戦略の違い
経営戦略の種類については、「中期戦略」と「長期戦略」の違いも押さえておきたい。中長期戦略とひとくくりにされる場合もあるが、一般的に中期戦略と長期戦略は以下のように分けられている。
・中期戦略…実行に3~5年ほどかかる計画。
・長期戦略…実行に5~10年ほどかかる計画。
基本的に中期戦略は長期戦略を細分化したものであり、長期戦略のブレークダウンとして策定されることが多い。また、長期戦略では全社的な達成目標を設定し、会社が今後進むべき方向を固めていく。
いずれも経営面では重要なものだが、実は中小企業にとっては必要不可欠ではない。例えば、従業員が20人未満の小規模な企業では、経営者が直接意向を伝えたほうが早いので、短期戦略(1年未満で実行できる戦略)でも事足りる可能性がある。
ただし、投資家や金融機関などの外部にアピールしたい場合は、将来のビジョンが分かりやすい中期戦略・長期戦略が必要になるため、小規模な企業であってもこれらの戦略をしっかりと策定していこう。
情報収集や分析にも力を入れて、質の高い経営戦略を
経営戦略を立てる際には、全体の構図を強くイメージする必要がある。すべての戦略が企業戦略の実現へとつながるものを策定できれば、理想的な経営体制をより整えやすくなるだろう。
多くの時間を費やすことになるが、そもそも手間をかけなければ質の高い経営戦略は策定できない。情報収集や分析にもしっかりと力を入れて、社内外から評価される経営戦略を考えていこう。