“アートに興味を持ち始めて、初めて作品を購入してみたいけれど、どうやって買ったらいいんだろう?“
“気になっているアーティストの作品があるけれど、人気でなかなか買えない!“
アートのコレクションに興味を持ち始めて、そんな風に困ったことはありませんか?
ANDARTのオーナー限定イベント「WEANDART」のトークセッションでは、「ギャラリストが語るアート業界のリアル」というテーマのもと、久保田真帆さん (「MAHO KUBOTA GALLERY」ディレクター)、額賀古太郎さん(「NUKAGA GALLERY」代表) という、日本の現代アート界を牽引する2人のギャラリストをお迎えし、山本菜々子さん (SCÈNE代表) による進行で アート業界のリアルなお話を伺いました。
「今、アート界で起こっている変化」から「これからコレクションを始めたい方へ向けたアドバイス」まで、45分間のトークの一部をダイジェストでお届けします。
目次
▍「ギャラリスト」の仕事とは?
山本 「本日は、日本の現代アートを牽引するお二人にお話を伺います。まず、ギャラリストの仕事について教えていただけますか?」
久保田「ギャラリストとは、ギャラリーを運営する人です。私はプライマリー※1のギャラリーを運営していますが、その仕事は、主に自分のギャラリーに所属するアーティストをマネジメントして、そのアーティストたちの展覧会を開いたりすることです。」
(※1 プライマリーギャラリー:アーティストの作品を最初に販売する、1次的な市場を担うギャラリー。)
額賀「私はプライマリーとセカンダリー※2をやっています。セカンダリーの仕事は多岐にわたるんですが、個人のお客さんから作品を買い取ったり、企業のお客さんの作品をオークションにかけたり。作品を売りたい人と買いたい人の仲介をしたりしています。」
(※2 セカンダリーギャラリー:一度プライマリーで販売された作品を別の人に販売する、2次的な市場を担うギャラリー。)
久保田「ただ、プライマリーギャラリーはセカンダリーの仕事を全くをやらないことではなくて。お客さんに『こういう作品が欲しいので、探してくれないか?』と聞かれたら探したりもしますね。」
額賀「アーティストをプロモートする、という点では、キャッチャーのような仕事だなと思っています。そのアーティストが投げたい球や、投げるべき球を見極めたり、時には暴投みたいな球もキャッチしたりとか。アーティストの相談相手になって、いいキャリアを形成できるように、彼らと社会との接点を作る仕事をしています。」
山本「アーティストと一緒に進む道を切り開いていく感じなんですね。」
額賀「本当に、二人三脚だと思っています。」
▍今、アート界で何が起こっているのか?
山本「次のトピックとして『アート業界のリアル』というテーマで伺いたいです。最近の潮流や、今起こっていることについて教えていただけますか?」
額賀「まだコロナ禍ではありますけれど、今年5-6月頃からオークションでの作品需要が回復し始めて、今はコロナ前よりも高い値段で取引されるようになりました。世界経済が回復する前にアートに投機する意欲が旺盛になっていて、多くのお金がアート界に流れ込んでいます。」
久保田「未だかつてないアートブームになっている様子を感じますね。
今、日本のアート界には、『ブランディング』と『マーケティング』という2つのキーワードがあるように思います。私は、そのうちの『ブランディング』がとても重要だと感じています。」
山本「『マーケティング』と『ブランディング』は、どう違うのでしょうか?」
久保田「『マーケティング』で瞬間最大風速的に盛り上がるのは、勢いがあっていいとは思うんですけれど。でも、本当にアートを育てていこうと思った時には、『マーケティング』だけでは継続できないと思います。」
額賀「そうですね、ギャラリストは歴史を作る仕事だと思っているので。瞬間最大風速を狙っているわけではないですね。でも、アーティスト自身もすぐに売れることを望んでしまう事もあるので、そこは良いギャラリストがアーティストを導いていけるといいのかな、と思っています。」
▍「良い作品」とは? それを買うにはどうしたら良いの?
山本「今のお話を受けて伺いたいのですが、本当に「良い作品」というのは、一体どんなものなのでしょうか?」
額賀「『自分が好きな作品を買えばいい』というのもあるとは思うんですけれど。
私が自分で個人的に買うのは、『自分が分からない、自分の思考の外にある作品』ですね。現代アートって、所有して、その作品の意味について考えるうちに新しい気づきがあったりするんですよね。そういったところが『良い作品』の要素のひとつだと思います。」
久保田「私も本当にそうだと思います。やっぱり、その作品を飾ることによって自分との対話が出来るような作品ですね。」
山本「そういう作品は、多くの人が欲しいと思うものなのでしょうか?」
久保田「多分、それは人によって違うと思うんですよ。何が必要で、どんなものと対話できるか?というのは、その人の持っているものや考え方によって違うと思うので。」
額賀「その人がアートに何を求めているのか、ですね。
ただ、色んなものを買っていいとは思うんですが… 表面的に消費されて、短期間でいなくなってしまうようなアーティストの作品は見極めないといけないので… どこで買うのかは大切ですね。」
▍「良いコレクター」とは?
山本「ギャラリストの方々に「『良い作品』ってどうやったら買えますか?」と伺うと、「良いコレクターになることです」って必ず言われるんですが、『良いコレクター』とはどんな方なのでしょうか?」
久保田「ギャラリストもそうですけれど、まずは人として誠実であること。それから、アートをとても好きだということですね。好きであることが、情報を集める勉強のドライブになっていると思います。良いコレクターさんは、自分なりのテーマを持って勉強していらっしゃいますね。
あと、ギャラリーのブランディング全体を好きでいてくれる方は、ギャラリーにとって良いお客様だなって思います。」
額賀「真帆さん(久保田さん)のおっしゃっていることに尽きます。アーティストはそれぞれ伝えたい思想があるけれど、ギャラリーはプラットフォームとなってそれを伝えていきます。そこには、どう世の中に伝えるかというギャラリストの視点も入るわけです。
そのプラットフォームを応援してくれて、ギャラリーの発信力が強くなっていけば、作家の影響力も上がります。だからギャラリー全体を応援してくれるのは良いコレクターだなって思いますね。」
山本「じゃあ、『どうしてもこの作家さんの作品を買いたい!』っていう時には、そういった『良いコレクター』を目指すのが良いのでしょうか?」
額賀「あとは、『他にどんなコレクションをしていますか?』って聞くことがありますね。」
久保田「ああ、コレクションを伺うと、その人のプロフィールや、何を目指しているのかがよく分かりますね。もちろん、コレクション全部が正解、とはいかないと思いますが、こだわりを感じるとお話を聞いてみたいなと思います。」
額賀「失敗は絶対ありますよね。買ってみたけれど違ったな、とか。本当にお金を払わないと分からないことはあります。」
久保田「でも、自分が買ったものが世界に認められて価値が上がるのは純粋に嬉しいですよね。それは、『良いコレクター』であることと矛盾することではないです。」
額賀「『世界のビッグコレクター』になれば、その人がコレクションすることによって作家の価値が上がることもありますし。そんなコレクターが日本からも出てきたら素晴らしいな思います。」
▍コレクターへのはじめの一歩、どうやって踏み出したら良い?
山本「『これからコレクションを始めたい』という場合には、どのように信頼を築いていくのがよいのでしょうか?」
額賀「例えば、私が初めて会ったお客さんでも、コレクションを伺ってみて、過去に真帆さん(久保田さん)のギャラリーで購入されている方は信頼できますね。」
山本「どのギャラリーから買うかは大事ですね。」
額賀「最近は抽選販売に申し込んで購入するという話もよく聞きますが…」
久保田「『抽選販売』とか『ウェイティングリスト』って、最近出来たシステムなんですよ。顕著なのはここ2〜3年。それくらい今はアートブームなんです。それまではオープニングの日に来てくれて、ゆっくり話をして、「それでは買ってみようか」という感じだったんですが…」
額賀「今はオープニングの前にいかに売り切るか… みたいな風潮もありますね。それは作家のブランディングにもつながるので一概に悪いとは言えないのですけれども… 買い方・売り方は変わってきていますね。」
山本「展覧会初日の前に売りきれてしまうとなると、1作品目を買おうとする人たちはどうやったら購入できるのでしょうか?」
久保田「ギャラリーに良く来てくださる方は覚えますね。それから、オープニング※3 で作家さんと良い雰囲気でお話されていたら、そういった方にも良い印象を持ちます。」
(※3 展覧会初日の夕方には、「オープニングパーティ」が行われることが多く、その際にはアーティストとギャラリストが揃っていることも多い。アーティストと直接話せる貴重な機会なので是非訪問してみてください。)
額賀「話かけてくださるのはとても嬉しいのですけれど、『良いコレクター』という観点だと、アーティストやギャラリストを1人で長時間占有してしまうのは避けたいですね。」
久保田「アーティストはオープニングの2時間くらいの間に大勢の人と話をしたいので。そこで気遣いが出来る方が良いですね。」
▍まとめ
山本「今日のお話を総合すると、大事なことは『コミュニケーション』でしょうか。ギャラリストやアーティストなど、多くの方と『良いコミュニケーション』をとることが、色々なところにつながるように感じられますね。
久保田「そうですね、リアルでもSNSでも、コレクターさん同士でうまくコミュニケーションをとって情報交換されている方々がいますけれど、それをグローバルに広げていけるとよいと思います。」
額賀「良いコミュニケーションがあれば、我々も安心して作家を紹介できますし、ギャラリーとしても気持ちよく対応できます。」
久保田「作品が欲しいのでリストを送ってくださいって言われることもあるんですが、それではその方の事が全然分からないので… できれば、コミュニケーションという意味で、ご自身のプロフィールなどもあわせて教えて欲しいですね。コミュニケーションは大事だと思います。」
山本「ありがとうございました。本日いらっしゃっているみなさんも、ぜひ会場で対話を楽しんでいってください。」
登壇者プロフィール
久保田 真帆(くぼた まほ)
「パルコギャラリー」展覧会企画担当、「SCAI THE BATHHOUSE」ディレクターを経て独立、2016年3月に東京・外苑前に「MAHO KUBOTA GALLERY」をオープン。ジュリアン・オピー、長島有里枝、AKI INOMATA、武田鉄平、Atsushi Kaga、ブライアン・アルフレッド、ガイ・ヤナイほか国内外のアーティストをリプリゼント。
額賀 古太郎(ぬかが こたろう)
2008年に「NUKAGA GALLERY」を承継し、2012年銀座に移転、取り扱い領域を日本の戦後美術まで拡張する。2018年、東京・天王洲に現代アートギャラリー「KOTARO NUKAGA」を開廊し、国内外のアーティストと活動を開始。松山智一や平子雄一などの気鋭のアーティスト、ステファン・ブルッゲマンやトニー・マテリなど、日本では未発表のアーティストを紹介する。
山本 菜々子(やまもと ななこ)
2016年より、南青山のアートサロンSCÈNEにて展覧会を開催するほか、国内外で百貨店、飲食店、ホテル、オフィスなどのアートキュレーション、企業やコレクターのアートコンサルティング等を行う。2020年にはアートのECサイト「Dear Art」を立ち上げ、世界中のギャラリーやコレクター・アーティストから厳選した作品のみを紹介している。
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写真・文:ぷらいまり