携帯大手3社は大損?菅氏の携帯料金改革から約1年、最新の業績を大公開!
(画像=yu_photo/stock.adobe.com)

菅前首相の下、携帯電話料金の値下げ圧力が一気に強まってから約1年が経過した。各キャリアとも実質値下げを敢行したが、業績にどのような影響が生じたのか。各社の取り組みや最新の業績を見ていこう。

菅前首相が推進した携帯料金改革

前政権が行った携帯料金改革とはどのようなものだったか。各キャリアの取り組みと併せて紹介する。

データ接続料や音声卸料金低廉化で競争を促進

国民の生活必需品であり、重要インフラとなった携帯電話に対し、国は事業者間の競争を通じて多様なサービスの実現を図り、モバイル市場の公正な競争環境整備を進めている。

2019年に通信料金と端末代金の完全分離や行き過ぎた囲い込みの禁止などを内容とする電気通信事業法の一部を改正する法律が施行され、翌2020年に総務省は今後取り組むべき事項をとりまとめたアクションプランを策定した。

アクションプランの柱は以下の3つだ。
(1)分かりやすく、納得感のある料金・サービスの実現
(2)事業者間の公正な競争の促進
(3)事業者間の乗換えの円滑化

この中に、3年間で5割減を目指すデータ接続料の低廉化や、音声卸料金の低廉化などが盛り込まれている。

菅義偉前首相は、官房長官時代からたびたび携帯電話料金の値下げに言及しており、首相就任時には看板政策として取り上げた経緯がある。

ソフトバンクはオンライン専用ブランド「LINEMO」スタート

早くから格安のサブブランド「Y!mobile」を展開してきたソフトバンクは、新たにオンライン専用ブランド「LINEMO(ラインモ)」のサービスを2021年3月に開始した。月20GBに加えLINEの使用データフリーで基本料金2,480円としている。

また、メインブランドにおいても2021年3月に新料金プランを導入した。データ容量無制限プランに加え、通信量が少ない顧客向けに、データ使用量に応じて3段階の基本使用料が自動で適用されるプランを導入している。

NTTドコモは「ahamo」提供開始

NTTドコモは、シンプルな料金プランをコンセプトとした「ahamo(アハモ)」を2021年3月に提供開始した。月20GBまで月額2,980円で利用できる。メインブランドにおいては、2021年4月に新プランを導入し、現行プランより600~1,000円実質的な値下げを行っている。

KDDIは「povo」で対抗

KDDIは、グループ企業が運営する「UQ mobile」を2020年10月に自社に移管してサブブランド化したほか、オンライン専用の新料金ブランド「povo(ポヴォ)」を2021年3月に開始した。月間データ容量20GBまで月額2,480円で利用できる。

メインブランドのauにおいては、2021年3月に新料金プランを開始し、現行プランから1,070~2,070円実質的の値下げとなった。

各社の最新の決算について説明

携帯料金の値下げ後、各社の売上高や利益はどうなったのだろうか。

2021年上期は3社とも増収減益に

ソフトバンクの2022年3月期上期(2021年4~9月)の連結業績は、前セグメントが増収となり、売上高は過去最高となる前年同期比12.2%増の2兆7,242億円を記録した。

一方、営業利益は、コンシューマ事業の過半を占めるモバイル事業が通信料金値下げの影響と前期に一過性利益があったことを要因に、同3.2%減の5,708億円となった。スマートフォンの累計契約数は、同6%増の2,650万件となっている。

NTTドコモの2022年3月期上期は、営業収益(売上高)が同1.5%増の2兆3,162億円、営業利益が同11.9%減の4,963億円と増収減益となった。通信事業における営業利益のうち、モバイル通信サービスの収入は243億円減り、携帯電話契約数は、同3%増の8,345万件だ。

KDDIの2022年3月期上期は、売上高が同3.5%増の2兆6,252億円、営業利益が同2.7%減の5,731億円となっている。モバイル通信料収入は117億円増となった。累計契約数は2,978万件で、同6.5%増加した。

実質値下げが利益率を圧迫

コンシューマ向けの通信事業においては、各社とも契約数を伸ばしつつも営業利益を減らす結果となっている。

今期、前期とも新型コロナウイルスの影響もあり一概には言えないが、メインブランドの実質値下げやそれに伴う販促キャンペーン費用、そしてサブブランドの展開が利益率の低下要因となっていることにほぼ間違いはなさそうだ。

携帯市場の今後

5Gのエリアが拡大する中、携帯市場の今後はどのように予測されるだろうか。

第4のキャリア楽天が今後存在感を発揮?

「第4の通信キャリア」として2020年4月に正式にサービスを開始した楽天モバイルにも注目だ。楽天モバイルは、メインブランドで月額2,980円の無制限プラン「Rakuten UN-LIMIT」を導入するなど、格安前提のサービス形態で寡占市場に挑んでいる。

通信インフラの整備が難航しているようだが、遅かれ早かれ設備は整う。質・量ともに安定したサービスが確立されれば、価格競争を主導することも考えられる。寡占市場を切り崩すには、純粋な価格競争が理想であることは言うまでもない。

5G実用化が勝敗の分かれ目に?

第5世代移動通信システム「5G」の普及が本格的に始まり、利用可能エリアが徐々に広がっている。ソフトバンクは2021年9月に基地局数が1万4,000局を超えた。同10月末までに人口カバー率80%、基地局数2万局を達成する予定だと発表していた。

一方、NTTドコモは2021年6月に基地局数が累計1万局を突破し、2021年度末までに2万局、人口カバー率55%を目指している。KDDIが発表した計画では、2021年度末までに整備する基地局数は約5万局だという。

2022~2023年度をめどに、国内の大半のエリアで5Gが利用可能になる見込みだ。5Gの高速大容量の通信網は、AI(人工知能)やVR(仮想現実)、AR(拡張現実)、自動運転などさまざまな技術と結びつき、新たなサービスを生み出す。どのキャリアがいち早く5Gをスタンダード化させるかといった観点も今後の競争の行方を左右する要素になりそうだ。

6G開発やIoT社会への対応が明暗を分ける?

業界ではすでに6Gの研究開発が進められており、5Gのインフラ整備完了後に一息つく間もない状況である。

IoTの波もますます加速し、通信技術の重要性は増すばかりだ。移動通信網もこのIoTの波を受け、携帯電話以外の需要が大幅に増す可能性が高い。通信キャリアの未来は、このような新たな需要をいかに取り込んでいくかにかかっている。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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