企業買収の手順とは?M&Aの手順や最終契約後の流れを解説
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内山 瑛
内山 瑛(うちやま・あきら)
公認会計士。名古屋大学法学部在学中に、公認会計士試験に合格。新日本有限責任監査法人に入所し、会計監査・コンサルティング業務を中心に研鑽を積む。2014年に同法人を退所し、独立。「お客様の成長のよきパートナーとなる」ことをモットーに、記帳代行・税務申告にとどまらず、お客様に総合的なサービスを提供している。近年は、銀行評価を向上させる財務コンサルティングや内部統制構築支援、内部監査の導入支援にも力を入れている。

昨今、M&Aの仲介機関の支援強化や仲介業者の増加により、企業買収が一般化してきた。自社事業の最終ゴールとして企業売却を考える経営者もいるだろうが、企業買収の流れは複雑である。本記事では、企業買収の基本的な流れや、最終契約書締結後の手順について解説する。

目次

  1. 企業買収の基本的な手順7つ
    1. 企業買収の手順1:仲介機関との契約
    2. 企業買収の手順2:企業評価の算定
    3. 企業買収の手順3:ノンネームシート
    4. 企業買収の手順4:トップ面談
    5. 企業買収の手順5:基本合意書の締結
    6. 企業買収の手順6:買収監査(デューデリジェンス)の実施
    7. 企業買収の手順7:最終契約書の締結
  2. 企業買収契約が成立した後の手順
    1. 代金決済
    2. 従業員や取引先への公表
  3. 企業買収の手順を理解し成功のための事前準備をしよう
  4. 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ

企業買収の基本的な手順7つ

企業買収(M&A)を円滑に進めるには、仲介機関を活用するのが一般的であり、基本的に以下の7つの手順で実施する。

企業買収の手順1:仲介機関との契約

まず、企業買収の仲介を行う仲介機関と契約を取り交わすことが一般的である。もちろん、企業買収自体は仲介機関を介さずにできるが、多くの企業買収の経験があるような大企業でなければ、仲介機関を利用するのが成功のポイントである。

仲介機関や業者を活用するメリットには、以下のようなものがある。

・M&Aを効率よく進めることができる
・秘密保持を維持しながら秘密裏に話を進めることができる
・適正な金額で会社を譲渡することができる
・買収候補先企業を広く募ることができる
・経営者個人に対するアドバイスが得られる

企業買収の手順2:企業評価の算定

企業買収の仲介機関との契約が済んだら、概ねの売値、すなわち企業評価の算定を行う。

企業買収は売買契約であるため、売り手と買い手の双方が価格に納得しなければ取引は成立せず、売り手が示した最初の価格で妥結するのは稀である。売り手側は、これまで人生をかけて成長させてきた自社に対して、高い値段をつけたくなるものだからだ。

そこで、仲介機関のアドバイスを借りながら、ある程度理論的かつ客観的な方法で価格を算定していく必要があるのだ。

企業買収の手順3:ノンネームシート

次は、ノンネームシートの開示である。まだ買収が決まっていない状態で、興味を示す保証のない相手先に企業名や財務内容を開示することは好ましくない。

企業買収交渉の初期段階では、情報漏えいに細心の注意を払い、企業名が特定されないようにしながら買い手候補先に情報を流す必要がある。そのため、M&A仲介機関は匿名の「ノンネームシート」を作成し、買い手候補企業に開示していくことになる。

ノンネームシートに記載される内容は、以下のようなものである。

・業種
・業務内容
・財務内容(売上高、営業利益など数字の概算)
・所在地
・社員数
・譲渡理由

・秘密保持契約を締結して交渉を進める
ノンネームシートで買い手候補先が興味を持ったら、「秘密保持契約(NDA;Non-Disclosure Agreement)」を締結し、次の交渉過程に進むことになる。

秘密保持契約とは、売り手と買い手の双方が、交渉前に情報開示を前提として最初に締結する契約である。M&Aで会社を譲渡する場合、情報漏えいは会社の存続に関わるといっても過言ではない。

買い手候補の中には、ライバル企業などの情報を得る目的で、情報の開示を求めることもある。企業売却を検討しているといった情報が漏洩してしまっては、得意先や協力会社から不信感を招き、大きな損害を被りかねない。秘密保持契約を締結した後も油断は禁物で、よく相手を見極めながら情報開示しなければならない。

秘密保持契約に盛り込む主な内容としては、以下のようなものがある。

・第三者に取得した情報を開示しないこと
・開示された情報を買収目的以外に使用しないこと
・秘密保持契約の有効期間

企業買収の手順4:トップ面談

トップ面談とは、企業の経営者同士の初顔合わせの場のことだ。中小企業の企業買収においては、売り手側が買い手にあたる経営者の人柄や力量から判断して、契約するか否かを決める場面も少なくない。その面で、このトップ面談は非常に重要である。

中小企業の経営者にとっては、企業買収に伴い正当な対価を受領するのと同じくらい、買収後も企業が存続して欲しいと願うものだ。経営者の力量を見極め、納得して企業買収に応じてもらえるかという点で、トップ面談は極めて重要である。

企業買収の手順5:基本合意書の締結

「基本合意書」とは、売り手・買い手双方が交渉段階で締結する契約書で、「いつ、いくらで、どのような方法で譲渡するか」という骨子を定めた仮契約のことだ。

仮契約とはいっても、原則として基本合意書の締結後に破談になることはあまりないと考えておこう。そのため、基本合意書の締結までにも多くの交渉が行われる。

基本合意書の締結が重要なのは、締結後は売り手企業の機密情報が開示されるとともに、売り手企業の幹部社員に告知をしたり、主要取引先に内諾を得るために情報開示をしたりすることになるため、ここまできて破談すれば大きな損害が生じるからである。

企業買収の手順6:買収監査(デューデリジェンス)の実施

買収監査(デューデリジェンス)とは、買収の対象である企業が抱えているリスクを洗い出し、企業買収後の経営におけるリスク対策のために行われる調査である。ここで経営上の重大リスクが表面化し、企業買収が破談になることも少なくないので、慎重に行わなければならない。

会社や事業を譲り受ける場合、決算書の正確性や法的リスクなど、調査すべきことは多い。また、財務や法務の専門知識がなければ、詳細に調査することも不可能である。

デューデリジェンス(DD)は極めて専門的であるため、公認会計士や税理士、弁護士などの専門家を交えて行うのが通常であるが、DDの実務に精通した専門家に依頼する必要がある。

DDを行うことで今後のリスクを把握できるため、リスクに対応するために以下のような対応ができる。

・企業買収自体を中止する
・買収価格を下げる
・クロージングが行われる前に売り手企業にリスクを解消させる

・リスク回避のための買収スキームの変更
また、リスクを回避する他の手段として、取引形態(買収スキーム)を変更するという選択肢がある。

例えば、株式取得によるM&Aを行う予定だったが、DDを実施した結果、想定以上に売り手企業が債務超過に陥っていることがわかったとする。さらなる簿外債務が見つかるリスクがある場合には、事業譲渡にスキームを変更するという手段がある。

事業譲渡スキームなら、売り手企業の一部分のみを統合できるため、リスクを抱えた財務面を引き継がないという選択ができる。DDによって明らかになったリスクとその回避について対策を講じたら、最終契約書に反映させなければならない。

企業買収の最終契約書には、通常、表明保証条項があり、売り手企業が買い手企業に対して正確な情報を開示していることを保証する。これにより、簿外債務や隠されたリスクが判明した場合に、買い手企業はその損害について売り手企業に賠償させることができる。

もし、売り手企業がクロージングまでにリスクを解消すると合意していたならば、誓約事項にその旨を記載し、買い手企業はリスクを負わないことも明記しておくことで、後々発生するトラブルを回避できる。

企業買収の手順7:最終契約書の締結

ここまでくれば、いよいよ「最終契約書」の締結である。最終契約書には、以下のように細部に亘り取り決めした事項を契約書に盛り込むことになる。

・譲渡代金の決済方法
・新経営陣をどうするか
・前社長からの引継ぎ期間とその間の肩書きや報酬について
・私的に使っている車などの財産
・社長名義の保険の積み立て
・役員借入金の処理
・社長親族の処遇
・下請の処遇
など

株式譲渡の場合は、「株式譲渡契約書」を、事業譲渡の場合は「事業譲渡契約書」を最終契約として締結する。

企業買収契約が成立した後の手順

代金決済

代金決済は、形のない会社を譲渡するにあたって譲渡の事実を実感できるイベントとして、非常に印象深いものになる。

企業買収に慣れた企業であったり、企業規模にかなり差があったり小規模なM&Aであれば、代金を振り込んで終わりかもしれないが、セレモニー的な意味合いから、金融機関などで現金や小切手などを手交することもよく行われる。

また、通常、代金決済時に多くの覚書等も交わされることになる。さらに、以下のような保存書類についても、このときに引き渡しを行うことになる。

・株券
・銀行取引印
・株主名簿
・印鑑証明カード
・預金通帳
・不動産権利書
・代表印
・各種議事録
など

従業員や取引先への公表

企業買収成立後の統合プロセスのことを、「PMI(ピーエムアイ:Post Merger Integration)」と呼ぶ。買い手にとっては、多額の資金を投入した企業買収を実効的なものにするためにも、事前の手続以上に重要なプロセスであるといえる。

特に中小企業にとっては、企業買収はその企業の技術資産を買収するよりも、従業員や取引先を引継ぐといった意味合いが強い。そのため、企業買収をして従業員と取引先が全員去ってしまっては元も子もないだろう。

そのためには、従業員や取引先への公表のタイミングが重要である。一般的には、基本合意締結後に、幹部クラスの従業員に「極秘事項」として公表し、最終契約締結後に、その他の従業員と取引先に伝えるのが一般的である。

従業員に対しては、一同に会して説明することもあれば、心温まる手紙をしたためる経営者もいる。従業員は会社の文化が大きく変わることや雇用形態が守られるかが大きな関心事になるため、その部分のフォローは極めて重要である。

企業買収の手順を理解し成功のための事前準備をしよう

これまで、企業買収の流れについて解説してきた。契約が固まるまでは、企業買収については絶対に内密にしておかなければならない。情報が漏れて噂が広がれば、誤解を招いてしまう恐れがあるからだ。

企業買収を行う際には事前準備が不可欠である。また、企業買収が成立した後には、主要取引先にオーナー自ら直接挨拶に出向き、それ以外への取引先へは社長交代に合わせて書面で伝えることも多い。

特に重要な大口取引先に対しては、最終契約前に内諾を得ておくことが必要な場合もあるので、注意が必要である。

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文・内山瑛(公認会計士)

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