JR各社、自粛明け後も赤字1000億超え?鉄道会社の終わらない苦悩
(画像=kawamura_lucy/stock.adobe.com)

新型コロナウイルスの影響で、2021年上半期は自粛ムードが長引いた。人々の移動を担う鉄道各社の業績はどのような状況となったのか。この記事では、JR各社の決算と業績のV字回復に向けた取り組みに迫っていく。

JR各社の営業収益(売上高)状況

まずは、2021年上半期の実績について見ていこう。

JR東日本は前年同期比11.5%改善

JR東日本の2022年3月期連結第2四半期決算(2021年4~9月)は、営業収益が前年同期比11.5%増の8,778億円、営業利益が1,158億円の赤字(前年同期は2,952億円の赤字)となり、前年に比べ回復傾向にある。

なお、前々年同期は営業収益1兆5,188億円、営業利益2,965億円で、コロナ禍前の水準にはまだまだ戻っていない状況だ。この傾向は、後述する各社とも共通している。

セグメント別では、運輸部門が5,869億円(前年同期比18.5%増)、流通・サービスが1,289億円(同6.7%減)、不動産・ホテルが1,336億円(同11.8%増)、その他が283億円(同17.3%減)となっている。

JR西日本は前年同期比8.6%増に

JR西日本の2022年3月期連結第2四半期決算は、営業収益が4,368億円(同8.6%増)、営業利益が861億円の赤字(前年同期は1,447億円の赤字)で、こちらもコロナ禍の水準には戻っていないものの、前年同期と比較すると改善傾向にある。

セグメント別では、運輸部門が2,356億円(同13.3%増)、流通が555億円(同17.4%増)、不動産が662億円(同3.7%増)、その他が794億円(同4.6%減)となっている。

JR東海は前年同期比27%改善、新幹線が回復をけん引

JR東海の2022年3月期連結第2四半期決算は、営業収益が3,869億円(同27.4%増)、営業利益が341億円の赤字(前年同期は1,138億円の赤字)で、前年に比べ大幅に改善した。

セグメント別では、運輸部門が2,900億円(同33.6%増)、流通が449億円(同34.4%増)、不動産が356億円(同6.9%増)、その他が943億円(同6.0%減)の状況である。運輸部門においては、前年同期と比べ在来線48億円増に対し新幹線が658億円増と、新幹線が回復をけん引した格好だ。

宿泊や観光事業も前年に続き大打撃

各社とも鉄道事業を軸に宿泊施設や商業施設の運営や不動産事業なども手掛けているが、2021年4~9月の多くの期間は国の緊急事態宣言下にあり、多くの人の移動そのものが抑制された。このため、本丸の鉄道事業のみならず、宿泊事業や観光関連事業などにも大きな影響が及び続けている状況だ。

JR各社が進める新たな取り組み

次に、今後の回復に向けた各社の取り組みについて紹介する。

JR東日本はワンマン運転や自動運転技術を推進

JR東日本は2021年度の黒字化に向け、成長・イノベーション戦略の再構築や経営体質の抜本的強化を推し進めている。

鉄道事業では、ワンマン運転や自動運転技術を推進している。2021年3月に常盤線に自動列車運転装置を導入したほか、上越新幹線においても自動運転の実証実験を行った。

駅では、チケットレス・キャッシュレスを推進するとともに、将来に向け駅を「切符を売る場所」から「新しいビジネスを生み出す場所」に変換し、駅のショールーミング化やシェアオフィスなどの事業を展開していく。

旅行関連では、観光型MaaSの本格導入をはじめ、「東日本ダイナミックレールパック」など需要に合わせて料金を変動させるダイナミックプライシング商品の導入も進めている。特急料金の座席指定料金も、繁忙期と閑散期の価格差を大きくし、ピーク需要の分散化を図る。

JR西日本はウェブ販売強化などビジネスモデルを見直し

JR西日本は本社部門をスリム化する一方、今後の成長を担う地域共生部やビジネスデザイン部を設置し、組織の構造改革と効率的な運営を図っている。経営関連では、一部不採算店舗の閉鎖や跡地活用、ホテルの撤退など合理化を進めるとともに、旅行商品を店頭販売からウェブ販売へ転換していくなど、ビジネスモデルの見直しを進めていく。

JR東海はテレワークニーズを強化

JR東海は、新幹線「のぞみ」の一部車両にモバイル端末を気兼ねなく使用できる「S Work」や、N700Sに容量など強化した無料Wi-Fiサービスを導入した。そのほか、一部駅に半個室タイプのビジネスコーナーを設けるなど、テレワークニーズに対応する取り組みを進めている。

また、鉄道旅客に依存しない収益拡大に向け、食料品事業の新たな出店計画なども進めている。

航空業界の状況は?鉄道会社とどちらが早く回復する?

ちなみに、同じく交通サービスを提供する航空業界では、2022年3月期第2四半期連結決算においてANAが売上高4,311億円(前年同期比47.7%増)、営業利益は前期の2,809億円の赤字から1,160億円の赤字と、1,000億円以上赤字幅を縮小させている。

JALも売上収益2,906億円(同49.2%増)、営業損失1,049億円の状況である。両社とも第4四半期の黒字化を目指しているが、2022年3月期の通期は赤字の見通しだ。

一方、JR東日本の通期予想は1,150億円の赤字、JR西日本は940~1,290億円の赤字、JR東海は1,060億円の黒字化をそれぞれ見込んでいる。

鉄道業界と航空業界のどちらが先に回復するかは断言できないが、2021年秋以降新型コロナウイルスは小康状態を保っており、ワクチン接種も計画通りに進んでいる。経済活動や社会活動は徐々に平穏を取り戻しつつあり、各社とも下期の復調に期待を寄せるところだ。

GoToトラベルが起爆剤に?V字回復に期待

政府は新たなGoToトラベル制度の概要を発表し、早ければ2022年1月中の事業再開を目指している。鉄道各社にとってこれは大きなプラスとなる。各種旅行商品を展開し、業績の上方修正につなげていきたいところだろう。

まだまだ予断を許さず慎重を期す必要はあるが、重要な輸送インフラを担う鉄道各社のV字回復に期待したい。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

無料会員登録はこちら