経済大国で加速する貧困 コロナで鮮明になる貧富二極化
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日本経済を表す「モノプソニー」とは?

日本の最低賃金の議論がされるときに、「モノプソニー」(monopsony)という言葉を耳にするようになった。

「モノプソニー」(monopsony)とはモノポリー(monopoly、直訳で独占)の反意語として生まれた。経済学に詳しくない人間でもこちらの言葉は聞き覚えがあるのではないだろうか。

アメリカで生まれた「モノポリー」というゲームの名称はここから来ている。 モノポリーは複数名のプレイヤーが家やホテル、不動産などの資産を増やし、他のプレイヤーに使用させることで現金を得る、得た現金を用いてまた資産を増やす。というすごろく形式で進められるゲームだ。

ただ、現実社会とは異なり、盤上の資産(土地、会社、現金)には上限があるため、ゲームを進めるうちにすべての資産は1人のもとに集まるか、あるいはその前に他のプレイヤーが破産してしまう。

アメリカの金融教育の初歩とも呼べるゲームだが、つまりモノポリーとは不動産やサービスの「売り手」が1人になることでそれに金を払い続けなくてはならない「売り手独占」の状況を指している。

その反意語である、モノプソニーは売り手が多数いる状況で買い手が少ない状況を指す。 売り手側にとっては唯一の買い手に対して、価格を下げざるを得ない状況となってしまい、売り手たちの間で価格の引き下げ競争が加速してしまうのだ。

2020年になってモノプソニーは労働力(人件費、収入)に対して使われることが多くなった。 特に日本では、最低賃金の議論がなされるときにこの「モノプソニー」を耳にすることが増えた。

モノプソニー、モノポリーの問題点とは?

基本的に市場は競争であるという原理に基づいている。 ただし、モノポリーのような1社で市場を独占すると、売り手が力を持ち、価格のつり上げ(ぼったくり)が容易になるためゲーム以上に破産者が続出しまう。

2016年のアメリカで、マーティン・シュクレリという元ヘッジファンドの経営者の行いが問題になった。シュクレリは慢性肝疾患などの治療薬「チオラ」の販売権を買収すると価格を1錠当たり1.50ドル(173円)から30ドル(約3500円)に値上げ、同様に、エイズ・マラリアの治療薬「ダラプリム」の価格を1錠13.50ドル(1500円)から750ドル(9万円)に値上げした。

どちらの薬も他に有効薬がない状態で市場を独占していたため、このようなことが行われたのだ。 現在では、どちらの薬も値下げは撤回され、他社がより安価な後発薬を販売している。

このような事態を防ぐために、多くの国では財閥などを廃し、日本の「独占禁止法」に該当する法律が作られている。

GAFAなどの企業の「独り勝ち」を阻むのもこのモノポリーを警戒してのことだ。 例えば、近くの病院の住所を調べたいがグーグルの有料アカウントを持っていないと検索ができない。アマゾンが提示した価格でなければ事業者は出品ができないなど、社会に混乱をもたらす事態が予想されるからだ。

一方で、モノプソニーの問題点は「買い叩かれる」ことにある。

労働者が多数いる中で、雇用する会社が少なく、会社が力を持つ傾向が強いのだ。 特に、フリーランス、子どものいる女性、単純労働者、中小企業の従業員は賃金が上がらない傾向にある。モノプソニーの問題は、低賃金というだけではなく会社の権力が暴走し「ブラック企業化」を容易にしてしまうことにもある。

モノプソニーに陥っている会社は、賃金だけではなく「買い手の権力」も同時に有している。そのため、従業員は、労働者はサービス残業やパワハラ、セクハラ、自腹営業などの被害に会いやすい。

「お前の代わりはいくらでもいる」という言葉は、まさにモノプソニー側に立った経営者の言葉だろう。

モノプソニーの脱却が日本の切り札に

モノプソニーによる低賃金化に歯止めをかけるための施策としては、

・業界再編をすすめ会社組織を大きく統合する ・企業が生産性を高める ・最低賃金を上げる

などがあげられている。

社会へのモノプソニーへの認知・理解が進むことで、今後、自由経済において低賃金がなぜ、日本経済を停滞させているのか、最低賃金をあげることでどのようにして経済が活性化していくのかを紐解いていく重要なキーワードになることが予想される。