M&Aコラム

(画像=kai/stock.adobe.com)

企業がビジネスを継続するために、資金調達は経営上の重要な課題です。企業の主な資金調達の手法には、第三者割当増資や融資などが挙げられます。本記事では、第三者割当増資の概要、第三者割当増資のメリットや注意点などについて、詳しくご説明します。

第三者割当増資とは

第三者割当増資とは企業の主要な資金の調達手法には、増資と融資があります。増資とは新株の発行によって新たな資金を調達する手法で、融資は銀行などの金融機関が企業に資金を貸し付ける手法です。
「第三者割当増資」は、既存株主に新株(新たに発行する株式)の購入権利を付与する増資とは違い、第三者に新株の購入権利を付与する増資のことです。

増資は無償増資(株主から払込金を受領することなく新株を割り当てる増資)と、有償増資(株主から払込金を受け取って新株を割り当てる増資)という2つのタイプに分かれます。
「第三者割当増資」が該当する有償増資にはそのほか、「株主割当増資」と「公募増資」があります。
「株主割当増資」は既存株主に新株の取得権利を与える 増資の手法です。対して「公募増資」は、あらゆる一般の投資家に新株の取得権利を与える増資の手法のことを指します。

株主割当増資

株主割当増資は、既存株主が保有している株式数の割合に応じて、新株を取得する権利を与えるタイプの増資です。
株主割当は有償増資の一つの形態であり、新株取得の権利を得たからといって、必ず引き受けなければならないという義務はありません。新株を引き受けるかどうかは、投資家の意思で決めます。また、既存株主に新株を発行する増資なので、企業の株主構成に大きな影響を与えることはありません。持分割合にも大きな変化も生じず、新たな株主に対する脅威からは無縁である、というメリットもあります。

反対に、株主割当増資によって新株が割り当てられる既存株主にとっては、原則として株主構成や持分割合に変化が生じないことから、新株を引き受ける明らかなメリットはないともいえます。場合によっては、株主割当増資による新株の引受けを拒否する既存株主もいるかもしれません。したがって、株主割当増資を利用した資金調達を考えている企業では、既存株主の理解を得るための説明に多くの時間がかかってしまうといったデメリットがあります。

公募増資

公募増資は、広く一般の投資家を対象に新たな株主を募集する手法です。上場企業が時価をベースにした価格で新株を発行します。公募増資を実施する企業の知名度の向上に大きく寄与するとともに、自社株の株式マーケットでの流通性アップにもつながるメリットも期待できます。ただし既存株主としては発行株式の総数が増えてしまうので、自分が保有している株式の価値が相対的に低下してしまいます。その結果、一時的に自社の株価が低くなってしまう可能性がある、というリスクも併せ持ちます。また、公募増資で資金の調達が実施できた場合は、そのあとが大切です。自社の事業を成長させて、業績を向上させるという長期的な企業経営努力を続けなければ、自社の株価の低迷という事態を生じさせかねません。

上場企業が増資を行う場合、新しい株主が増える=規模の大きい資金調達が実現するため、広く一般の投資家を対象とする「公募増資」が行われます。
一方で、株式を非公開にしている中小企業が増資を行う場合、公募増資を使用することが事実上不可能である為、「第三者割当増資」が用いられます。

第三者割当増資を行う目的

第三者割当増資を行う主な目的は次の3つです。それぞれについて見ていきましょう。

資金の調達

まず、資金を調達するという主目的が挙げられます。自社の企業理念や事業内容に理解がある、あるいは、新たなビジネスチャンスや株主価値の向上を期待する新たな株主に対して、新株を発行して新規の資金を得ます。
つまり、今後の自社ビジネスの成長にとって必要な資金を調達したい、という企業の目的とも合致した増資手法の一つです。

M&Aの実施

第三者割当増資は、M&Aを実施する目的として利用される事例もあります。株式会社では、議決権がある株式の保有割合が過半数に達した場合に、支配権を有することになります。具体的には、取締役の選任や解任などは、普通決議で決めることが可能です。また、2/3以上の議決権がある株式の保有があれば、定款の変更や解散などの重要な経営施策も単独で実施できます。

つまり第三者割当増資では、過半数または2/3以上の発行済株式を買い手側企業が保有すれば、売り手側企業の経営権の譲渡が実質的に可能です。資金調達を主要な目的とすることが多い第三者割当増資ですが、M&Aのうちの一つとして実施する事例も見受けられます。出資比率によっても異なりますが、中小企業のM&Aでは役員の派遣を伴う場合が多く見られます。

他社との関係性強化

株式数の保有割合が多ければ多いほど、原則としては、その企業に対する支配権は強化されます。
今まで多くの日本企業では、自社に友好的な企業や取引先に対して新株を発行し、長期間保有してもらう「株式持合」(友好的な関係にある企業同士が相互に株式を保有すること)を利用して、関係性の強化を図っていました。そして株式持合には、主に株主割当増資と第三者割当増資が活用されています。
ただし、現在は株主による企業へのモニタリングが強化されてきたことにより、価値を生まない(価値が低い)株式投資に反対する投資家も増加してきました。株式持合に対しても、投資の結果を要求するようになっているのは間違いないでしょう。

第三者割当増資のメリット

第三者割当増資のメリットとして主な5つをご紹介します。

スピーディーな資金調達ができる

一番のメリットは、自社に直接資金を投入でき、財務基盤を強固な状態に保てるという点です。この資金は、原則として返済義務がなく、安定的な事業運営に役立ちます。
また、手間や時間を要する公募増資に比べると、第三者割当増資は比較的簡単な手続きで実施することが可能です。短期間で資金調達ができるので、スピードが求められる新規事業への展開などの資金調達に適しているでしょう。

事業の多角化・規模の拡大が目指せる

第三者割当増資で調達した資金の投入により、事業の規模拡大や新規事業への進出なども可能になります。資本金が増加すれば企業としての信用力も増し、以前よりも事業資金の調達が楽になるでしょう。したがって、事業に対するさらなる投資の強化が可能です。
さらに新たな資金調達によって、事業の多角化や規模の拡大などを目指せる、という事業戦略上の大きなメリットもあります。また、強化された資本力を背景にして、事業提携などのケースでも主導権を保持しながら交渉を進められる点も、事業拡大に資するメリットといえるでしょう。

引受け先を決めた状態で実施できる

第三者割当増資では、株式を付与する相手先を事前に決めた状態で実施できます。誰が株主になるのかわからない公募増資のケースでは、資金調達はできたものの、自社が望んでいない株主(たとえば、経営に批判的な株主、将来敵対する可能性がある株主など)を排除できません。このような株主の状況では、経営者は安定的な経営をすることが困難になってしまう可能性があります。しかし第三者割当増資では、自社に対して友好的な株主のみをチョイスしたうえで、新株の購入権利を与えることが可能です。したがって、安心・安定した経営施策を展開できるというメリットがあります。

他社との関係性がより強化される

第三者割当増資の引受け先は、新株発行企業にとって既に友好的な企業や出資者が一般的です。友好的な関係者が新たに第三者割当増資を引き受けてくれることで、今まで以上に友好関係が強化され、取引などにも好影響を与えるメリットが考えられるでしょう。
また、第三者割当増資を活用して調達した資金を事業活動に投入し、業績が向上すれば、配当金が増える可能性や株価が上昇する可能性もあります。そのため新株発行企業のみならず、第三者割当増資の引受け先にもメリットが得られます。

返済義務や税金が必要ない

第三者割当増資で調達した資金は、原則として返済する義務がありません。融資の場合は、契約条件に則って金融機関に返済が必要です。経営者は、常に返済のことを意識しながら自社のビジネスを運営しなければならない、という不安のもとにさらされます。第三者割当増資であれば、こうした不安は考えられません。
なお、自社資産の売却や他社からの贈与などの方法でも、資金を調達することは可能です。しかし、譲渡税や贈与税などの税金が課せられます。第三者割当増資による資金調達では、原則として税金が発生しません。

第三者割当増資を活用する前に確認したい注意点

第三者割当増資を活用する前に、注意点についても確認しておきましょう。

既存株主の保有割合が低下する

第三者割当増資で新株が発行されると、全体の株式数は増えるものの、既存株主の保有割合は低下してしまいます。既存株主側からすると、場合によっては当該企業の議決権を獲得できなくなってしまうかもしれません。
このような状況では、従来のように企業の意思決定プロセスに参加できなくなってしまうので、業務の停滞を招いてしまうおそれもあります。また、持株比率の低下は、お互いの関係性弱化にもつながります。取引条件の見直しなどの事態が生じてしまう可能性もありえるでしょう。

多くの資金を用意する必要がある

第三者割当増資を活用して会社の支配権を獲得するためには、一定以上の持株割合となるだけの新株の引受けが必要です。したがって、株式譲渡と比較した場合は、それだけ多くの資金が必要になる、という点には注意しなければなりません。
株式譲渡では、支配権を獲得できるだけの株数を譲渡されれば問題はありません。しかし、第三者割当増資の場合には、既存株主の持株割合を意識したうえで、新株の引受けを検討することが大切です。その結果、多額の資金準備が必要になるケースもありえるでしょう。

増税する可能性がある

前述した「第三者割当増資のメリット」では、原則として「税金が課されることはない」とご説明しました。しかし、第三者割当増資を実施した結果、資本金が増えてしまうと増税になってしまうかもしれません。
具体的には、資本金が1,000万円以内で消費税を免除されていた企業が、第三者割当増資によって資本金が1,000万円を超えてしまうケースが挙げられます。このケースでは第三者割当増資の影響で消費税が課されることになり、納税が必要です。また、第三者割当増資によって資本金が1億円以上になった場合は、法人税の軽減税率を適用できません。さらに中小企業の場合には、優遇税制を適用することも不可となります。

変更登記の申請期限に注意が必要

第三者割当増資を実施した場合は、払込日の翌日を起算日として、2週間以内に変更登記の申請をしなければなりません。なお、民法第140条では、起算日が初日不算入と定められています。変更登記の申請期間は2週間以内と短いため、注意しなければなりません。
もし2週間以内に変更登記の申請をしなかった場合でも、登記の申請は可能です。しかし、変更登記の申請をしないままでいると、代表取締役に過料という制裁金が科せられてしまう可能性があります。そのあとも未申請の状態が続くと、休眠会社と見做されて、強制的に解散させられてしまう場合もありえるでしょう。これが「見做し解散」です。

第三者割当増資を実施するまでの流れ

第三者割当増資を活用する前に、確認したい注意点について解説しました。ここでは、第三者割当増資を実施するまでの具体的な流れについてご説明しましょう。

①募集事項を決定する

第三者割当増資を実施する際には、有利発行のケースを除けば、最初に取締役会で募集要項を決める必要があります。なお、有利発行を実施する場合は、既存株主の保護を目的として、株主総会の特別決議をしなければなりません。

募集事項は、以下のように定められています。

  • 募集株式の数(種類株式発行会社では募集株式の種類および数)(会社法第202条第1項)
  • 募集株式の払込金額、またはその算定方法(会社法第202条第2項)
  • 金銭以外の財産を出資の目的とするときは、その旨ならびに当該財産の内容および価額(会社法第202条第3項)
  • 募集株式と引換えにする金銭の払込み、または上記の財産(金銭以外の財産)の給付の期日、またはその期間(会社法第202条第4項)
  • 増加する資本金および資本準備金に関する事項(会社法第202条第5項)

②株主に対する通知・公告を行う

続いて、取締役会で決定した上記の募集事項を株主に対して、払込期日の2週間前(あるいは払込期間の初日)までに通知、あるいは公告を実施します(会社法第201条第3項および第4項)。

③引受け申込み希望者に対して通知を行う

次に、募集する株式の引受け申込みを希望している人に、下記の項目を通知しなければなりません(会社法第203条第1項)。

  • 株式会社の商号(会社法第203条第1項第一号)
  • 募集事項(会社法第203条第1項第二号)
  • 金銭の払込みをすべきときは、払込みの取扱いの場所(会社法第203条第1項第三号)
  • 前三号に掲げるもののほか、法務省令で定める事項((会社法第203条第1項第四号)

④引受けの書面を交付する

続いて、募集株式の引受けを申し込む人は、以下の内容を記載した書面を交付しなければなりません(参照:会社法第203条第2項)。

  • 申込みをする者の氏名または名称および住所(会社法第203条第2項第一号)
  • 引き受けようとする募集株式の数(会社法第203条第2項第二号)

➄割当先の決定と申込者に通知を行う

次に、割当株式の割当先を決めて、割当募集株式の株式数を決定します。また取締役会設置会社の場合は、取締役会決議で決定することが可能です(参照:会社法第204条第1項、会社法204条第2項)。

⑥出資の履行をする

最後に、募集株式の引受け人は払込日あるいは払込期間内に、募集株式のすべての払込金額を、会社が定めた銀行などの金融機関の払込取扱場所へ払い込みます(参照:会社法第208条)。

終わりに

第三者割当増資は、資金調達という目的だけではなく、M&Aや取引関係の強化などの、さまざまな目的にも活用できる手法です。ただし、既存株主の持株比率低下による不満の噴出など、対応しなければならない点も少なくありません。したがって、第三者割当増資を検討する場合は、あらかじめさまざまな課題を想定して対応しておくべきでしょう。

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