「住みたい街ランキング」と「住み続けたい街ランキング」は、定期的に発表されている。この2つのランキング、ほぼ同じ結果かと思いきや、そうではない。順位にはかなり違いがあり、「理想」と「現実」のギャップを感じさせる。最新のランキングを比較していこう。
2つのランキングの最新版を比較
住宅事業を展開しているリクルートが、冒頭で触れた「住みたい街ランキング」と「住み続けたい街ランキング」をそれぞれ発表している。その2021年版の「関東版」を比較すると、以下のようになる。
「住み続けたい街」で順位を落とす東京都港区
住みたい街ランキングで1位だった「東京都港区」は、住み続けたい街ランキングでは6位と振るわない。住みたい街で2位だった「東京都世田谷区」に至っては、住み続けたい街では18位まで順位を落としている。
「住みたい街」では順位が低い東京都武蔵野市
一方、「東京都武蔵野市」は住みたい街ランキングでは15位と順位が低めだったが、住み続けたい街ランキングでは堂々の1位だった。住みたい街で9位だった「東京都中央区」も、住み続けたい街では2位と上位にランクインしている。
住む場所に関する「理想」と「現実」
このように、自治体によっては2つのランキングでかなり差が出る結果となっている。このような差が生じるのは、住みたい街ランキングは「理想」を、住み続けたい街ランキングは「現実」についてたずねているアンケートだからである。
「東京都港区」のホントのところ
住みたい街ランキングでは1位、住み続けたい街ランキングでは6位の東京都港区は、戦後から続く繁華街を有する赤坂エリアなどがある地区だ。「港区女子」というトレンドワードも生まれるほど華やかな印象がある。
日本のビジネスの中心地である芝エリアも港区にあり、新橋や虎ノ門周辺では高層ビルが林立する。このような点が多くの人に「住みたい街」と思わせる要素となっているようだ。ちなみに、住みたい街ランキングの関東版では、東京都港区が4年連続で1位となっている。
一方で東京都港区が、住み続けたい街ランキングでは6位に順位を落としているのはなぜか。その理由のひとつには、賃貸物件の家賃相場の高さがあると考えられる。最初のころは憧れの港区に住めた喜びが勝っていても、徐々に家賃の負担が重く感じるようになる人は少なくないはずだ。
「東京都武蔵野市」のホントのところ
東京都武蔵野市は前述の通り、住みたい街ランキングでは15位だが、住み続けたい街ランキングでは1位である。つまり、武蔵野市に憧れる人は少ないものの、住んでみて武蔵野市の魅力に気付いた人が多くいるという結果となった。
武蔵野市の魅力は、利便性の高さや緑の豊かさなどで、住みやすさの観点で言えば東京都内でトップクラスと言える。これらの魅力から、企業の社長や大学教授などの研究者、芸術家などからの人気も高い。
市の取り組みに対する評価も高く、武蔵野市は日本におけるコミュニティバスの元祖と言われる「ムーバス」を展開していることでも知られる。
「住み続けたい街」に住む方が賢明か?
「住みたい」と思う街に住むことに喜びを感じるのは、止めようがない人間の感情だ。しかし、その喜びが長続きしないとすれば、多くの人が「住み続けたい」という街に住む方が、賢明な判断なのではないだろうか。
この記事では、主に東京都内の街の順位について考察したが、神奈川県の街でも順位には大きな隔たりがあった。例えば「神奈川県逗子市」を見てみる。住みたい街ランキングではトップ20圏外だが、住み続けたい街ランキングでは4位タイへと順位が上がる。東京都目黒区と同じ順位だ。
もしいま、関東圏への引っ越しを考えているなら、住みたい街ランキングと住み続けたい街ランキング、あなたならどちらを参考にして住む場所を決めるだろうか。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)