サントリー社長「45歳定年」発言 VS 厚労省推進「70歳定年」どっちが幸せ?
(画像=mshin/stock.adobe.com)

日本で今後、推奨されるべきは「45歳定年」か「70歳定年」か。政府は、企業に70歳までの継続雇用を努力義務として課したが、サントリーの新浪剛史社長がこれに逆行するような45歳定年制を提唱し、話題になった。定年の年齢は早めるべきなのか、遅くするべきなのか。

サントリー新浪社長が「45歳定年制」発言

サントリーの新浪社長が45歳定年制について発言したのは、経済同友会がオンラインで開催した夏季セミナーの場だ。「45歳定年制を敷いて会社に頼らない姿勢が必要だ」と述べた。この発言に対してネット上などでは、「首切りの言い訳だ」といった批判の声が目立った。

新浪社長はその翌日に開かれた記者会見の場で、45歳定年制を提唱した理由について、45歳が人生の節目であることなどについて触れているが、提唱した真意までは明らかになっていない状況だ。

45歳定年制のメリットとデメリットを考える

仮に45歳定年制が導入されるとすれば、企業側と従業員側にどのようなメリットとデメリットがあるのだろうか。

企業側のメリットとデメリットは?

45歳定年制が導入されると、企業は従業員を45歳で「選別」できる。優秀な社員は退職後に再雇用すればよく、会社側があまり必要としない人材には辞めてもらえばいい。そうすれば、企業は優秀な社員の比率を高めることができる。

一方で、デメリットとなり得る面もある。従業員が45歳を節目として「第二の人生」について考え出してしまうことだ。このようなことにより、残ってほしい優秀な人材に再雇用を申し出ても、応じてもらえなくなる可能性が出てくる。

従業員側のメリットとデメリットは?

従業員側にメリットはあるのだろうか。アメリカのように人材の流動性が高い状況だと、スキルを高める努力を怠るわけにはいかない。そのようにして環境が個々人のスキルアップを促すことは、長期的な視点で見ると従業員のメリットと言えなくもない。

また、第二の人生を歩もうとしているものの、なかなか決断できない人にとっては、45歳はいい節目になるかもしれない。

一方、45歳定年制のデメリットを最も感じるのは、同じ会社で長く働くライフプランを考えていた人ではないか。さらに言えば「45歳から新たな仕事が見つかるのか」と不安に思う人は多いはずだ。

導入するとしても、議論が尽くされるべき

このように45歳定年制は、企業側と従業員側にそれぞれメリットとデメリットがあり、この制度を導入すべきかどうか結論を出すのは簡単なことではない。

雇用の仕組みを変える際には慎重を期す必要がある。日本では「派遣労働」の解禁が社会に大きな影響を与え、派遣労働を禁止すべきという声も根強い。そのため、もし45歳定年制の導入に踏み切るなら、有識者を交え、国会の場などで議論が尽くされるべきだろう。

国は定年の年齢を後ろ倒しする方向性

冒頭でも触れたが、政府はむしろ定年の年齢を後ろ倒しする方向性で動き続けてきた。

すでに企業に対しては、継続雇用を希望する従業員を65歳まで雇用することが義務付けられているが、2021年4月に「改正高年齢者雇用安定法」が施行され、従業員に対する70歳までの就労機会の提供も努力義務として課されることになった。

なぜ、このような法改正が行われたのか。厚生労働省のウェブサイトではその目的について、次のように説明されている。重要な一文なので、該当箇所をそのまま引用したい。

「少子高齢化が急速に進展し人口が減少する中で、経済社会の活力を維持するため、働く意欲がある高年齢者がその能力を十分に発揮できるよう、高年齢者が活躍できる環境の整備を目的として、『高年齢者等の雇用の安定等に関する法律』(高年齢者雇用安定法)の一部が改正され…」(出典:厚生労働省の公式サイトより)

言い換えるならば、少子高齢化で労働人口が減少する中で、高齢者にも働き手として活躍し続けてもらえなければ、日本経済の失速が免れない、ということであろう。

定年制について考える良いきっかけに

この記事では「45歳定年」と「70歳定年」を比較してきたが、あなたはどちらに賛成だろうか。仮にどちらに賛成でもないなら、どのような意見をお持ちだろうか。

平均寿命が伸び、定年後に過ごす人生が長くなっていることも考えると、今までより長く働くことは必然と考える人もいるだろう。特に、老後の生活資金が不安な人にとっては、長く働ける70歳定年制に軍配が上がるかもしれない。

いずれにしても、すぐには45歳定年制が日本で導入されることはないが、今回の新浪社長の発言を機に定年制に関する関心が社会において高まる可能性がある。もしかすると今後の国政選挙などで、定年制に関する公約を各党が掲げるようになるかもしれない。

仮にそのような将来が訪れるとすれば、有権者一人ひとりがもっと定年制について考えを深める必要が出てきそうだ。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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