幅広く金融事業を展開するSBIホールディングスが、新生銀行に対するTOB(株式公開買い付け)を開始した。両者はこれまで協業関係にあったが、実質的な敵対的TOBと言え、事態は泥沼化の様相を呈し始めている。いまホットなSBIと新生銀行のトピックを深掘りする。
そもそも「TOB」とは?
SBIホールディングスと新生銀行の今回のトピックについて理解するためには、そもそも「TOB」がどのようなものかを、理解しておく必要がある。
TOBとは「Takeover Bid」を略した言葉で、企業買収の手法のひとつに数えられる。株の買い付け期間や価格といった条件を事前に公開し、不特定多数の投資家から相手企業の株式を取得する。目的は相手先企業の子会社化などだ。
買収する企業との同意の下でTOBが実施される場合は「友好的」なTOB、相手先企業の経営陣との同意がないままで実施する場合は「敵対的」なTOBと解される。
今回の場合、新生銀行側はSBIホールディングが仕掛けたTOBに対して、正式に取締役会としての賛否を発表してはいない。しかし現時点では社外取締役のみの協議会で反対の方向性を示しており、すでに買収防衛策の導入を決議していることも考慮すると、実質的には敵対的TOBと言えそうだ。
SBIホールディングスがTOBを仕掛けた背景
TOBについて理解した上で、今回なぜSBIホールディングスが新生銀行にTOBを仕掛けたのか、その背景について説明していきたい。
冒頭触れた通り、SBIホールディングスと新生銀行は協業関係にあった。しかし新生銀行は2021年1月、金融商品仲介業務においてマネックス証券と包括提携を締結することを発表した。このことが、SBIホールディングスがTOBを仕掛ける「火種」となった。
SBIホールディングスは、子会社のSBI証券を通じて金融商品の仲介事業を展開している。つまり新生銀行は、SBIのライバル関係にあるマネックス証券と手を組んだということだ。この提携で、SBIホールディングスの新生銀行に対する心証はかなり悪くなったに違いない。
そして2021年9月9月、SBIホールディングスは新生銀行に対するTOBを実施すると発表した。その時点でSBIホールディングスが保有していた新生銀行の株式は19%程度だ。最終的には出資比率を48%まで増やすことを目標としている。
TOB表明後の動きは?新生銀行側は反発
その後の動きを時系列でたどっていこう。
9月9月にSBIホールディングスがTOBの実施を発表したあと、新生銀行側は9月17日に買収防衛策を導入することを決議し、SBIホールディングスに対して質問状を送った。つまり、SBIホールディングスのやり方に反発したわけだ。
そして新生銀行側は同日、TOBの期間を延長するようSBIホールディングスに要求した。当初はこの要求をSBIホールディングス側は拒否する見込みだったが、要求を受け入れて株式買い付けの終了期限を延長した。事実上、一定程度の譲歩をみせた形だ。
ただし、だからといってSBIホールディングスと新生銀行の友好関係が再構築されたわけではない。SBIホールディングスは終了期限の延長に応じたことについて、あくまで「株主をはじめとしたステークホルダーの皆様に無用な混乱を生じさせないため」と説明している。
ちなみに、買い付けの終了期限は10月25日から12月8日に延長された形となった。新生銀行が11月に開催するとみられる臨時株主総会において、買収防衛策を決議するかどうか、という点が今後の焦点だ。
大手企業のTOBはビジネス業界の大きなトピックス
大手企業による企業買収は友好的な手段で実施されるケースがほとんどだが、TOBの実施が白熱するケースもある。例えば、今回とは全く別のケースではあるが、最近ではホームセンターを展開する島忠に対するTOBが記憶に新しい。
島忠に対しては、まずホームセンター「ホーマック」などを展開するDCMホールディングスがTOBの実施を発表したが、その後、ニトリもTOBの実施を発表した。ニトリは、島忠を子会社化することでホームセンター事業に進出することなどを目的とした。
この島忠・DCMホールディングス・ニトリの三角関係がどのような結末に着地するのか、経済界では大きな話題となった。最終的にはDCMホールディングスによる島忠へのTOBは不成立となり、ニトリがTOBを成立させた。
今回のSBIホールディングスが新生銀行に仕掛けたTOBも、企業買収絡みのニュースとして大きな関心を集めるトピックとなっている。
TOBについて学ぶ絶好の機会、ニュースを追ってみては?
SBIホールディングスによる新生銀行へのTOBがどのような結末を迎えるのかは、まだ分からない。いずれにしても結論を待つしかないが、今回のニュースをしっかり追っていけば、TOBとはどのようなものなのか、よく理解できるはずだ。
そのためTOBについてあまり知識がない人は、この機会にぜひニュースの行方に注目していくとよいだろう。今後もこのようなTOBは経済界で繰り返される。経済の仕組みの1つを学ぶ、良いチャンスとなるはずだ。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)