Self-History
(画像=Self-History)

日本を代表する現代アートの収集家、大林剛郎氏のコレクションを紹介する展覧会が9月25日(土)より東京・天王洲の「WHAT MUSEUM」でスタートした。

大林剛郎氏といえば、日本を代表する現代アートコレクターの1人であり、来年開催予定の国際芸術祭「あいち 2022」(愛知県)の組織委員会会長を務めることでも話題となった人物。

本展は、そんな大林氏のコレクションの出発点でもある、建築家・安藤忠雄氏の平面作品に着目した「安藤忠雄 描く」をはじめ、アーティストが様々な視点で都市を捉えた写真が並ぶ「都市と私のあいだ」、40 点以上の貴重な現代アート作品を総覧できる「Self-History」の3つのセクションで構成されている。

現代アートに造詣の深い大林氏が、長い年月をかけて築いた圧巻のコレクションに焦点を当てた、本展の見どころをご紹介したい。

大林氏のコレクションの出発点となった、安藤忠雄のドローイング作品

「安藤忠雄 描く」では、大林氏のコレクションの出発点となった建築家・安藤忠雄の平面作品に焦点を当てた作品を公開。安藤忠雄氏による初期のドローイング、シルクスクリーンを含む平面作品15点、彫刻作品を入れると16点が展示されている。

「安藤忠雄 描く」展示風景
(画像=「安藤忠雄 描く」展示風景)

本セクションは、本展で最注目したい作品の一つ、フランス人アーティストのグザヴィエ・ヴェイヤンが安藤忠雄をモチーフにした彫刻作品より始まる。

フランスのヴェルサイユ宮殿は年に一度、現代美術作家を招聘して展覧会を開催しているが、2009年にはグザヴィエ・ヴェイヤンの個展『Veilhan Versailles』で「The Architects」シリーズが発表された。制作にあたっては、大林氏がグザヴィエ氏より依頼を受けて安藤氏を紹介。それからロンドンまで赴いた安藤氏をグザヴィエ氏が3Dスキャンするという工程を経て形になったものだという。

Xavier Veilhan《Tadao Ando》 (c)Xavier Veilhan / ADAGP / JASPAR, 2021, photo by Keizo Kioku
(画像=Xavier Veilhan《Tadao Ando》 (c)Xavier Veilhan / ADAGP / JASPAR, 2021, photo by Keizo Kioku )

さらに歩を進めると、上海ビエンナーレで制作された長さ10メートルの《ベネッセハウス-直島コンテンポラリーアートミュージアム》(2000)のドローイングをはじめ、初期建築作品のスケッチや《中之島プロジェクトⅠ(大阪市役所)》など、多彩な平面作品を目にすることができる。

「安藤忠雄 描く」展示風景 安藤忠雄《ベネッセハウス-直島コンテンポラリーアートミュージアム》
(画像=「安藤忠雄 描く」展示風景 安藤忠雄《ベネッセハウス-直島コンテンポラリーアートミュージアム》)

世界的な建築家として名を馳せる安藤氏だが、「机さえあればどこでも絵を描いている」というエピソードもあるほど、ドローイングの時間を大切に考えていた。繊細な線からダイナミックで力強い線までこちらのスペースで展示されているスケッチに触れることで、設計の前段階の工程として安藤氏がドローイングを非常に重要視していたことが、よく見えてくるだろう。

「安藤忠雄 描く」展示風景 左:安藤忠雄《ベネトン・アート・スクールⅠ》/右:安藤忠雄《ベネトン・アート・スクールⅡ》
(画像=「安藤忠雄 描く」展示風景 左:安藤忠雄《ベネトン・アート・スクールⅠ》/右:安藤忠雄《ベネトン・アート・スクールⅡ》)

またスペースの一角には、兵庫県美術館(2001年)の完成後に安藤氏が大林氏に贈ったという貴重なドローイングの展示も。筆まめでもあった安藤氏は、海外プロジェクトに携わっている最中にあっても、近況報告を兼ねてお世話になった方に対して手紙を書くことを欠かさなかったという。こちらに添えらた安藤氏の直筆からは、互いに信頼し、切磋琢磨し合っていた二人の交友関係の様子が見えてくるようだ。

「安藤忠雄 描く」展示風景 安藤氏から大林氏に贈られた、貴重なドローイング
(画像=「安藤忠雄 描く」展示風景 安藤氏から大林氏に贈られた、貴重なドローイング)

建築ができるまでのプロセスの貴重な一瞬を捉えた、写真作品

続く「都市と私のあいだ」のセクションは、建築に焦点を当てた「安藤忠雄 描く」と、現代アートのコレクション「Self-History」をつなぐという位置づけにある作品群が並ぶ。

こちらでは都市を形成する様々な要素(都市基盤・建築・インテリア・模型等)を被写体に、9名のアーティストがそれぞれの視点で捉えた写真作品が集結。かつてあった大阪スタヂアムをモデルに時間とともに移り変わる都市の変遷の様子を切り出した畠山直哉の《untitled / Osaka》シリーズをはじめ、建築家のルイス・バラガンが設計したバラガン邸での時間の変化を私的な経験とともに映し出したルイザ・ランブリの《Untitled(Barragan House)》シリーズ、さらに宮本隆司の《Raika Headquarters Building, Osaka》シリーズなど、竣工から取り壊しに至るまで、建築にまつわる様々な場面とプロセスが収められている。

「都市と私のあいだ」展示風景 畠山直哉《untitled / Osaka》シリーズ
(画像=「都市と私のあいだ」展示風景 畠山直哉《untitled / Osaka》シリーズ)

中でも印象的だったのが、安藤氏が設計を手掛けた(施工は大林組)旧ライカ本社ビルである。

「都市と私のあいだ」展示風景 宮本隆司《Raika Headquarters Building, Osaka》
(画像=「都市と私のあいだ」展示風景 宮本隆司《Raika Headquarters Building, Osaka》)

本作は1989年にライカ本社ビルの竣工が着手された際に撮影されたもので、建築現場には欠かせない「足場」が写し出されたもの。まさに今、これから建物が生み出されようとしている貴重な一瞬を捉えたこの一枚は、モノクロームの中に静けさを漂わせながらも、同時に、刹那的な美しさが感じられる印象深い作品だ。

大林氏のコレクションが建築作品のドローイングから現代アートへと移行していく中で集められたこれらの作品群からは、氏が収集に際して一貫した考えのもとに行なっているということが、見えてくるようだ。

大林氏の珠玉の現代アートコレクションが、ついに公開!

続く「Self-History」と題した2Fの展示スペースには、大林氏がこれまでに収集した現代美術作品を中心に、コレクションの集大成とも言えるおよそ40作家の作品が一堂に会する。

「Self-History」はA〜Dの4つのスペースで構成、展示はスペースAよりスタートする。

まず展覧会のイントロダクションとして、およそ25年間にわたる大林氏のコレクションの歴史を象徴する作品と合わせて、氏がアーティストに直接制作を依頼したコミッションワークが展示されている。

入り口では、本展のキービジュアルであり今回初展示となる作品、佐藤允の《大林剛郎の肖像(宇宙)》が出迎えてくれる。

「Self-History」展示風景 佐藤允《大林剛郎の肖像(宇宙)》
(画像=「Self-History」展示風景 佐藤允《大林剛郎の肖像(宇宙)》)

スペースAでは本作を筆頭に同氏が現代美術の収集を始める前に購入したというヤマガタヒロミチの「春風」、子供の頃にお土産をきっかけに手にしたことではじめてアートに触れるきっかけとなったジャクソン・ポロックのジグソーパズルなど、大林氏のコレクションの原点に回帰するような貴重な作品を目にすることができる。

「Self-History」展示風景 ジャクソン・ポロックのジグソーパズル
(画像=「Self-History」展示風景 ジャクソン・ポロックのジグソーパズル)

スペースAでは、さらに大林氏の父が好んで収集したルーチョ・フォンタナやジャン・アルプらの作品も見ることができる。ぜひ合わせてチェックしたい。

「Self-History」展示風景
(画像=「Self-History」展示風景)

続くスペースBには、ベルント&ヒラ・ベッヒャーを起点とするドイツの現代写真、1960年代以降に活躍したミニマリズムの作家たち、そしてこれら二つの美術的潮流と関係の深い日本作家たちの作品が展示されている。

「Self-History」展示風景
(画像=「Self-History」展示風景)

こちらでは、お台場海浜公園の駅付近に設置されているパブリックアートの《25 porticos》の作者としてもお馴染みのダニエル・ビュレンの作品の展示や、杉本博司の作品を目にすることもできる。

「Self-History」展示風景 左:杉本博司《パラマウント、オークランド》/ 右:杉本博司《I MAX、天保山》
(画像=「Self-History」展示風景 左:杉本博司《パラマウント、オークランド》/ 右:杉本博司《I MAX、天保山》)

スペースCには、主に「人体表現」を扱った作品が集結する。五木田智央の《Growing Back》といった国内のアーティストから、シュテファン・バルケンホールの《赤いドレスの女》、ギルバート&ジョージの《Hooded》といった海外アーティストの作品まで、様々な作品が集結。

「Self-History」展示風景 シュテファン・バルケンホール《赤いドレスの女》
(画像=「Self-History」展示風景 シュテファン・バルケンホール《赤いドレスの女》)
「Self-History」展示風景 五木田智央《Growing Back》
(画像=「Self-History」展示風景 五木田智央《Growing Back》)
「Self-History」展示風景 ギルバート&ジョージ《Hooded》
(画像=「Self-History」展示風景 ギルバート&ジョージ《Hooded》)

最後のスペースDでは、コンセプチャルの概念により収集された作品が展示されている。こちらではジョナサン・モンクをはじめトレイシー・エミン、ローレンス・ウィナーなど、言語そのものが素材となっているアーティストの作品から、0歳から100歳までの101人のポートレート写真で構成したハンス=ペーター・フェルドマンの《100 Jahre(One Hundred Year)》まで、立体に写真、納品されたデータが再現されたデジタルアートまで、バラエティに富んだ作品が集結している。

「Self-History」展示風景
(画像=「Self-History」展示風景)

中でも、壊れたネオン管とともに破片を展示したライアン・ガンダーの《The danger in visualizing your own end》は、思わず立ち止まってしまうユニークな作品。コンセプチュアルなテーマがベースにあるという点はもちろん、アーティストと一緒に大林氏本人も「ネオン管を割る」という行為を通して、作品制作の一部に参加したものだという。

「Self-History」展示風景 ライアン・ガンダー《The danger in visualising your own end》
(画像=「Self-History」展示風景 ライアン・ガンダー《The danger in visualising your own end》)

常に作家との距離感や縁を大切にし、およそ25年間にわたって収集を続けてきた大林剛郎氏。(現在もコレクションはさらに加速しているという)本展では《The danger in visualizing your own end》の他にも、コレクション以前に氏のアートと向き合うあり方について、その人となりを垣間見ることのできるシーンに度々遭遇することができる。大林氏がいつも作家の言葉にじっくりと耳を傾け、それらが生まれる背景や完成に至るまでのプロセスを知ろうとアーティストと直に交流する場をもってきたからこそ、コレクションを通して自然とこちらに伝わってくるものがあるのだろう。

一目ではコレクションの軸は見えにくいものの、各展示スペースに設けられた一点一点の作品とじっくりと対峙し、そこに添えられた解説に目を通す中で、一貫したものが次第に浮かび上がってくる本展。この度、公の場では初公開となる同氏のコレクションを、ぜひじっくりと味わってみてほしい。

WHAT MUSEUMと一緒に楽しむパブリックアート&施設

なお、現在「大林コレクション展」が開催されているWHAT MUSEUMは、昨年2020年に、寺田倉庫株式会社が作家やコレクターから預かる貴重なアート作品を公開する芸術文化発信施設としてオープンした施設である。そのミュージアムの周辺にはユニークなパブリックアートをはじめ、カフェやレストラン、画材ラボや水上ホテルまで、魅力あるスポットや施設が充実しているので、今回はその一部をご紹介したい。

天王洲エリアで見ることができる、オススメのパブリックアート

アートギャラリーカフェ「WHAT CAFE」
アート業界の未来を担うアーティスト支援を目的としたアートギャラリーカフェ。800㎡もの広々とした空間で食事や飲み物を楽しみながら、アート作品も鑑賞・購入することが可能。一息つくのも、新進気鋭のアーティストを探すのにもぴったりなカフェである。現在、寺田倉庫G1カフェで開催中の「バンクシーって誰?展」とのコラボレーションメニューも提供中。

なお、WHAT CAFEでは、当社主催でANDARTのサービスをご利用いただいているオーナー限定イベント「WEANDART」を10月30日(土)と31日(日)に開催する予定。前回のイベントより規模も内容もバージョンアップした内容になっているので、ぜひチェック!(※お申し込み〆切:2021年10月15日 (金) 23:59) (なお、本イベントはWHAT CAFEで通常開催している展覧会とは異なりますので、ご了承ください)

WEANDART
(画像=WEANDART)

画材ラボ「PIGMENT TOKYO」

倉庫街からアートの街へと生まれ変わった天王洲をより楽しむふたつのアート関連施設を紹介。ひとつめは、WHAT MUSEUMのすぐ近くにある画材ラボ「PIGMENT TOKYO(ピグモン トーキョー)」。ここは絵の具の材料となる顔料や膠(にかわ)、筆や刷毛などの画材と、そこから生み出される「色と表情」に特化した研究所であると同時に、アカデミー・ミュージアム・ショップの側面を持つ複合クリエイティブ施設だ。

画材ラボ「PIGMENT TOKYO」
(画像=画材ラボ「PIGMENT TOKYO」)

様々な筆やすずり、絵の具などの画材が並び、見応えのある品揃え。専門的なスタッフが在中しているので不明点やおすすめを教えてくれる。初心者からプロフェッショナル向けのオリジナルワークショップも開催しているので、アートを始めたいという方はワークショップから参加してみるのも良さそう。

画材ラボ「PIGMENT TOKYO」
(画像=画材ラボ「PIGMENT TOKYO」)

この施設の見所はなんといっても壁面いっぱいに並ぶ顔料が入った小瓶たち。一つひとつに色の名前が付けられていて、ほとんど同じ色に見えても、名前を見ると実は違う色なんて驚きも。WHAT MUSEUMでアートを見た後の研ぎ澄まされた感性のまま、画材のミュージアムを楽しんでみてはいかがだろうか。

画材ラボ「PIGMENT TOKYO」
(画像=画材ラボ「PIGMENT TOKYO」)

水上ホテル「PETALS TOKYO」

ふたつめは、非日常を味わうのにぴったりの水上アートホテル「PETALS TOKYO」。天王洲の運河に浮かぶ4隻の小舟からなるホテルである。「PETALS」とは「花びら」の意味で、まるで水面に浮かぶ蓮の花びらのようであることからそう名付けられたそう。わずかに感じる水に揺れる感覚が心地よく、それぞれ異なるコンセプトでつくられた4部屋は、ラグジュアリーで開放的な落ち着く空間に仕上がっている。

日差しをたっぷりに入れてくれる大きな窓からは、部屋によっては天王洲の街を彩るパブリックアートを望むこともできる。お気に入りの展覧会が行われている時に宿泊してみるのも、新しい休日の楽しみ方として定番になりそう。東京にいながら水辺の自然を感じることができる上質な空間で、日々の疲れを是非癒してほしい。

水上ホテル「PETALS TOKYO」
(画像=水上ホテル「PETALS TOKYO」)
水上ホテル「PETALS TOKYO」
(画像=水上ホテル「PETALS TOKYO」)

日差しをたっぷりに入れてくれる大きな窓からは、天王洲の街を彩るパブリックアートを望むこともできる。お気に入りの展示がやっている時に宿泊して行くのも、新しい休日の楽しみ方として定番になりそう。東京にいながら水辺の自然を感じることができる上質な空間で、日々の疲れを是非癒してほしい。

水上ホテル「PETALS TOKYO」
(画像=水上ホテル「PETALS TOKYO」)

なお、現在、寺田倉庫G1ビルでは「バンクシー展って誰?展」も開催されているので、こちらもぜひチェック!

展覧会情報
大林コレクション展

展覧会webページ:https://what.warehouseofart.org/
会場:WHAT MUSEUM 1階 Space1,2および2F(天王洲アイル 寺田倉庫 G 号内)
会期:2021 年 9 月 25 日(土)〜2022 年 2 月 13 日(日)(年末年始休館予定)
時間:火~日 11 時〜18 時(最終入場 17 時)月曜休館(祝日の場合、翌火曜休館)
休館日:月曜休館 ※月曜祝の場合翌火曜休み、年末年始
※ 新型コロナウイルス感染防止に伴う政府・東京都の方針により、営業時間・会期は前後する可能性がございます。

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取材・文・写真/ 小池タカエ、千葉ナツミ、ぷらいまり