薩摩酒造「MUGEN白波 The Tropical Wave」「MUGEN白波」
(画像=薩摩酒造「MUGEN白波 The Tropical Wave」「MUGEN白波」)

〈斬新な新商品を次々と発売〉
透明瓶にほんのりにごった芋焼酎が透ける「MUGEN白波」、自社に樽職人を擁する矜持が詰まったホワイトオーク樽12年貯蔵の琥珀色のリキュール「Sleepy Owl」、鰹節の生産量日本一を誇る本社所在地・枕崎市の鰹節屋で燻したサツマイモを原料に仕込んだ本格芋焼酎「燻枕崎」。かつて「ロクヨンのお湯割り」で「白波」の名を全国に轟かせた薩摩酒造が近年、斬新な新商品を次々と発売している。仕掛け人は、現マーケティング部次長の本坊直也氏だ。

前職を退職後に世界を旅した際、ニュージーランドのワイナリーで、造り手自身が楽しそうにワインの魅力を語るさまを目にした。「造り手自身が楽しめなければ、飲む人を楽しませることはできない。そのためにも、貪欲に新しいことに挑戦しなくては」との思いが生まれ、「焼酎の新たな価値をいかに届けられるか」が自らに課したミッションのひとつとなった。

本坊直也
(画像=本坊直也)

【プロフィール】本坊直也(ほんぼう・なおや)。1986年8月21日、鹿児島市生まれ。大学進学で上京、卒業後は大手広告代理店でテレビCMの営業や立案に携わった。29歳で鹿児島に戻る決断をして退職、1年間海外を旅した。2017年に薩摩酒造に入社。蔵見学の案内業務や仕込みの経験を経た後、営業部に1年間在籍。その後マーケティング部で商品開発を率いるようになり、2020年4月からは広報・宣伝も統括している。趣味のサウナと筋トレは、「週に一回、頭の中をリセットできる貴重な時間」だという。

同社には幸い、新たな焼酎造りを追求するのに最適な研究機関と、挑戦に意欲的な仕込みメンバーが揃っていた。「MUGEN白波」には、土の中で熟成させて甘みを引き出す特許技術「土室糖化芋」を採用し、シリーズ第二弾「MUGEN白波 The Tropical Wave(TTW)」には、10年近い歳月をかけて同社が開発してきた新種のサツマイモ「サツマアカネ」を使用している。「今までどおりやっていてはだめだという危機感があった。造りの部分で培ってきた技術や精神は守りながらも、外観も含め、時代の志向に合わせた伝え方の工夫が必要だ」。TTWのパッケージには、南国を思わせるカラフルでポップなラベルを採用し、「焼酎カクテル」や「焼酎フルーツポンチ」などSNSで“映える”飲み方も提案している。

〈蒸留酒の世界市場で支持される素地「十分にある」〉
「まずは国内を笑顔にしたい」としながらも、「長期的には海外も意識している」という。2020年2月には、同社を含む焼酎メーカー3社と世界的なトップバーテンダー後閑信吾氏が率いるSG Groupがタッグを組み、「KOME」「IMO」「MUGI」の3ラインアップで「The SG Shochu」を発売した。「同プロジェクトを通じて世界でも焼酎が認知され、『日本のオーセンティックな飲み方はお湯割りというらしい』なんて会話がニューヨークのバーなどで交わされる光景が見たい」と夢みる。「蒸留酒の世界市場を見ると、土地のストーリーやディスティラリーの哲学が支持され、共感を得ている。焼酎にもこれらの素地は十分にある」。原料や加工における品質の高さと、蔵の歴史や風土といった情緒的な価値とを織り交ぜながら、商品を開発・育成し、情報発信を続ける考えだ。

〈焼酎の「明るい未来を築きたい」〉
鹿児島県酒造組合の青年部でも精力的に活動している。県と協力してイベントを開催したり、SNSやHPで情報発信したりと、本格焼酎のプロモーションに励んでいる。将来の焼酎業界を担う若手の集まりは、「リアルな危機感を共有しながら語り合える場があることが心強いし、刺激的で学びも大きい」という。さらには、「県や原料を超えて横のつながりが深まれば、面となって業界を盛り上げるパワーになるだろう」。

薩摩酒造には、20代〜30代の若手社員も少なくない。「皆しっかりした考えを持ってものづくりをしている。明るい未来を築きたい」。8月には自身の第一子も誕生し、育児休暇を取得した。持続可能な社会への貢献も「当たり前という感覚で、しっかりと取り組みたい」。