ポートフォリオマネジメントとは?必要性や具体例を解説
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企業には、外部環境の変化による新しい時代を勝ち抜くための戦略が求められる。複数の事業を展開する企業では、事業の見直しを行う「ポートフォリオマネジメント」が重要だ。この記事では、ポートフォリオマネジメントの基本や問題点、具体的な取り組み事例などを、『事業再編実務指針』を踏まえて解説する。

目次

  1. ポートフォリオマネジメントとは
    1. ポートフォリオマネジメントがなぜ必要なのか
  2. ポートフォリオマネジメントの手法
    1. 4象限フレームワークを活用したポートフォリオの評価
  3. ポートフォリオマネジメントの問題点2つ
    1. 1.ポートフォリオマネジメントを実行しづらい企業体制がある
    2. 2.撤退や売却の判断基準があいまい
  4. ポートフォリオマネジメントの具体的な取り組み事例2つ
    1. 事例1.オムロン株式会社
    2. 事例2.株式会社三菱ケミカルホールディングス
  5. ポートフォリオマネジメントで事業を定期的に見直そう

ポートフォリオマネジメントとは

ポートフォリオマネジメントとは、「事業の組み替え」を戦略的に行う経営のことである。限りある経営資源を効率よく配分し、企業価値を最大化することを目的としている。

例えば、ある会社でAとBという2つの事業を手掛けており、Aはとても資本効率がよいが、BはAほどではないとする。この会社の企業価値を高めるには、Bを売却して、Bに割いていた資本をAに投下する方法が考えられる。また、もっと資本効率が良さそうなCという事業を買収するという選択肢もあるだろう。

このように事業の組み替えを行って企業価値を高める経営を、ポートフォリオマネジメントと呼ぶ。しかし、前述の事例では、一時的に企業価値を高められても、その価値が長続きするかはわからない。

例えば、Bを売却してAを残しても、Aが中長期的に価値を伸ばし続けられる事業でなければ、数年後にこの企業は苦しい局面を迎える。また、Cを買収しても、買収した会社の力でCの価値を高められなければ、予定していた収益はあげられないだろう。

ポートフォリオマネジメントを成功させるには、以下のような視点が求められる。

・中長期的に価値を生み出せる事業を残せているか
・シナジーの創出を目指した事業の組み替えになっているか
・自社がその事業のベストオーナーであるか

ポートフォリオマネジメントがなぜ必要なのか

2020年の新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、多くの企業が自社の経営方針を見直している。事業再編を視野にポートフォリオを根本的に見直すことで、事業の撤退や縮小、新しい分野への挑戦などの判断を強いられている企業もあるだろう。

比較的ダメージの少なかった事業でも、急速に進んでいるDXの影響で、既存の事業をデジタル技術に対応させる必要に迫られている。新しい時代に合わない事業を切り離すのか、それとも資本を投下して新しい時代に合うようモデルチェンジするのか、苦しい選択を迫られている。

ポートフォリオマネジメントは、苦境を乗り越えてさらに成長するために、複数の事業を手掛けているすべての企業にとって重要な考え方となる。

ポートフォリオマネジメントの手法

ポートフォリオマネジメントでは、企業のポートフォリオ(ここでは、「事業」のこと)を正しく把握して、適切な経営資源の配分を行う必要がある。

そのためには、各事業の収益性と成長性を分析して、優先的に投資すべき事業か撤退すべき事業かを客観的に見つめることから始め、その上で企業理念や時流を考慮し、議論を重ねて最終的な判断を下さなければならない。

4象限フレームワークを活用したポートフォリオの評価

ポートフォリオを客観的に見つめるには、「4象限フレームワーク」の活用が有効である。4象限フレームワークとは、事業を「資本収益性」と「成長性」から定量的に評価する方法である。

具体的には、横軸を「資本収益性」、縦軸を「成長性」とし、それを次の4つに分ける。

ポートフォリオマネジメントとは?必要性や具体例を解説

これにより、ポートフォリオが4つの領域のどこに位置するかで、ポートフォリオ全体の投資配分を判断できる。

A:資本収益性は低いが、成長性のある事業
B:資本収益性・成長性ともに、もっとも高い事業
C:資本収益性は高いが成長性は高くない事業

ポートフォリオマネジメントにおいて、最も経営資源を投資すべきなのは「A」である。

Aに投資することでAがBに成長し、Bが成長期を終えてCになれば、安定して資金を獲得できる。そして、Cから得られる資金をAの投資に回すことで、企業は持続的に成長し続けられる。Dは、収益性・成長性ともに低く、撤退の検討を行うべき事業である。

また、Cの事業は、中長期的に見ると成長性が乏しい事業で、Dとなる可能性をもつ事業でもある。したがって、Dとなる前にあえてCを売却し、Aに配分するという戦略もある。

ただし、4象限フレームワークはあくまで定量的な判断しかできない。客観的にポートフォリオを見直す際には有効であるが、撤退の判断は、経営理念や時流、事業のシナジー効果を踏まえて行う必要がある。

・資本収益性とは

横軸の「資本収益性」は、一般に「ROIC(Return On Invested Capital:投下資本利益率)」を用いる。「ROIC」とは、投下資本(有利子負債+株主資本)から、どのくらいの利益を生み出したかを表す指標であり、計算式は以下の通りである。

ROIC=営業利益÷投下資本

・成長性とは

縦軸の「成長性」の指標は、いくつか考えられる。

・市場全体の成長率
・自社の市場シェア率
・自社の売上高成長率
・利益成長率
・投下資本の増加率

なお、「成長性」は、オーガニックグロースをベースにする。オーガニックグロースとは、企業が自社の内部資源によって成長することである。つまり、買収による成長率の増加を含めずに計算しなければならない。

ポートフォリオマネジメントの問題点2つ

経済産業省の「事業再編実務指針(事業再編ガイドライン)」(以下、「実務指針」)によると、日本企業では、ポートフォリオの見直しが十分に行われていないことが指摘されている。

その要因について、実務指針から参考になる内容を紹介する。自社に当てはまる点がないか、参考にしてもらいたい。

1.ポートフォリオマネジメントを実行しづらい企業体制がある

実務指針では、日本企業でポートフォリオの見直しが十分に行われない要因として、以下の点が指摘されている。

・各事業部門(特に中核事業部門)の権限が強い
・事業部門に対する権限と責任の所在が一元化されていない
・取締役の多くが内部昇格者であるため全体的な視点がない
・コーポレート担当の経営陣の各々の役割と責任が明確になっていない
・CFOの機能発揮が不十分であり、事業ポートフォリオ戦略を検討するプロセスで財務的な規律が働きにくい
・事業セグメントごとのBSが整備されておらず、資本収益性を勘案した定量的な事業評価が困難になっている

(参考)経済産業省HP:事業再編実務指針

2.撤退や売却の判断基準があいまい

日本企業に限ったことではないが、事業の撤退や売却に対して消極的な経営者が多いことが指摘されている。

経済産業省による2019年度の企業アンケート結果では、「事業の撤退・売却を行う上で、課題となる事項」についての質問に対して、主に以下の回答があった。

・基準が不明確なため、撤退・売却の判断がしにくい(40%)
・社内での検討プロセスが明確でないため、撤退・売却の判断が進みにくい(25%)
・事業の撤退・売却により企業規模が縮小することに抵抗感がある(17%)

(出典)経済産業省HP:日本企業のコーポレートガバナンスに関する実態調査報告書(問50)

ポートフォリオマネジメントの具体的な取り組み事例2つ

ポートフォリオマネジメントは、多くの企業で行われている。『実務指針」では、企業のポートフォリオマネジメントへの取り組み事例が紹介されている。ここでは、2社のポートフォリオマネジメントの事例を紹介する。

事例1.オムロン株式会社

オムロン(株)は、ROIC経営で投資拡大の判断を行い、ソーシャルニーズを創造する技術経営を行うサイクルで企業価値を最大化することを掲げている。

ポートフォリオマネジメントでは、4象限フレームワークを活用しており、ROICと売上高成長率を軸とする「経済価値評価」と、市場シェアと市場成長率を軸とする「市場価値評価」の2つで分析している。

また、ROICを向上させるため、ROICを「ROS」と「投下資本回転率」に分解する「ROIC逆ツリー展開」も行う。

まず、ROIC は、「ROS(Rate of Sales:売上高利益率)」と「投下資本回転率」に分解できる。

ROS=当期純利益÷売上高
投下資本回転率=売上高÷投下資本

さらに「ROS」を、売上総利益率・付加価値率・製造固定費率・販売費率・R&D率に、「投下資本回転率」を、運転資金回転率・固定資産回転率に分解し、これらをKPIに落とし込む。

これにより、現場活動をROICの向上に繋げて具体的な戦略が立てやすくなる。

事例2.株式会社三菱ケミカルホールディングス

(株)三菱ケミカルHDでは、ポートフォリオマネジメントのための検討プロセスを明確に定めている。

事業モニタリングのための執行役会議を、年2回開催しており、CFOとCSOが配置される。モニタリングの対象とする事業は、ROICが会社で定める指標を下回った場合など、具体的な数値を基準として明確にしている。

執行役会議を受けて、取締役会を年1回開催しており、ポートフォリオ議論のみを行う。他の議題を入れずに、半日議論するということまで具体的に決められている。

(参考)経済産業省HP:事業再編実務指針(参考資料集)

ポートフォリオマネジメントで事業を定期的に見直そう

ポートフォリオマネジメントについて、経済産業省の『事業再編実務指針』を踏まえながら解説してきた。外部環境が変わっても、企業に求められるのはイノベーションによる付加価値の創出と、それによる持続的な成長である。

中長期的に価値をもたらす事業を見極め、最適な投資配分を行うために、ポートフォリオマネジメントを活用してもらいたい。

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