計画倒れにならない事業計画の立て方
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「事業計画を立てたが計画通りにいかない。」多くの経営者がつぶやいたことがある言葉だろう。
何を隠そう私自身も立てては倒れた事業計画は数えきれない。しかし、15年以上企業経営をやっていく中で、計画の打率を高める方法はわかってきたつもりだ。
今回は、計画倒れになりにくい事業計画とはどのように作るべきか紹介する。

本物の「上司力」
大村 康雄(オオムラヤスオ)
株式会社エッジコネクション 代表取締役

延岡高校、慶應義塾大学経済学部卒業後、新卒生として米系金融機関であるシティバンク銀行入行。営業職として同期で唯一16ヶ月連続売上目標を達成。 2007年、日本の営業マーケティング活動はもっと効率的にできるという思いから営業支援・コンサルティング事業を展開する株式会社エッジコネクション創業。ワークライフバランスを保ちつつ業績を上げる様々な経営ノウハウを構築、体系化し、多くの経営者が経営に苦しむ状況を変えるべく各種ノウハウをコンサルティング業、各メディア等で発信中。1200社以上支援し、90%以上の現場にて売上アップや残業削減、創業前後の企業支援では80%以上が初年度黒字を達成。東京都中小企業振興公社や宮崎県延岡市商工会議所など各地で講師経験多数。

売上-経費=利益で事業計画を考えない

売上-経費=利益と聞いて疑問を持つ経営者はいないだろう。お客様から頂いた売上から会社や事業を運営していくのに必要な経費を差し引いて残った分が利益。当然、私もこの事実に異論は全くない。
しかし、事業計画に関しては、この発想で考え始めると失敗するのである。

世の中の事業計画書を見ると、横軸に“2021年9月”などと時間軸が表記され、縦軸には各種勘定科目が書かれていることが多い。そして、その勘定科目も、売上-経費=利益になぞらえ、上から売上の部、経費の部と並んでいることがほとんどである。

この事業計画のフォーマットが計画倒れになる入り口である。

 「いくらくらい売上があるときは、いくらくらいの仕入れや経費がかかるな。ということはいくらくらいの利益が残るはずだ。」

このフォーマットから導き出される思考はこのような考え方だ。そして、右肩上がりの売上を想定し、月日が経つごとに利益もどんどん増えていくような計画を立てていくのが普通だろう。
繰り返すが、この考え方に異論は全くない。しかし、このような方法で立てられた事業計画はいったん計画から離れ始めるとなかなか計画に戻すのが難しい。
その理由は、重要な視点が抜け落ちているからである。それは、「売上をどうやってもたらすのか?」だ。

出費から始まらない事業はない

どんな事業も最初は必ず出費から始まる。例外は、すでに軌道に乗っている事業を引き継いだときのみだ。イチから事業を立ち上げる場合、売り物となるサービスや商品の開発や製造資金、オフィスの開設、PCなどなど最初の出費、インフラ投資があってから事業が始まっていく。

また、オフィスやPCなどインフラが整った後も、定期的に行わなければいけない出費がある。それは、マーケティング投資だ。ここでのマーケティング投資とは、見込み顧客と出会い成約するまでの投資のことを指す。

主なマーケティング投資は広告費、新規開拓専任の営業スタッフの人件費、展示会出展費などだ。企業はこのような投資を行い、新規顧客を獲得し、売上を立てていく。

そして、売上を立てることに成功したら、その売上を維持するために経費が使われる。サービス提供部門スタッフや工場勤務スタッフの人件費、オフィスの家賃、原料費などがそれに当たる。事業継続費と呼ぶとわかりやすいだろうか。

つまり、お金が使われる順序から考えたとき、事業計画は以下のように考えると実態が把握しやすい。

 インフラ投資→マーケティング投資→売上→事業継続費→利益

当然、インフラ投資はオフィスの増設などをしない限り、当面は最初だけの出費だ。よって、

 -マーケティング投資+売上-事業継続費用=利益

この計算式で導き出される利益の積み上げでいかに早くインフラ投資を回収できるかがポイントになる。マーケティング投資の頭に-(マイナス)がついているのがポイントだ。
繰り返すが、事業はマイナスから始まるのである。そして、すでに企業経営を行っている方には釈迦に説法だが、このシミュレーションで最大のマイナス額が必要な資本金、つまりは、必要な元手である。
資本金とは本来このようにして決まるものであり、資本金がいくら大きくてもこの最大のマイナス額をカバーできなければ不十分だ。逆に100万円という資本金でも最大のマイナスをカバーできていれば十分なのである。

マーケティング投資が売り上げに変わる流れを正確に見極める

広告費に100万円を使ってそれがいくらの売上になるか。

経営体力がある企業であれば、この見極めが甘くてもそうそう経営基盤が揺らぐことはない。しかし、立ち上げて間もない企業や新規事業では無駄にできる資金はない。
よって、事業計画を立てる際は【いくらのマーケティング投資を行えばいくらの売上が生まれるか】を可能な限り正確に見極めることが必須になってくる。

シミュレーションの一例を上げよう。以下の条件で月を経るごとにどう変わるか見ていく。なお、事業継続費は便宜上ここではないものと考える(もちろん、本当はそんなことあり得ない)。

広告費100万円
問い合わせ獲得件数50件
成約5件(問い合わせの翌月に成約すると想定)
平均成約単価30万円
営業スタッフ人件費30万円

▼1か月目

・マーケティング投資:合計130万円
広告費100万円 営業スタッフ人件費30万円 ※問い合わせ50件獲得
・売上:合計0円
収支:-150万円

▼2か月目

・マーケティング投資:合計130万円
広告費100万円 営業スタッフ人件費30万円
・売上:合計150円 ※1ヶ月目の問い合わせから5件の成約を1件当たり30万円で獲得
収支:20万円

よって、単月の収支では2か月目から黒字となり、9か月目には1か月目のマイナス150万円もカバーできるようになる。

可能な限り単純化したが、マーケティング投資がどのように売上に変わるかを考えるとはこのようなシミュレーションを行うということだ。裏を返すと、
『 問い合わせ50件に対して5件成約できる根拠は何か 』
『 成約単価30万円を安定的に達成するにはどうすれば良いのか 』
といったことをしっかりと考え、“数字合わせ”ではなく根拠のある数字としてシミュレーションを重ねていく。ここを疎かにすると事業計画は倒れる。

現実離れした事業計画をもたらす原因

上記の例で、事業継続費は便宜上割愛した。しかし、当然、実際の事業では発生する。その時、先ほどの収支では毎月20万円の利益が出るとシミュレートされたが、事業継続費がゼロだったことを考えると20万円の利益では心もとない。
そうすると、こんな誘惑に駆られていく。

「問い合わせ50件に対して5件の成約ではなく10件はいける気がする。」
「成約単価は、50万円はいけるだろう。」

先ほどのシミュレーションでは30万円の成約5件で毎月150万円の売り上げを見込んでいたが、上記の誘惑に負けると50万円の成約単価で10件の成約で毎月500万円の売上となる。少しの数字の操作で毎月の予想売上が3倍以上も変わるのである。

つまり、事業計画の失敗をもたらす大きな原因は、「お金が足りないと思ったときに都合よく操作してしまう誘惑」にあるのだ。

誘惑を断ち切ってくれる現物(ゲンブツ)

売上見込みを数倍にも狂わせてしまう誘惑は何としても断ち切らねばならない。そのための秘訣が現物(ゲンブツ)主義である。

マーケティング投資から売上に変わる流れを想定した際、先ほどの例では100万円の広告費が50件の問い合わせに変わり、50件の問い合わせが5件の成約になった。これを現物主義に照らし合わせたとき、このようなことをやってみてほしい。

▼100万円の広告費が50件の問い合わせに変わった
 → どんな広告を見込み顧客が見たのか想定し、実際に広告を簡単にでもデザインしてみる。

▼50件の問い合わせが5件の成約に変わった
 → どんな商談の流れでどんな資料や提案書を見て成約したのか実際に作って商談してみる。

さて、すらすら広告物のデザインや営業資料や提案書の作成ができただろうか?商談のロープレはうまくいっただろうか?
うまくいかない場合、そもそも100万円の広告費で50件の問い合わせも、50件の問い合わせから5件の成約も疑わしいということである。

これが現物主義の効果だ。

売上をシミュレーションする際は必ず必要資料の現物をすべて揃えてみること。

各種資料はもちろん、DMやテレアポを検討する場合はリストを作ってみる(リストを作ってみると意外に見込み顧客が少ないことに気づくことはよくある)。

知り合いに頼んで商談相手になってもらう。利用予定のサービスを事前に問い合わせてシミュレーションの数字の期待値が高すぎないか確認する、などなど。

このようにマーケティング投資が売上に変わる上で必要なものはすべて揃え、想定している打率が適切か、また、打率を上方修正したい場合は資料に手を加えるなどして根拠のある修正になっているかを常に確認することで、誘惑が入り込む余地をゼロにすることができる。

一番貴重な経営資源は“時間”

「事業開始前にそんな準備をする時間はない」そう思った方もいるかもしれない。しかし、例えば1ヶ月試行錯誤する間にも、人は必ずお腹が空き、寝るところが必要になるのだ。つまり、生活費は必ず必要になるのである。

『 何も生みださなくても1ヶ月当たり数十万円の出費が必要なのが人間 』

この意識を強く持つことは事業責任者にとって非常に重要な価値観である。

よって、事業準備期には寝る間を惜しんででも細部まで現物主義にこだわり、徹底的に準備を行い、新規事業着手初日からあたかもかねてから行っていた事業のようにスタートをするのが事業立ち上げで最も重要なことであると言っても過言ではない。

まとめ

本稿のタイトルは『計画倒れにならない事業計画の立て方』である。よって、最後に事業計画を立てるときの要点をかいつまんで整理し、終わりにしたいと思う。

  • -(マイナス)マーケティング投資+売上-事業継続費=利益で計画を立て、エクセルなども上からこの順番に並べて計算式を組む

  • 上記数式で積みあがる利益でいかに早く最初のインフラ投資を回収できるかがポイント

  • マーケティング投資から売上に変わる流れを正確にシミュレーションする

  • マーケティング投資から売上に変わる流れで必要となる資料などはすべて準備してみる

  • シミュレーションの数字を動かす場合は、準備した資料をブラッシュアップし根拠のある修正とする

  • 事業が始まってから試行錯誤するのではなく、事前に徹底的に試行錯誤を行い事業開始時には昔から行っていたかのように稼働する

ぜひ、皆さんの事業計画の精度が上がることに資することができれば幸いである。