高齢者向けに介護保険を適用したリフォーム工事を手掛けるユニバーサルスペース(神奈川県横浜市)がFC展開する「介護リフォーム本舗」の出店が今年、全国106店舗に到達した。市場規模1兆円と言われる介護リフォーム市場の中で、介護保険対応市場は500億円。同社はその市場でナンバーワンのシェアを持つ。建設業界から独立し、ゼロから介護業界に参入した遠藤哉社長に、起業までの経緯と今後の展望について聞いた。(2021年10月号「トップインタビュー2」)

遠藤哉社長(46)
(画像=遠藤哉社長(46))

「介護の中に建築の知識を」
1件のリフォーム工事が起業のヒントに

―遠藤社長は1998年に新卒で積水ハウスに入社されたのが社会人キャリアのスタートだと聞いています。

高校時代からものづくりに興味があり、大学では建築学科を専攻していました。そして卒業後に積水ハウスに入社したのですが、当初配属された部署での設計などといった細かい作業が向いていなかったため、現場監督を志願し続けていました。すると運よくポストが空き、入社1年目から新築の注文住宅の現場監督を任されることになりました。ただ、建築学科を卒業しているにも関わらず、建築のことをほとんど知らず、しかも新卒の若造が新築住宅の現場監督ということで、当初は職人やお客様から信頼を得られず苦労しましたね。入社してからはとにかくがむしゃらに仕事と資格の勉強に打ち込みました。

―建設業界に身を置く中で、介護に興味を持つきっかけとはなんだったのでしょうか。

私が28歳の時に、第一子が生まれたことが大きな転機となりました。子どもが将来成長した時により良い社会であるためにはどうしたらいいだろうと考えるようになり、物の見方や捉え方が変わっていったのです。そしてその時初めて、「社会貢献する」という考えが私の中にはっきりと生まれました。

 ちょうどそんなことを考えていた頃、私が担当していた新築住宅で介護リフォームを行うことになりました。 当時私は、新築の注文住宅は300棟ほど担当していましたが、介護リフォームについてはこの案件が初めてでした。両親の介護のためのちょっとした建て替え工事だったのですが、お客様に驚くほど感謝され、そこでずっと考えていた「社会貢献」と結び付いたのです。簡単な工事でも、困っている人の手助けになったという経験、そして 建築の中にも「介護」が存在しているという気付きが、介護業界への興味とつながっていきました。

退路を絶ってゼロからのスタート
地道な営業で拓いた活路

―前職で介護リフォームの存在を知り、それが起業のきっかけになったわけですね。

介護リフォームの存在を知ってからは、会社に勤めながら介護のことを勉強し、独立のチャンスを窺っていました。なぜなら、大手の建設会社は10万円の介護リフォーム工事をほとんど請け負わないからです。また今後は高齢化が更に加速し、介護リフォームのニーズも高まり、市場は伸びると確信していました。

―異業種からの参入だったので、当初は苦戦することも多かったと思います。どのように仕事を受注していったのですか。

最初は地域のケアマネージャーや地域包括センターへパワーポイントで作ったチラシを持ちこみ、営業をしていました。地域包括センターは横浜市だけで100拠点ほどありますので、介護業界のことを知るために1日に10軒回るなど、とにかく四方八方へ営業に行きました。ケアマネージャーさんは優しい方が多く、皆さん話は聞いてくださるのですが、なかなか案件に繋げることは難しかった。しかし諦めずに訪問していると、「じゃあ見積もりだ けでも行ってみる?」とお客様を紹介してもらえるようになりました。

 その後段々と介護業界の仕組みや効率的な営業方法を把握できるようになると紹介件数も増えていき、事業開始から3カ月目に初めてリフォーム工事の契 約を取ることができたのです。

スピード感を求め、FC化を決意
社会性に惹かれ様々な企業が加盟

―その後順調に売上が伸び、直営店も増えていきました。FC展開は当初から考えていたのですか。

当初はFC展開することは想定していませんでした。しかし、売上が伸び、ニーズもどんどん増加していく中で、直営店ではスピードが追い付かないと思い始めたのです。しかし介護業界でFC展開をしている企業は無く、前例も無いため何が正解かわからず四苦八苦しました。加盟側のターゲットの選定や宣伝方法など右往左往しながら進め、最初の30店舗まではトライアンドエラーの繰り返しでした。

今でこそ、上場企業や売上規模が10 0億円ほどの中堅企業など様々な個人や企業が加盟していますが、実は最初の頃は大手の会社の加盟を敬遠していたんです。大手が加盟することに対する僕の覚悟が決まっていなかったからなのですが、50店舗を超えた辺りから自信がつき、大手の加盟を受け入れる態勢になりました。そこから加盟する個人や企業の属性も変わり、様々な業種業態の加盟が増えました。地域密着型の事業をされている方や、車のディーラーの方など様々ですが、皆さんやはりこの事業に「社会貢献性」を感じ加盟を希望 されています。

―コロナの影響を受け、昨年は加盟店舗数も伸び悩んだようですね。

コロナ禍で多くの企業が新規事業への着手に足踏みした為、昨年の加盟店舗数は17店舗に留まりましたが、工事件数は全国でおよそ1万3000件、全体の売上は13億円でした。ちなみに厚労省の算出した「介護保険が適用となる介護リフォーム市場」は500億円と言われていますが、私は1兆円のシェアがあると推定しています。なぜなら、住宅リフォーム市場は6兆円あると言われており、そのうち高齢者の比率は高く、介護リフォームとしては認識されていないリフォームが数多く存在しているのです。ですから市場はまだまだある。当社も将来的にはグループ全体で100億円の売上を目指しています。

IT化を促進し業務を効率化
3000拠点の事業者連携も強み

オリジナル図面見積り作成アプリ「FUS Ⅱ」
(画像=オリジナル図面見積り作成アプリ「FUS Ⅱ」)

―「介護リフォーム」といったジャンルの中では御社は一強だと言えますが、今後新規の事業者が参入してくる可能性もあります。御社ならではの競争優位性はどこにあるのでしょうか。

当社は創業時からITを活用した業務効率化に力を入れており、AIを使ったオリジナル図面見積作成アプ リ「FUS Ⅱ」についてはビジネスモデル特許を取得しています。「FUS Ⅱ」を利用することで、通常1週間以上かかる現地調査・見積もり・図面作成・契約といった工程を、その場で簡単に10分ほどで完了することが可能となります。当社の手掛けるリフォーム工事の単価は8万円程度ですので、いかに効率良く数をこなしていくかが重要なのです。

 このほかにも、神奈川県から補助金を頂いてケアマネージャーさん向けに理由書作成アプリを開発しました。理由書とは、介護リフォームを行う際に地域の役所に届け出をする書類の一つで、この書類の作成に非常に手間がかかると言うケアマネージャーの声から作りました。ケアマネージャーにとって負担となっている手続き面での煩わしさを省くことができれば、さらに介護リフォームの促進に繋がるでしょう。また当社は先んじてこの市場で事業をしているので、加盟店に紹介できる介護事業者とのパイプをおよそ3000拠点持っています。介護事業者とのネットワークは日本一の数だと思います。

―リフォーム工事を効率化させ、加盟店の収益性を高める。そしてそのためにはITとの融合が必須だと。

当社は創業時からの顧客情報を約7万件保有しています。そしてそれらを全て社内オリジナルネットワーク「FUSシステム」上でデータ蓄積しています。その顧客情報を今後はビッグデータとして活用していくつもりです。全国の地域ごとの介護状況やニーズを把握し、当社が介護リフォーム事業のプラットフォームとしての役割を担うことができればと考えています。