長い間「銀行が潰れるわけはない」と言われてきたが、地方銀行の「本業利益」の実情を知ると、そのような考えは吹き飛ぶかもしれない。日本の半分以上の地銀の本業利益は赤字であり、銀行本来のビジネスモデルはすでに崩壊の危機に直面している。地銀は今後どうなってしまうのか。
そもそも地方銀行の「本業利益」とは?
銀行における「本業利益」とは、顧客に対する融資や投資信託の販売などでどれだけ稼げているのかを示すものだ。
金融庁が2018年11月に公表した「金融仲介の改善に向けた検討会議」向けの説明資料によれば、2017年度の決算において、本業利益が赤字となっているのは、地方銀行106行の過半数の54行にも上る。しかも、「2期以上の連続赤字の銀行数は年々増加している」と説明されている。
これは、日本の新聞社の状況と似ている。日本の大手新聞社は講読者数の減少によって、新聞の販売や広告収入だけでは、もはやビジネスとして成り立たない状況に陥りつつある。そして新聞事業の減収や赤字分を、不動産ビジネスやイベント事業で穴埋めしているケースも少なくない。
地方銀行の場合は、日本国内で低金利の状況が続いていることや、人口減少で顧客数が減少していることなどが、本業利益の赤字に結びついている。現在は有価証券の運用、つまり投資事業によって本業の赤字を補っている状況だ。
リスクと隣り合わせの投資事業
前述の通り、銀行の本業利益のマイナスは投資事業などによって補っている形だが、このような状況は非常に危険かつ不安定と言わざるを得ない。世界的な経済危機や同時株安などが起きれば、投資事業で莫大な損失を出す可能性も出てくるからだ。
金融庁によれば、2021年3月期決算では地方銀行の総純利益額は前期比2.6%増だった。前期比で増加したのは、新型コロナウイルスの感染拡大による景気低迷を回避するために世界各国が景気刺激策を打ち出し、それによって株式市場が好調な状態が続いたことが大きい。
しかし、もし株式市場が全く逆の状況になっていたとしたらどうだろう。投資家がコロナ禍を今以上に嫌気して下落相場が続いたとしたら、地方銀行の総純利益額が前期比で増加するという結果にはなっていなかったはずだ。
もちろん、投資事業で多大な収益をあげているベンチャーキャピタル(VC)は決して少なくないが、地方銀行は顧客の大事な資産を預かる身であり、ギャンブル性が高い事業で何とか食いつないでいる状況は、大きな問題がある。
地方銀行の生き残り策は?
このような状況であるため、地方銀行には有価証券の運用に過度に頼らずに、本業での収益力の強化や新たなビジネスを構築することが求められる。では実際には、どのようなことを実現していけばよいのだろうか。
フィンテックによるサービスの強化
フィンテックによって顧客に提供するサービスの拡充を図ることは、顧客離れの防止や新規顧客の獲得につながる。
具体的には、銀行口座の残高照会や出入金明細を確認できるスマホ向けアプリはもちろん、日々の収支管理が可能なアプリや交通系ICを搭載した決済カードを展開するという手法もある。
地方銀行同士の経営統合
地方銀行同士が経営統合することも、生き残り策の1つとして数えられる。今までよりも効率的に利益をあげることができるからだ。
ただし、地銀同士の経営統合には懸念点もある。それは、統合後に組織が円滑に機能しないことだ。もともとは顧客を奪い合ってきた銀行同士の場合、組織内部で主導権争いが激化する可能性も出てくる。
異業種企業とのコラボレーション
異業種企業と提携し、新たなビジネスを生み出すというアプローチも十分に考えられる。
銀行単体ではノウハウが不足している場合でも、他の企業とタッグを組めば互いの強みをいかしたビジネスを展開できるケースは少なくない。例えば、不動産会社と組んで、銀行が抱える顧客に対して住生活サービスを展開するといった具合だ。
地方銀行に求められる今後の舵取り
いま、多くの地方銀行が非常に厳しい経営状況にある。投資利益で一時的にマイナス分を補えたとしても、大きな損失を出すリスクと常に隣り合わせであるため、本業での儲けを増やす方向や、新たなビジネスを展開する方向に舵を切るべきだ。
そして、地方銀行に資産を預けている人は、今までに増して地方銀行の本業利益の状況などに注視するようにしてほしい。銀行の破綻というのは突然起きることもある。
金融庁も定期的に地方銀行の経営状況を分析したレポートを公表しているので、時間があればサマリーだけでも目を通しておきたい。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)