今、営業戦略の重要性が上がっている理由
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営業活動を行うためには、営業戦略の立案が欠かせないと言われて否定する経営者、営業責任者はいないだろう。しかし、昨今、営業戦略の重要性が上がっていると言われると、その理由、背景がよくわからない人は多いかもしれない。
今回は、なぜ今、営業戦略の重要性が上がっているのか解説していく。

本物の「上司力」
大村 康雄(オオムラヤスオ)
株式会社エッジコネクション 代表取締役

延岡高校、慶應義塾大学経済学部卒業後、新卒生として米系金融機関であるシティバンク銀行入行。営業職として同期で唯一16ヶ月連続売上目標を達成。 2007年、日本の営業マーケティング活動はもっと効率的にできるという思いから営業支援・コンサルティング事業を展開する株式会社エッジコネクション創業。ワークライフバランスを保ちつつ業績を上げる様々な経営ノウハウを構築、体系化し、多くの経営者が経営に苦しむ状況を変えるべく各種ノウハウをコンサルティング業、各メディア等で発信中。1200社以上支援し、90%以上の現場にて売上アップや残業削減、創業前後の企業支援では80%以上が初年度黒字を達成。東京都中小企業振興公社や宮崎県延岡市商工会議所など各地で講師経験多数。

営業という職種が嫌われる時代

一昔前から営業という職種は決して人気がある職種とは言えなかった。可能であれば営業になりたくないが、世の中の求人の多くが営業職であるために仕方なく営業職に就いたという方も多いはずだ。
この傾向が、近年より強まっている。実際、企業経営をされている方は営業職の採用の際になかなか応募が集まらない事態を経験し、実体験としても営業職が敬遠されていることを感じているのではないだろうか。

コミュニケーションを嫌う若者たち

なぜ営業という仕事がより敬遠されるようになってきたのだろうか。それは、ここ10年くらいで社会に出る若者たちにスマートフォンが浸透したことが大きいと考えている。
都心部の小学6年生は中学受験を機に、様々な中学校へ進学していく。その際、幼馴染と交流が続けられるようにと、卒業前に携帯電話、つまりはスマートフォンの所持を許される子供が多いようだ。そうすると、そこから先は、子供同士、LINEなどのSNSツールを使った交流が始まる。
一昔前は友達の実家に電話をかけ、誰が出るかドキドキしながら呼び出し音を聞き、親御さんが出たら「○○くんいますか?」と取次をお願いするのが当たり前だった。しかし、現在の子供たちはそれを経験しない。むしろ、いわゆる家電すらない家庭も多いのではないだろうか。

そうすると、「突然、知らない人と失礼のないようにコミュニケーションを取らなければいけないシチュエーション」というものをほとんど経験しないまま、彼らは大人になっていく。そして、「突然、知らない人と失礼のないようにコミュニケーションを取らなければいけないシチュエーション」を日々経験しなければいけない職種こそが営業職なのである。
ここまで来ると、年々営業職の人気が下がっているのは当然の帰結といっても過言ではないだろう。

増えていくコミュニケーションの必要量が少ない仕事

日々、たくさんのスタートアップ企業が生まれている。昨今では、その多くがいわゆるITを活用したビジネスモデルを構築しており、営業スタッフをずらっと並べて事業展開をしていくような事業計画を掲げていないことが多い。
その代わりに、デザイン、コンテンツ企画、運用、カスタマーサクセスなどというITを活用したビジネスを行う企業が増えたことで、求人数が格段に増えてきている職種がある。このような職種に、かつて営業職に流れていたような若者は就職していっている。このような職種では、営業職ほどの「突然、知らない人と失礼のないようにコミュニケーションを取らなければいけないシチュエーション」に出くわすことは少なく、つまりは、「営業職に必要なスキルが知らぬ間に磨かれていた」ということも起こりにくい。
つまり、産業転換でITを中心としたビジネスが増えてきたことにより、営業職に必要なスキル自体もそう簡単に育っていかない世の中になってきたのである。

“営業職”が置かれている状況とは?

これまでの話をまとめてみる。

・小中学生からスマホ保有の浸透により、10年前くらいの社会人を境に知らない人とコミュニケーションを取るということに対して、以前の世代よりも大きなストレスを感じるようになった。
・ITを中心とした産業の発展により、かつての営業職ほどコミュニケーションスキルを要しない職種が増え、営業職に必要なレベルのコミュニケーションスキルはますます手に入れにくくなった。

以上が営業職という職種の現在地である。おそらく、普段、営業という仕事について感じていらっしゃる感覚と大きく相違はないだろう。

参考になれば、という話として、私は営業支援会社を経営している。サービスの中身は営業コンサルティング、営業研修、営業代行の3本柱だが、ここ5年ほどで営業代行、主にはコールセンターからのテレマーケティングサービスのクライアントに大きな変化が起きている。それは、テレマーケティングを行う人員がたくさんいるような大企業からの仕事の依頼が増えているということである。
その背景は、推察するに、ここまでで説明してきた営業職が置かれている状況が変わってきたことにあるだろう。無理に営業、特に電話営業をやらせると離職してしまう。だったら、外注してしまおうという大企業が増えているのだ。
つまり、一度入社したらしがみつきたいような大企業でも最近の新社会人に営業をやらせるのは至難の業になってしまっているわけである。

営業職を志す現在の若者像

そのような営業職が置かれている状況の中、「営業がやりたい!」と営業職を志す若者も一定程度存在する。そして、これは私の経験則でもあり、一方で多くの経営者の賛同を頂けるのでは?と思っていることは、一昔前の「仕方なく営業職」という若者と比べて、近年の営業職を志望した若者の方がパフォーマンスが高いということである。
つまりは、数が減っているが、雇用することに成功したらきちんと計算できる営業スタッフに育ってくれるのが最近の営業職の特長と言えるだろう。

そして、多くの企業ではこのような絶滅危惧種ともいえる、営業にポジティブな新社会人が営業の中核を担って、その営業組織を引っ張っているのではないだろうか?

現在の営業職志望者がハイパフォーマーになりやすい理由

繰り返すが、時代背景として営業職に必要なスキルが磨かれにくくなっており、その結果として営業職は不人気な職種になってきている。そんな中で営業職を志す若者は一定数存在する。そして、そのような若者はハイパフォーマーになっていく可能性も高い。
考えてみれば当然のことだろう。営業職に必要なスキルを磨きにくい環境にあり、またわざわざ営業職を選ぶ必要でもない雇用環境の中、営業職を選ぶのである。それなりにコミュニケーションスキルがあるからこその選択であると考えられるし、選んだからにはやり切るという気概も持ち合わせているはずだ。

そして、この状況が招きかねないのが、企業がこのような若者に依存した営業体制を構築してしまうことである。

天才営業スタッフがもたらす弊害

先天的に営業が得意な人材は存在する。それは例えるなら、異性によくモテる人と同じで半ば天性のものがある。そのような人になぜあなたはモテるのか?と聞いても返ってくる答えはおそらく再現性があるものではないだろう。つまり、先天的なセンスは横展開がほぼ不可能なのである。天才スポーツ選手のスポーツ教室は凡人にはよくわからないという話があるが、まさにその状況である。

営業に前向きな若者が存在し、そのような若者がハイパフォーマーになりやすい環境はこの状況と似ている。多少、そのような営業スタッフを持ち上げすぎかもしれないが、天才が営業を担う傾向が多くの企業で増えているのだ。

・なぜ、そのような企業にアプローチしようと思ったのか?
・なぜ、初回商談の次にデモではなく見積もりをいきなり出そうと思ったのか?
・どのようにして最終決裁権者を引き出せたのか?

このような質問に対し、多くの天才はこのように答えるだろう。
「商材の特長から考えたら、逆にこのような企業にアプローチすることしか思いつきませんでした。」
「お客様の口ぶりから見積もりを求めている印象を受けました。」
「なんとかならないですかねぇ。とダメ元で頼んでみたら決済者とのアポイント候補日を送ってくれました。」
本人たちにとっては当たり前のことをしたに過ぎない。しかし、営業が苦手な人は、その当たり前の感覚がわからない。つまり、まさに横展開不可能な返答なのである。

このようなスタッフが営業の中核を担うということは頼もしい反面、企業側にはノウハウの蓄積がほぼ行われないというデメリットがある。万が一、そのようなスタッフが離職してしまったら、同じ営業活動を再現するのは不可能となってしまう。また、同じスキルの営業スタッフを雇用することは、絶対数が減っているわけなので難しく、そのまま衰退を招く危険性がある。

営業戦略で意思統一とノウハウの吸い上げを行う

そこで、重要なのが常に営業戦略を意識した営業体制運営を行うということである。
営業戦略とは、「どのような企業のどのような担当者のどのようなニーズに対して、自社のどんなサービスのどんな特長をアピールしていくか」を決めることである。
天才はこのようなことを“直感”や“感覚”で行ってしまう。それだとノウハウが企業には残らないし、横展開できない。
また、営業戦略だけでなく、ファーストアプローチから成約までどのような資料を使い、どのようなトークで次のステップへと押し上げたのかを捕捉することも重要である。当社ではこれを収益経路と呼んでいるが、これを見える化することで各営業スタッフがどのような経路で成約を獲得しているかがわかるようになり、これもまたノウハウの横展開に繋がっていく。
このように、たまたま縁があった優秀な営業スタッフの属人的なスキルに依存せず、彼らのスキルを常に営業戦略などの会社のノウハウとして落とし込んでいくこと、これが重要になっているのである。
なぜなら、営業を志す若者は減っているのであり、もっといえば日本の労働人口そのものが減少しているのだから。

分かち合う喜び

この各営業スタッフの営業ノウハウを営業戦略などに落とし込んでいく作業は、ノウハウを盗まれるような感覚を営業スタッフが感じるのでは?と思うかもしれないが、やってみると意外に楽しいと思うはずである。
お笑い第7世代と言われる芸人たちが互いへのライバル意識がないと言い、先輩芸人を驚かせているが、最近の若者世代はノウハウを独り占めして自分だけが良い思いをしようという考えはかなり薄いように見受けられる。
要は、自分のノウハウの吐き出し方を知らないのである。営業会議などでうまく彼らのノウハウを吸い上げる時間を作り、相互のノウハウを共有できるようにすれば、天才たちが互いのノウハウでお互いを高めあい、より営業効率の高い営業活動ができるとともに、会社にノウハウも蓄積してより強固な営業体制ができるはずだ。
ぜひ、実践してみてほしい。