iPhoneが、とある中華スマホに完全敗北するかもしれない。その中華スマホを製造しているのは、シャオミ(小米科技)だ。端末が高機能でありながら価格が安いことで人気を博しており、2021年6月における月間販売シェアでついに世界1位に踊り出た。
シャオミの快進撃、シェア世界1位に
そもそもシャオミとはどういう企業なのだろうか。シャオミが設立されたのは2010年4月。北京に本拠地を構え、低価格の高機能スマートフォンの製造を手掛けている。同社の創始者である雷軍(レイ・ジュン)氏は「中国のスティーブ・ジョブズ」とも呼ばれる実力者だ。
シャオミはAppleと同様、工場を持たない「ファブレス経営」を徹底しており、高い利益率をテコに超スピードで成長を遂げてきた。それでも、マーケットシェアでは長年にわたり、Appleに歯が立たない状況が続いていた。
しかし、その状況はすでに過去のものだ。香港の市場調査会社であるCounterpointの調べでは、2015年6月の月間販売シェアはAppleが14.2%、シャオミが5.2%だった。それが、2021年6月の月間販売量基準ではAppleが14.3%、シャオミが17.1%と、Appleを抜いたのだ。
実は、2019年と2020年にも一時期シャオミがAppleのシェアを抜いたことがあったが、その上にはサムスンがいた。しかし、2021年6月にシャオミはAppleを抜いただけでなく、サムスンも抜いた。つまり、スマホの世界販売シェアで初めて1位となったわけだ。
この状況が一過性のものかどうかは分からないが、直近の5年ではサムスンのシェアは右肩下がり、Appleのシェアは横ばい、シャオミのシェアが右肩上がりとなっていることを考えると、今後も世界シェアでシャオミが1位の状況が続くかもしれない。
シャオミの最近の業績は?
シャオミの最近の決算状況も見ていこう。
まず、2020年の通期決算(2020年1~12月)は、売上高が前年比19.4%増の2,459億元(約4兆1,700億円)だ。19.4%増は立派な数字ではあるが、世界的な半導体不足によって、2020年後半はスマホの生産に制約を受け、市場予想を下回る結果となった。
しかしこのような状況の中でも、2021年第1四半期(2021年1~3月)の業績は目を見張る内容だった。売上高は、前年同期比55%増の768億元(約1兆3,000億円)、純利益は前年同期の3.6倍となる77億元(約1,300億円)にも上っている。
第1四半期でこれほどまでに良い業績を残せたのは、前年同期の2019年1~3月に新型コロナウイルスの感染拡大の影響をもろに受けたことも背景にある。市場シェアを伸ばせていることは売上増・利益増に大きく貢献しており、第2四半期以降の決算にも期待が持てそうだ。
シャオミの2万円台機種の強みは?
実際に、シャオミが発売している機種の一部を見ていこう。2万円台で発売している機種としては、ソフトバンクが販売する「Redmi Note 9T」と、KDDIが販売する「Redmi Note 10 JE」がある。
同じ価格で発売されている日本の国産スマホと比べると機能の差は歴然だ。例えば、背面の3眼構成カメラのメインカメラの画素数は約4800万画素だ。ディスプレーは6.5インチで、このサイズも同価格帯の国産スマホより大きい。
中国産ながら日本の非接触ICカード技術「FeliCa」(フェリカ)に対応しているほか、次世代通信規格「5G」に対応している点も特筆すべきことと言えるだろう。
そしてそもそもAppleは、2万円台のスマートフォンを発売していない。現在販売されている機種の中では安価なiPhone SE(第2世代)でさえ、最も安いモデルで4万9,280円(税別)もする。
Appleはこのまま沈んでいくのか
ただし、いくらシャオミの快進撃が続くとしても、このままAppleが簡単に沈んでいくとも思えない。
Appleはスマホ事業のほか、Mac事業、アプリ事業、音楽事業、決済事業など、事業を多角化し、売上高・純利益をともに拡大している。そのようにして得た利益をスマホの開発やプロモーションに充てれば、販売シェアの再逆転は非常に高いハードルというわけではないだろう。
しかし、高いシェアを維持していくためには、Appleも低価格スマホの開発・販売をいずれ検討しなければならないかもしれない。もしくは、高価格路線を貫き、シェアでは負けても実利をとるのか、Appleの経営陣がいまどのような戦略を描いているのか、気になるところだ。
いずれにしても、2021年6月にシャオミの販売シェアが世界一となったことで、Appleは大きな危機感を抱いたはずである。もし、低価格スマホの検討を始めるなら、発売は2022年になろうか。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)