自社の強みを磨いて世界No.1を目指すミルボン 「milbon:iD」を軸に美容室のDX支援を強化

美容室向けヘア化粧品で国内トップシェアを誇る株式会社ミルボン。そんなミルボンが2021年6月、「美容市場のDXに向けたミルボンのデジタル戦略」を発表した。代表取締役社長の佐藤龍二氏にその意図や経営哲学を聞いた。

高専卒で上場企業社長に IPOも経験

――まず、佐藤社長のご経歴を教えて頂けますでしょうか。

高専を卒業して、まずは大阪の製薬会社に1年半くらい勤務しましたが、しばらくして「もっと違うことをやってみたい、営業をやってみたい」という気持ちが強くなり、退職しました。

そのとき、高専の就職担当の先生に会いに行くと、「採用してくれるかは分からないけど、大手IT企業とミルボンの2社であれば面接を紹介することができる」と言われて、私はミルボンを選びました。当時のミルボンはまだ売上高17億円くらい、従業員90名くらいの小さな会社でした。

入社したのは1981年です。入社後は12年くらい営業をやっていたのですが、あるとき商品企画部(マーケティング部)への異動を命じられました。マーケティングのマの字も知らない状態だったので、猛勉強しましたね。1年間で100冊以上の専門書を読んだのではないでしょうか。今のようにインターネットで情報がすぐ手に入る時代ではなかったので、手探りで必死に勉強しました。

ミルボンは1996年に株式公開したのですが、この株式公開準備にも深く関わらせて頂き、東証の審査の場にも立ち会いました。世の中には、上場会社に所属する人はそれなりの数がいますが、株式公開準備に関われる人はほとんどいません。貴重な経験をさせて頂いたと思います。

社長になる3年くらい前からは、経営企画の仕事に携わりました。営業、マーケティング、IPO、経営企画と様々な経験をしたことが、今に非常に活きています。そして2008年に代表取締役社長へ就任し、今年で早14年になります。

――リーマンショックが起こったのが2008年9月ですから、社長に就任してすぐですね。

そうですね。ただ、リーマンショックはどちらかというと金融ショックですから、国内の業績にはそこまで影響はありませんでした。最も影響を受けたのは韓国事業です。

ちょうど現地の代理店と組んで韓国に進出し始めたときだったのですが、リーマンショックの影響でその代理店が事業継続を断念してしまいました。ミルボンとしては、韓国から撤退するか、すべての権利を買い取って自分たちで展開するか、選択を迫られたわけです。

会議ではほとんどの役員が撤退を支持するなか、私は現地を見てから判断しようと、すぐに韓国に飛びました。韓国の一般消費者の状況、代理店やサロンの状況、韓国を担当する二人の社員の意思などを自分の目と耳で確かめたところ、「これは絶対にやるべきだ」と思い、自分たちで展開することを決断しました。現在、韓国事業は海外のなかで一番の売上と利益を出す事業になっていますので、いま振り返ると、良い決断ができたと思います。

――貴社および貴社の事業内容を教えて下さい。

一言で言えば、当社は美容室向けヘア化粧品メーカーです。売上高は2020年度連結で約357億円(国内298億円・海外58億円)、時価総額は約2,000億円です。

創業時から一貫して、化粧品市場で事業展開をしています。化粧品市場は大きく分けて、ドラッグストアや百貨店で個人のお客様に販売するB2C市場と、美容室などのプロ向けに販売するB2B市場があります。

B2C市場には、例えば資生堂さん、花王さん、P&Gさんなどがいらっしゃいます。私たちはB2Bに特化していますので、もしかしたら私たちの商品を直接ご購入されたことがないという方が多いかもしれません。

「milbon:iD」を軸に美容室のDX化を支援

――2021年6月7日の事業説明会にて「美容市場のDXに向けたミルボンのデジタル戦略」を発表しました。

美容市場は、これまでなかなかDX化が進んできませんでした。極端なことを言いますと、デジタルで髪は切れません。また、美容師さんは基本的に労働集約的な働き方なので、技術を磨いて稼ぐということが根付いてきた市場でもあります。

しかし、コロナ禍に関係なく、このままではの発展が厳しいことも事実です。美容市場は、人口減少による「客数の減少」や「採用難」、また「労務問題」という課題を抱えています。加えて、一流の美容師になるためには、通常の営業時間のあとに鍛錬を積む必要があります。この点は美容室からの指示による労務の範囲なのか、個人の自己努力なのか、線引きが非常に難しいところです。

近年は組織化、会社化される美容室も増えてきました。そうなると、限られた時間のなかでどうやって生産性を上げるかが重要になります。また、お客様が綺麗になるための日々のサポートも重要であり、これらの部分にデジタルを活用できると考えています。

――具体的には「milbon:iD」「エリアマーケティングサポート」「エデュケーションiD」「MILBON DIGITAL ARENA」の4つを提供されていらっしゃいます。

まず、「milbon:iD」がデジタル化の肝です。2020年6月に本格スタートした「milbon:iD」は、美容室で使われているシャンプーなどのお気に入りのヘアケア商品をいつでもどこでも購入できるオンラインストアです。お客様が「milbon:iD」で購入すると、milbon:iDが紐付いている美容室の売上にもなります。

「milbon:iD」を活用することで、お客様の「お気に入りのヘアケアを使いたいが、美容室まで買いに行くのは面倒」、美容室の「毎回商品を説明して購入してもらうのは時間も手間もかかる」という両方の課題を解決することができます。

当然、「誰がどのような商品をいつ買ったのか」という購入履歴のデータを貯めることもできます。2021年2月の決算発表において、2021年末6万人目標と発表していましたが、現在の登録会員数は約7万人と目標を超過しており、2021年末時点で10万人程度の会員を見込んでいます。

ミルボン製品を正しく広めて頂くためにも、美容師さんの専門性を高めることも重要です。そこで2021年4月から提供を始めたのが、美容師のための学習ツールである「エデュケーションiD」です。まだリリースして3ヵ月しか経っていませんが、美容師登録者数が6,500名を超えました。

また、コロナ禍においてなかなかオフラインで集まることが難しい状況ですから、美容師さん同士がヘアデザインを学び合う、高め合うためのオンライン空間も必要だろうと用意したのが「MILBON DIGITAL ARENA」です。バーチャルイベントスペースですね。こちらはリリースして1ヵ月ですが、既に7,000に近いダウンロード数になっています。

「エリアマーケティングサポート」は、その名の通り美容室のマーケティングを支援するサービスです。色々な支援をしているのですが、分かりやすいところでは、「今日の渋谷駅を利用した人は先週より△人増えて○万人でした」といったリアルタイムの人流データを元にして、どのような集客ができるかを提案しています。

愚直なまでに自社の強みを磨き、世界No.1になる

――社長在籍10年超というのは、上場会社にしては比較的長いほうだと思います。次世代へのバトンタッチ、後継者育成についてはどのようにお考えでしょうか。

短期在籍の社長がその企業を革新した例は、ほとんどないと思います。長期在籍の社長が革新を成し遂げられるかというと、それは分かりませんが、経営者として事業を動かして、イノベーションを起こすためには、やはり10年は必要だと思っています。

そうはいっても、私も社長に就任してから14年ですから、6年ほど前から後継者育成のための「ミルボン大学」を開講しています。1年で10名ほど選抜し、開講から4年半経ちましたので、42名の幹部候補生がいます。このなかから、次のミルボンのボードメンバーが誕生すると思っています。

――「サステナブル」「SDGs」「ESG」という言葉を頻繁に聞く昨今となりました。このようなことに対して、貴社はどのような取り組みをされていますでしょうか。もしくは今後、どのような取り組みをする予定でしょうか。

まず大前提として、これらの言葉が流行り始めたから何かポーズを取る、ということは本末転倒だと思っています。事業を継続させて、雇用を生み出し、世の中に貢献することが何より大事です。こうしたことは、本来、企業の倫理観だと思っており、そうした中で真摯に取り組んでいます。

そのうえでお話しますと、我々は美容業界の会社ですから、「美しさを通じた心の豊かさの実現」を掲げています。美容室は髪を切るところ、外見を美しくするための場所ではありますが、コミュニケーションの場でもあると思っています。

例えば、家族を持つお母さんが美容室に行くと、夫のことや子どものことについて、美容師と会話をします。外見を綺麗にするだけではなく、心のリフレッシュもできる場所なのです。当社は美と心のコミュニティである全国の美容室を通じて、住み続けられる街の具現化、発展を支援していきたいと思っています。

――最後に、佐藤社長の経営の信念や信条などについて教えて頂けますでしょうか。

私が一番好きな言葉は「未来、それは自分の意志」です。誰しもが「未来は分からない」ということを知っています。「未来は今日までと違う」ということも知っています。未来は自分で作るしかありません。未来を作るためには、広い視野や高い視座が必要です。経営者であれば決断と責任が重要です。

社員には「色々な経営者の本を読みなさい」と伝えています。その経営者にはなれませんが、色々な経営者の本を読むことで自分なりの軸が生まれて、自責の精神が培われると考えています。

経営は「同質化すればするほどゆっくり死んでいく」と捉えています。同質化とは、回りと同じことをやるということです。同じことをやると一時の安心感は得られるのですが、競争相手はどんどん増えてしまいます。

かといって極端に異質化するとリスクが高まります。では何をすべきか。私は「愚直なまでに、いかに自社の強みを磨くか」が根幹だと思っています。ミルボンは愚直なまでに自社の強みを磨き、いつか世界で美容師さんに最も支持されるNo.1になります。

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