
働き方改革の影響もあってか職場でのハラスメントに関する意識が年々高まっている。なんでもハラスメントにする現代の風潮は考えものだが、本当にハラスメントに該当するものであれば経営者として見過ごすことはできない。数多く論じられているハラスメントの中でも職場で被害に遭うと面倒な、正論によるハラスメント「ロジハラ」。ロジハラの特徴や対処方法について見てみよう。
目次
正論によるハラスメント「ロジハラ」とはどんなハラスメント?
ロジハラとは、どんなハラスメントなのだろうか。企業へ与える影響を見てみよう。
ロジハラとは?
ハラスメントについての確定した定義はないが一般的には「いじめ」や「嫌がらせ」の行為を指す。身体的暴力や精神的暴力など相手を不快にさせたり傷つけたり、不利益を与えたりする行為全般をハラスメントとしている。身体的な力を使って害を及ぼす行為だけではなく、個人の人格や尊厳を傷つけるような言葉による暴力もハラスメントのひとつだ。
上司や同僚の言動が就業環境を害する行為であれば職場のハラスメントとなる。その中でも「正論」を言うことで相手を困らせたり不利な状況に追い詰めたりするのがロジカル(ロジック)・ハラスメント(logical(logic) harassment)、いわゆる「ロジハラ」である。
ロジハラが与える影響
まじめでおとなしい性格の人ほどロジハラを受けても「自分が悪い」と思い込み「ハラスメントを受けている」という自覚がないことも特徴的だ。「正論」だけに逆らうことが難しく、まじめな人ほど被害に遭うため、職場に与える影響は大きなものになる。
正論は、決して悪いことではない。理論的かつ建設的な意見は、むしろ歓迎すべきであろう。しかし「正論」が理論的かつ建設的な意見だったとしても悪意を持っていれば人は嫌な気持ちになってしまう。ロジハラをする人が職場にいれば誰も自由に意見を言うことができなくなり、職場の雰囲気は悪くなるばかりだ。最悪の場合、企業に必要なまじめな人材が黙って職場を去ってしまうことにもなりかねない。
ロジハラをする人の4つの特徴
どんな人がロジハラをしやすいのかは一概には言えないが参考までにロジハラをしやすい人の性格的な特徴をあげてみよう。
1.相手よりも優位にありたいというプライド
プライドの高い人の中には、相手よりも優位に立って自分の虚栄心を満たしたいと思い「正論」を振りかざす人がいる。プライドが高いことは決して悪いことではないが「自分は相手より優れている」「相手よりも優位に立ちたい」という見栄を張りすぎてしまうとロジハラになりやすい。
2.満足感や優越感を得たいというコンプレックス
コンプレックスが強い人は、無意識に相手よりも優位に立って満足感や優越感を得たい考えからロジハラになりやすい。正義感からではなく相手を言い負かすことが目的になってしまうとロジハラとなる可能性がある。
3.相手の気持ちがわからない
相手の気持ちが理解できず「自分がされたら嫌な気持ちになることを他人にしてはいけない」と感じない人も注意が必要だ。相手のことを考えずつい「正論」を押し通してしまう可能性がある。そのような人は、言っていることは正しくても相手への配慮が足りないため、現実はその通りにはいかないことに気付きにくい。
4.自分が正しいと思い込んでいる
「正論」を突き付ける人は、自分が正しいと思い込んでいる人も少なくない。そのため「相手を思って正しいことを言っている」と主張する傾向にある。思い込みによる自己主張が強く相手の意見に耳を貸さないため、話し合いにならないのも特徴といえるだろう。
職場でのロジハラはパワハラにもなる?
職場でのロジハラは、パワハラになる余地があることも知っておきたい。パワハラの定義を確認しロジハラが発生しやすい場面を考えてみよう。
パワハラの定義を確認
厚生労働省が公表している「パワーハラスメントの定義について」によると、パワハラの定義は以下のようになっている。
「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」 出典:厚生労働省
同資料によると以下の3つすべてを満たすものを職場のパワーハラスメントの概念として整理している。
- 優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
- 業務の適正な範囲を超えて行われること
- 身体的、精神的な苦痛を与えたり就業環境を害したりすること
つまりロジハラの言動が「職場における地位や人間関係の優位性」により、他の従業員の能⼒発揮に重大な悪影響を及ぼす程度に業務の適正な範囲を超えて行われている場合は注意が必要だ。例えば身体的・精神的な苦痛を与えたり就業環境が害されたりするほど不快な言動であればパワハラになる可能性がある。この定義は、あらゆるハラスメントが該当する可能性があるので押さえておきたい。
ロジハラが発生しやすい場面を紹介
ロジハラは、具体的にどのような場面で発生しやすいのかを3つのパータンに分けて見てみよう。
部下や同僚がミスをしたとき
ロジハラをする人の特徴で述べた通り相手よりも優位に立って満足感や優越感を得たい考えがあると、部下や同僚がミスをしたときにロジハラが起きやすい。誰でもミスはするものであるが、ミスをした本人は引け目を感じて強く言い返すことはなかなかできないのだ。自分のストレス解消のために理屈で精神的に追い詰めようとするケースがあるので注意が必要だ。会議やミーティング時の議論の場
会議やミーティングの場もロジハラが発生しやすい場面といえる。「議論を装って重箱の隅をつつくような揚げ足とりをする」「議論の名のもとに相手を論破しようとしつこく正論を突き付ける」といったケースが考えられるだろう。
本来、議論や話し合いは勝ち負けにこだわる場ではなく正論は感謝されるべきものである。しかし、ロジハラをする人は、相手を言い負かすことが目的となっていることも少なくない。部下が上司へ報告する場面
部下と上司の関係は、それだけで上下関係の優位性がある。「部下のために正しいことを言って指導する」という大義名分があるだけに部下の報告に難癖をつけてくるのだ。本来、上司は部下を指導・育成することが仕事のはずである。しかし自分が部下より優れていることを周囲にアピールするために部下へ「なんで指示した通りにできない」「なんでミスをしたのか説明しろ」と精神的に追い詰めるのだ。
自分がロジハラをしないための3つの観点?
部下を持つ上司や主任、同僚とライバル関係にある場合などには、特に注意が必要だ。立場や人間関係によって誰でもロジハラをしてしまう危険性がある。自分がロジハラをしないようにするには、どのような点に気をつけるべきかを確認しよう。
1.相手に受け入れてもらうような言い方が大切
自分が正しいと思っていても周りの人が必ず受け入れてくれるとはかぎらない。自分が正しいと思うときこそ相手に受け入れてもらえるような言い方をすべきである。上から目線の威圧的な言い方ではなく丁寧に順を追って相手が理解できるように説明することが大切なのだ。相手が「なるほど」と思うような言い方となるよう気をつけたい。
2.「正論」が正しいとは限らない
自分が正しいとは絶対に思わず謙虚な姿勢で相手の意見を傾聴することも大切だ。「相手の意見に共感ができるところ」「自分の考えと違うところ」をしっかりと分けて整理し自分の考えに不足している部分を取り入れるようにしよう。「正論ばかりを振りかざして相手の意見を取り入れない」ということだけは絶対に避けたい。
3.相手の立場を理解する
ロジハラを防ぐためには、何よりも相手の立場を理解することが大切だ。相手の立場に立って今一度自分の考えを再考し自分の言葉によって相手がどのような気持ちになるのかを考えるようにしたい。自分がよかれと思って言ったことでも相手を気がつかないうちに追い詰めてしまうこともある。組織の中では、自分の考えに固執せず相手を尊重する気持ちがないと人の気持ちを動かすことは難しい。
ロジハラから身を守る3つの方法
なかには、自分の職場にロジハラをするタイプの人がいるので不安を感じている人もいるだろう。ロジハラから身を守るにはどうすべきか、その対処方法を見てみよう。
1.傾聴する
ロジハラをする人は、話し合いの場面で周りから避けられていることも少なくない。しかも自分の意見が正しいと思っている人が多い傾向のため、対立する意見を出すと自分の考えに固執して他人の考えに耳を貸さなくなることもあるだろう。そのような人でも、傾聴し意見をある程度取り入れることで満足する場合もある。
ただし傾聴するほど精神的に余裕がない場合には、他の方法を考えるのがよいだろう。
2.上司に相談する
職場のハラスメントすべてに共通することだが上司や周りの人に相談することは重要だ。就業環境を害するような威圧的で相手を追い詰めるようなロジハラは、一人で抱え込んでも解決することは難しいだろう。ストレスが大きくなりすぎると体調不良や病気の原因にもなりかねない。ハラスメントと感じるようであれば職場の上司や同僚に相談し「対処を任せる」という選択肢もある。
3.距離をあける
対処法を実行するほど精神的に余裕がない場合には、一定の距離をとって関係を必要最小限にせざるを得ない。ロジハラをするのが直属の上司の場合には難しいケースもあるが必要以上に関わらないように距離をあけることも適切な方法のひとつだ。
まとめ:自分の感情をコントロールすることが重要
ロジハラは、間違ったことを言っているわけではないだけにハラスメントになるかどうかの線引きが難しい。正しい意見を言うことは、本来歓迎されるべきことであり正論がなにも悪いわけではない。問題となるのは、悪意のある「正論」により相手を精神的に追い詰めるような行為だ。
時には、職場での意見の違いから対立することもあるだろう。しかし職場での意見は、相手を打ち負かすのが目的ではなく企業の発展や業務遂行のためのものだ。組織の中では、自分の考えに固執せず相手を尊重する気持ちがなければ人の気持ちを動かすことはできない。自分がロジハラを行わないようにするためには、自分の感情をコントロールし謙虚な姿勢で相手の気持ちを理解することが重要である。
文・加治直樹(社会保険労務士)