なんでもハラスメントにする現代の風潮は考えものだが、職場で本当にハラスメントに該当する行為があれば経営者として見過ごすことはできない。数多く論じられているハラスメントのなかでも職場で被害に遭うと面倒なのが、正論によるハラスメント「ロジハラ」だ。

本記事では、ロジハラの特徴や(良い)正論との違い、対処方法などについて解説する。2021年4月から中小企業に対しても義務化された「職場のパワーハラスメント防止措置」についても合わせて解説するので確認して欲しい。

目次

  1. 「ロジハラ」とは?
    1. ロジハラとは正論によるハラスメント
    2. ロジハラが与える影響
    3. ロジハラが注視されている背景
  2. 職場でのロジハラはパワハラにもなる?
    1. パワハラの定義を確認
    2. 中小企業事業主が行うべきパワーハラスメント防止措置
  3. ロジハラをする人の4つの特徴
    1. 1.相手よりも優位にありたいというプライド
    2. 2.満足感や優越感を得たいというコンプレックス
    3. 3.相手の気持ちがわからない
    4. 4.自分が正しいと思い込んでいる
  4. ロジハラが発生しやすい場面を紹介
  5. ロジハラを防ぐ3つの観点
    1. 1.相手に受け入れてもらうような言い方が大切
    2. 2.「正論」が正しいとは限らない
    3. 3.相手の立場を理解する
  6. ロジハラから身を守る3つの方法
    1. 1.傾聴する
    2. 2.上司に相談する
    3. 3.距離をあける
  7. 職場でのロジハラ防止に努めよう
正論で追い詰めるハラスメント「ロジハラ」の特徴と対処方法
(画像=suthisak/stock.adobe.com)

「ロジハラ」とは?

ロジハラとは、ロジカル・ハラスメントの略でありハラスメントの一つである。ハラスメントについての確定した定義はないが、一般的には「いじめ」や「嫌がらせ」の行為を指す。身体的暴力や精神的暴力など相手を不快にさせたり傷つけたり、不利益を与えたりする行為全般をハラスメントとしている。

ロジハラ以外にも例えばセクハラ、モラハラ、パワハラ、マタハラなどハラスメントの種類は多い。なお身体的な力を使って害を及ぼす行為だけではなく、個人の人格や尊厳を傷つけるような言葉による暴力もハラスメントとなり得る。

ロジハラとは正論によるハラスメント

数あるハラスメントのなかでも「正論」を言うことで相手を困らせたり不利な状況に追い詰めたりするのがロジカル(ロジック)・ハラスメント(logical(logic) harassment)、いわゆる「ロジハラ」である。例えば部下や同僚の行動や発言などに対して「その考えは正しくない」「君の言うことは筋道が通ってないから全然わからない」などと言葉で攻撃する行為を言う。

たとえ発言者の言うことが正しいとしても、言われた相手の精神を傷つけ、心理的に追い詰めてしまう行為や、結果的に就業環境を害する行為であれば職場のハラスメントとなるのだ。

ロジハラが与える影響

ハラスメントを受けた当人はもちろんのこと、職場でのロジハラは職場および会社にも悪影響をもたらしかねない。ロジハラ防止に努めるためにも、経営者として「まずはどのような影響が起こり得るか」確認しておこう。

・心身の不調
まじめでおとなしい性格の人ほどロジハラを受けても「自分が悪い」と思い込む傾向がある。はじめのうちは「ハラスメントを受けている」という自覚がなく、また「正論」だけに逆らうことが難しいため、ロジハラがエスカレートしやすい。その結果、過労やストレスを引き起こし、心身の不調を招く危険性がある。

・パフォーマンスの低下
正論は、決して悪いことではない。理論的かつ建設的な意見は、むしろ歓迎すべきであろう。しかし「正論」が理論的かつ建設的な意見だったとしても悪意を持っていれば人は嫌な気持ちになってしまう。ロジハラをする人が職場にいれば誰も自由に意見を言うことができなくなり、職場の雰囲気は悪くなるばかりだ。

結果的に活発な意見交換が損なわれたり、本来の能力を発揮できなくなったりするなど、従業員の志気やパフォーマンスの低下に繋がる可能性がある。

・優秀な人材離れ
職場の雰囲気が悪くなることによって、直接被害を受けた人だけでなく、最悪の場合、企業に必要なまじめな人材が黙って職場を去ってしまうことにもなりかねない。

ロジハラが注視されている背景

職場のハラスメント自体は、古くからよく聞くが近年ではロジハラが増加傾向にある。「あうんの呼吸」という言葉もあるように、日本では古くからお互いの表情や身振り手振り、それまでの成り行き、状況などで相手の考えを慮り、行動に移せていた傾向があった。しかし現代では、それが崩れてきていることが要因と考えられる。

その背景にあるのが働き方の変化やダイバーシティ(多様性)であろう。例えば新型コロナ禍以来、テレワークやリモートワークを導入する企業も増えたが、それにより実際に同じ空間にいる機会が減り、画面を通してのみのコミュニケーションが増えた。その結果として相手に理解を促すためには、どうしても言葉ではっきりと伝えることが必要となった。

また多様性の促進により、バックグラウンドの異なる人が同じ職場に増え、相手への理解や受け取り方に変化が生じてきたことも要因の一つであろう。これまで言葉で明確な指示を与えたことのない人のなかには、意図せず強い言い方になったり逆に言われたほうが悪く受け取ってしまったりすることも少なくない。

職場でのロジハラはパワハラにもなる?

職場でのロジハラは、パワハラ(パワーハラスメント)になる余地があることも知っておきたい。ここでは、パワハラの定義や本来の正論との見分け方を確認しておこう。

パワハラの定義を確認

厚生労働省が公表している「パワーハラスメントの定義について」によると、パワハラの定義は以下のとおりだ。

「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」
出典:厚生労働省

同資料によると以下の3つすべてを満たすものを職場のパワーハラスメントの概念として整理している。

  • 優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
  • 業務の適正な範囲を超えて行われること
  • 身体的、精神的な苦痛を与えたり就業環境を害したりすること

先にも述べたが、正論は決して悪いことではない。正しいことをできるだけわかりやすく、論理的に伝えることは、部下に対する指導や組織内での認識を統一するうえではむしろ必要なことだ。

しかしパワハラの定義にもあるように正論の伝え方が「職場における地位や人間関係の優位性」により「他の従業員の能⼒発揮に重大な悪影響を及ぼす程度」に「業務の適正な範囲を超えて」行われている場合は悪い正論としてロジハラとなり得る。

それにより、例えば身体的・精神的な苦痛を与えたり就業環境が害されたりするほど不快な言動であればロジハラにとどまらず、パワハラになる可能性がある。この定義は、あらゆるハラスメントが該当する可能性があるので押さえておきたい。

中小企業事業主が行うべきパワーハラスメント防止措置

2020年6月1日に施行された「改正 労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」では、大企業にパワハラ防止の措置を義務づけている。施行当時、中小企業には努力義務とされていたが2022年4月1日からは中小企業にも義務化された。事業主の場合は、すでに防止措置を講じていると思うが、必ず講じなければならない具体的な措置の内容を紹介するので、あらためて確認して欲しい。

  • パワハラ防止に向けた会社の方針や規定を策定し、労働者に周知・徹底する
  • 行為者に対する対処の方針や内容を就業規則等、文書で規定し労働者に周知・徹底する
  • パワハラの相談窓口を設置し、従業員に周知する
  • パワハラが発生した後の対応フローを整備する
  • (パワハラが発生した場合)事実関係の確認後、行為者・被害者に対する適正な措置を実施する
  • パワハラの再発防止措置を講じる

詳しくは、厚生労働省のサイトでも示されているので確認しておくといいだろう。
厚生労働省:パワーハラスメント防止措置

ロジハラをする人の4つの特徴

パラハラ防止措置のなかでは、相談窓口を設けるとともに相談担当者を置くことが必要だ。被害者の相談を親身に受けたり、適正な措置を講じたりするためには、事業主および相談担当者となる人が行為者となり得る人の特徴を把握しておくことも求められる。どんな人がロジハラをしやすいのかは、一概に言えないが参考までにロジハラをしやすい人の性格的な特徴をあげてみよう。

1.相手よりも優位にありたいというプライド

プライドの高い人のなかには、相手よりも優位に立って自分の虚栄心を満たしたいと思い「正論」を振りかざす人がいる。プライドが高いことは決して悪いことではないが「自分は相手より優れている」「相手よりも優位に立ちたい」という見栄を張りすぎてしまうとロジハラになりやすい。

2.満足感や優越感を得たいというコンプレックス

コンプレックスが強い人は、無意識に相手よりも優位に立って満足感や優越感を得たい考えからロジハラになりやすい。正義感からではなく相手を言い負かすことが目的になってしまうとロジハラとなる可能性がある。

3.相手の気持ちがわからない

相手の気持ちが理解できず「自分がされたら嫌な気持ちになることを他人にしてはいけない」と感じない人も注意が必要だ。相手のことを考えずつい「正論」を押し通してしまう可能性がある。そのような人は、言っていることは正しくても相手への配慮が足りないため、現実はその通りにはいかないことに気付きにくい。

4.自分が正しいと思い込んでいる

「正論」を突き付ける人は、自分が正しいと思い込んでいる人も少なくない。そのため「相手を思って正しいことを言っている」と主張する傾向にある。思い込みによる自己主張が強く相手の意見に耳を貸さないため、話し合いにならないのも特徴といえるだろう。

ロジハラが発生しやすい場面を紹介

ロジハラは、具体的にどのような場面で発生しやすいのかを3つのパータンに分けて見てみよう。

・部下や同僚がミスをしたとき
ロジハラをする人の特徴で述べた通り相手よりも優位に立って満足感や優越感を得たい考えがあると、部下や同僚がミスをしたときにロジハラが起きやすい。誰でもミスはするものであるが、ミスをした本人は引け目を感じて強く言い返すことはなかなかできないのだ。自分のストレス解消のために理屈で精神的に追い詰めようとするケースがあるので注意が必要だ。

・会議やミーティング時の議論の場
会議やミーティングの場もロジハラが発生しやすい場面といえる。「議論を装って重箱の隅をつつくような揚げ足とりをする」「議論の名のもとに相手を論破しようとしつこく正論を突き付ける」といったケースが考えられるだろう。

本来、議論や話し合いは勝ち負けにこだわる場ではなく正論は感謝されるべきものである。しかし、ロジハラをする人は、相手を言い負かすことが目的となっていることも少なくない。

・部下が上司へ報告する場面
部下と上司の関係は、それだけで上下関係の優位性がある。「部下のために正しいことを言って指導する」という大義名分があるだけに部下の報告に難癖をつけてくるのだ。本来、上司は部下を指導・育成することが仕事のはずである。しかし自分が部下より優れていることを周囲にアピールするために部下へ「なんで指示した通りにできない」「なんでミスをしたのか説明しろ」と精神的に追い詰めるのだ。

ロジハラを防ぐ3つの観点

事業主は、パワハラ防止措置として会社の方針・規定の策定や労働者への周知・徹底が求められる。そもそもロジハラによって被害者および組織全体に悪影響が及ぶことは、避けなければならない。ロジハラは、相手のミスや業務態度、考え方の相違などに対して正論による戒めがきっかけとなることも多い。

そのため立場や人間関係によって誰でもロジハラをしてしまう危険性がある。労働者への指導の際にどのような点に気をつけるべきかを確認しよう。

1.相手に受け入れてもらうような言い方が大切

自分が正しいと思っていても周りの人が必ず受け入れてくれるとはかぎらない。自分が正しいと思うときこそ相手に受け入れてもらえるような言い方をすべきである。上から目線の威圧的な言い方ではなく丁寧に順を追って相手が理解できるように説明することが大切なのだ。相手が「なるほど」と思うような言い方となるよう気をつけたい。

2.「正論」が正しいとは限らない

自分が正しいとは絶対に思わず謙虚な姿勢で相手の意見を傾聴することも大切だ。「相手の意見に共感ができるところ」「自分の考えと違うところ」をしっかりと分けて整理し自分の考えに不足している部分を取り入れるようにしよう。「正論ばかりを振りかざして相手の意見を取り入れない」ということだけは絶対に避けたい。

3.相手の立場を理解する

ロジハラを防ぐためには、何よりも相手の立場を理解することが大切だ。相手の立場に立って今一度自分の考えを再考し自分の言葉によって相手がどのような気持ちになるのかを考えるようにしたい。自分がよかれと思って言ったことでも相手を気がつかないうちに追い詰めてしまうこともある。組織の中では、自分の考えに固執せず相手を尊重する気持ちがないと人の気持ちを動かすことは難しい。

ロジハラから身を守る3つの方法

なかには、自分の職場にロジハラをするタイプの人がいるため自分がロジハラを受けないか不安を感じている従業員もいるかもしれない。ロジハラ防止措置として規定を文書化するだけでなく、従業員研修などでロジハラから身を守るにはどうすべきか、その対処方法を周知することも必要だろう。

社内でのロジハラ防止啓発のためにも経営者や相談窓口担当者はロジハラからの身の守り方を正しく知っておこう。

1.傾聴する

ロジハラをする人は、話し合いの場面で周りから避けられていることも少なくない。しかも自分の意見が正しいと思っている人が多い傾向のため、対立する意見を出すと自分の考えに固執して他人の考えに耳を貸さなくなることもあるだろう。そのような人でも、傾聴し意見をある程度取り入れることで満足する場合もある。

ただし傾聴するほど精神的に余裕がない場合には、他の方法を考えるのがよいだろう。

2.上司に相談する

職場のハラスメントすべてに共通することだが上司や周りの人に相談することは重要だ。就業環境を害するような威圧的で相手を追い詰めるようなロジハラは、一人で抱え込んでも解決することは難しいだろう。ストレスが大きくなりすぎると体調不良や病気の原因にもなりかねない。ハラスメントと感じるようであれば職場の上司や同僚に相談し「対処を任せる」という選択肢もある。

3.距離をあける

対処法を実行するほど精神的に余裕がない場合には、一定の距離をとって関係を必要最小限にせざるを得ない。ロジハラをするのが直属の上司の場合には難しいケースもあるが必要以上に関わらないように距離をあけることも適切な方法の一つだ。

職場でのロジハラ防止に努めよう

ロジハラは、正しいことを言っているだけにハラスメントになるかどうかの線引きが難しい。正しい意見を言うことは、本来歓迎されるべきことであり正論がなにも悪いわけではない。しかし問題となるのは、悪意のある「正論」により相手を精神的に追い詰めるような行為だ。このような行為はロジハラであり、その結果、被害者の職務能力や職場環境に悪影響を与えることになればパワハラとなる。

時には、職場での意見の違いから対立することもあるだろう。しかし職場での意見は、相手を打ち負かすのが目的ではなく企業の発展や業務遂行のためのものだ。組織のなかでは、自分の考えに固執せず相手を尊重する気持ちがなければ人の気持ちを動かすことはできない。事業主は、良い正論とロジハラの違いや防止対策方法を正しく理解し、ハラスメント防止措置に努めよう。

加治 直樹
文・加治 直樹
特定社会保険労務士。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。銀行に20年以上勤務。融資及び営業の責任者として不動産融資から住宅ローンの審査、資産運用や年金相談まで幅広く相談業務を行う。退職後、かじ社会保険労務士事務所を設立。現在は労働基準監督署で企業の労務相談や個人の労働相談を受けつつ、セミナー講師など幅広く活動中。中小企業の決算書の財務内容のアドバイス、資金調達における銀行対応までできるコンサルタントを目指す。法人個人を問わず対応可能であり、会社と従業員双方にとって良い職場をつくり、ともに成長したいと考える。

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