経営を行う上で、自社の経営状況を捉えることは重要だ。経済産業省が提供するローカルベンチマークのような、比較的手軽に経営分析を行えるツールがある。ここでは、ローカルベンチマークについて、その概要や導入方法、分析、利用方法について解説する。
目次
ローカルベンチマークとは
経済産業省が提供するツール
「ローカルベンチマーク」とは経済産業省が提供している経営分析ツールである。その中核をなすのが、ソフトウェアである「ローカルベンチマークツール」だ。ローカルベンチマークはExcelファイルベースで作成されているため、ほとんどのWindowsマシンで利用できる。
分析に際しては財務指標の算出といった定量的(財務情報)なもののみならず、事業や環境の分析を行うことによって、数字では表すことができない定性的なもの(非財務情報)について扱うことも可能である。
ローカルベンチマークツールの入手方法
ローカルベンチマークツールは、経済産業省のサイトから入手可能だ。ここではその入手方法について説明する(2021年8月現在)。
まず、以下のURLにアクセスする。
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/sangyokinyu/locaben/
アクセスすると、画像のように掲載されている箇所があるので、一番上にある「【最新】ローカルベンチマークツール(2018年5月ツール改訂版・最新基準値使用) 」のリンクをクリックして、ローカルベンチマークツールをダウンロードする。
なお、ローカルベンチマークツールはいくつもバージョンが掲載されているが、通常は最新版のみをダウンロードすれば事足りる。
ローカルベンチマークツールを起動させると、最初に以下のような表示が出る。
これは、インターネット上のファイルをダウンロードする際の確認表示である。「編集を有効にする」というボタンをクリックして入力を有効にする。
クリックすると、下記のような表示が出る。
これは、Excelファイルで使われているマクロを有効にするためのものであり、「コンテンツの有効化」をクリックしてマクロを有効にする。
ローカルベンチマークツールの使い方:財務情報
それではローカルベンチマークツールを具体的にどのように使っていけばいいのだろうか。ここでは、財務情報の分析方法について具体的に説明する。
財務情報の入力
まず、財務情報の入力について説明する。
最初に4年分の決算書を準備し、法人の場合は事業概況説明書を用意する。個人事業主の場合は青色申告書が望ましいが、ない場合は白色申告書を用意して、通常は青色申告書のみに書かれている資産や負債について分かるものを記載する。
Excelシートの「【入力】財務分析」を選択して入力を進める。
最初に、左上にある以下の画像の部分から入力する。
ここには、事業に関する内容を記載する。
注意すべき点は、従業員数は経営者のみの場合は1と記載することである。また、ほとんどの会計ソフトや決算書のフォーマットは右が最新のものが多いが、ここでは左側が最新のものである。
次に、先程の下の部分に下図のような欄があるので、3年分の決算情報を入力する。
この時に、前々期決算期の前期売上高の欄には3年前の売上を入力するので、決算書は4期分必要となる。
入力を終えたら、右上の部分に、以下のように算出結果とその評価(5段階評価で5が最もいい評価)が出力される。
「財務分析シート…」と表示されているExcelシート上では、以下のようにレーダーチャート付きで評価が出力される。
この分析結果を参考にして財務分析を行い、自社の財務上の優劣を見極める。なお、この事例では商号などは筆者のものを用いているが、数値は説明用の架空のものである。
6つの指標の意味
ローカルベンチマークツールでは6種類の指標が用いられているが、これらはどのような意味があるのだろうか。指標の中には一般に使われているものと異なるものがあるが、ローカルベンチマークツールで計算されるそれぞれの結果について説明する。
(1)売上増加率
売上が前年に比べてどれだけ伸びているかを示す指標である。事業規模の成長を見るための数値であり、高い数値が望ましいとされる。
(2)営業利益率
どれだけ効率的に利益を獲得できるかを示す指標である。高い数値が望ましいとされるが、小売業や卸売業などは低くなりやすいなど、業種によって出力される数値に差が生じる。
(3)労働生産性
ローカルベンチマークツール上では「従業員1人あたりの営業利益の金額」を示す指標であり、高い数値が望ましい。人員数の視点から、どれだけ効率的に利益が獲得できるかを示している。
ただし、この指標の定義はまちまちであるため、ローカルベンチマークツールを使用する際のあくまでひとつの目安として使うのが望ましい。
(4)EBITDA有利子負債倍率
借入金等の利息を支払う必要のある負債を、事業で獲得する収益によって何年で返済できるかを見る指標である。数値は小さい方が望ましい。
「EBITDA」とは、ローカルベンチマークツール上では、営業利益に減価償却費を加えたもので、事業から得られる年間の現金預金の額を簡単に計算したものだ。
(5)営業運転資本回転期間
会社が持っている営業用の資本(売掛金、棚卸資産など)を、どれだけ有効に使っているかを示す数値であり、数値は小さい方が望ましい。
(6)自己資本比率
会社が保有する資産について、どれだけ借り入れなどをせずに自前で調達できているかを示す数値である。会社の安定性を示す数値であり、高いほうが望ましい。
ローカルベンチマークツールの使い方:非財務情報
経営分析を行う上では、財務情報以上に重要なものとして非財務情報である。これは決算書に表れない会社の状況であり、具体的には社風や技術、取引先などが挙げられる。
ここでは、ローカルベンチマークツールを使って非財務情報を分析する際に使用する、以下の3つについて解説する。
- 業務フロー
- 商流把握
- 4つの視点
- まとめ
1.業務フロー
業務フロー(「【入力】商流・業務フロー」シート上部)では、自社が提供するサービスや製品がどのような経緯で提供されるかについて、それぞれがどのように差別化されているかも含めて記載する。
記載すべき事項について、簡単に記載できるものとそうでないものとがある。例えば、小売業の場合は、仕入→販売の流れはすぐに思いつく。しかし、その他にも以下のように事業のために行っていることは多岐に渡る。
・仕入の前に企画を策定する
・販売の後にアフターサービスを行う
・販売の際に商品配置やPOP書きを行う
また、差別化ポイントは非常に書きづらいであろう。しかし、単に仕入れるだけでも、業者を選定して品質の良いものを選ぶなどの「仕入先の工夫」や値段の付け方を考えるなどの「販売の工夫」を行っているはずだ。このように、自社で当たり前のように行っていることなどを書き出すことで、意外と差別化のポイントが浮かびあがる。
2.商流把握
商流把握では、取引関係について記載する。
まず、「仕入先」「協力先」「得意先」「エンドユーザー」のそれぞれに、どことどれくらいの取引があるかを記載する。次に、「仕入先」「協力先」については自社がそこを選んだ理由を、「得意先」「エンドユーザー」については自社がそこに選ばれている理由を記載する。
選んだ理由や選ばれた理由を記載するには、さまざまな視点で自社を見つめる必要がある。例えば、これまでなんとなく継続してきた取引先であっても、途中で打ち切らずにこれまで続けている理由があるはずだ。自社や取引先にとってのメリットを突き詰めれば、選定している理由が見つかる。
3.4つの視点
経営者、事業、企業を取り巻く環境・関係者、内部管理体制の4つの視点から会社内外の状況を記載する。
経営者については、会社の基礎となる部分であり、経営者がどのように考えて、何を目指して経営を進めていくかを記載する。また、会社が継続するにあたって必要な後継者についても記載する。
事業は、自社が収益を獲得するためにこれまで何をしてきたか、現状はどうなっているかを記載する。沿革、現時点での強みや弱み、ITへの対応を記載する。沿革は現在に至るまでどのようなターニングポイントがあったのか、それがどのように現在に影響を及ぼしたかを記載する。強みと弱みは現在の自社の状況を記載する。ITに関する投資はその投資を行うことによってどのような効率化を図っているかを見ることとなる。
企業を取り巻く環境・関係者については自社に関係する取引先や従業員、金融機関のように直接関係する人や会社に限らず、競合する会社についても記載する。これらの記載をすることによって自社に直接間接に関係する者を把握して、自社の立ち位置を把握することとなる。
最後に内部管理体制を記載する。通常、内部管理体制と聞いたら不正を行わないようにする印象を持たれがちであるが、ここでは、自社が成長する上で必要な経営目標の共有や人材育成といった従業員に向けたもの、全社的に品質管理などをどのように行っているかなどを記載する。
4.まとめ
最後に、現状と将来目標をまとめ、そのギャップを埋めるべく課題と対応策を見極める。
ローカルベンチマークツールの2つの役立て方
ローカルベンチマークツールで記載された事項をどのようにまとめて、経営に役立てればいいのだろうか。ここでは、ローカルベンチマークツールの2つの役立て方を解説する。
1.融資
ローカルベンチマークの分析結果の主な利用法としては、融資への活用が挙げられる。
ローカルベンチマークは金融機関において94%と高い認知度があり、4割の金融機関で活用されている。ローカルベンチマークを使っている金融機関はもちろんだが、そうでない金融機関については現状を示すために利用できるであろう。
2.経営改善
ローカルベンチマークツールによって出力された分析結果には自社の経営の現状が書かれており、そこから課題をあぶり出すこともできる。
ローカルベンチマークに分析結果から課題を検討し、自社の経営改善に役立てることも十分に可能だ。
ツールは経営分析手段の一つ!有効活用しよう
本稿ではローカルベンチマーク、その中核をなすローカルベンチマークツールについて利用方法を解説した。
ローカルベンチマークは、上手く活用すれば経営の役に立つが入力したままでは何ら役に立たない。入力内容を見て、課題をあぶり出し御社の経営に役立てることが最重要であろう。
文・中川崇(公認会計士・税理士)