ワクチン接種でコロナ禍が収束に向かうと思いきや、デルタ株の猛威によって1日の感染者数が過去最大を更新する事態に陥り、いよいよ2万人の大台を超えた。。このような感染者数の減少・拡大に振り回されているのが民間企業だ。テレワークをこのまま続けるべきか否か…。大企業の決断はどうなっているだろうか?
現在のコロナ禍の状況はどうなっている?
日本国内における新型コロナウイルスの感染者数は、過去最大の水準となっている。2021年4月下旬に発令された3度目の緊急事態宣言は6月に沖縄県を除いて解除された。しかし、7月に東京都で4度目の緊急事態宣言が出されるなどし、その後、1日の感染者数は全国で1万人を超えた。
ワクチン接種が進んでいるにも関わらず感染拡大に歯止めがかからないのは、主に2つの理由があると言われている。1つ目は、感染力が強いデルタ株の蔓延、そしてもう1つが俗に言う「緊急事態宣言慣れ」だ。
このような中で日本はお盆シーズンに突入し、国が帰省自粛を呼び掛けたものの、人流の抑制は一定程度にとどまった。
感染者数の減少・拡大が繰り返す中、どう対応すべき?
コロナ禍で、テレワーク(在宅勤務)を導入してきた民間企業においては、現在の取り組みを続けるかどうか悩んでいるケースも少なくない。
テレワークでも生産性が全く落ちない企業であれば問題ないが、そうではない場合、以前の勤務態勢に一刻も早く戻したいと感じているはずだ。ただし、このように感染者数の減少・増加が繰り返す事態では、どう対応していいか苦慮する。
では具体的に、テレワークを導入している大企業はどのような対応をとっているのか。時価総額で日本首位のトヨタ自動車のケースをみていこう。
トヨタ自動車は、テレワークの拡充を決定
報道などによれば、トヨタ自動車はテレワークを原則とした新たな制度を設ける予定のようだ。
これは、実質的なテレワーク制度の拡充で、テレワークが可能な社員であれば住む場所の制限を撤廃するという。この新制度は、会社としてテレワークの推進を続けるという方針の下で決まったものと考えられる。
新たな制度で住む場所の制限がなくなれば、現在、単身赴任中の従業員も自宅に戻って育児や介護に参加できる。そうすれば従業員満足度も上がり、離職率が下がることも考えられる。自由な働き方を認める姿勢は、多様な人材の採用にもつながっていきそうだ。
民間調査によると、感染拡大で継続率アップか
トヨタの場合はテレワークの制度を拡充する方針のようだが、ほかの企業はどうだろうか。少し前の調査になるが、人材大手パーソルキャリアが展開する転職サービス「doda」が行った調査が参考になる。
同社が2021年3月に発表した「第2回 自社のテレワーク・テレワークに関する調査」によれば、1月下旬時点でテレワークを今後も継続すると回答した採用担当者は、回答者全体の62.7%にも上っているという。
調査が行われた1月下旬は、感染再拡大によって11都府県に緊急事態宣言が発令されていた時期で、ある意味、デルタ株の猛威で感染が再拡大している現在と状況が似ている。この結果から考えると、現在も多くの企業がテレワークを継続する方針である可能性が高いと言えそうだ。
テレワークを継続できる環境や制度が各企業で整ってきたことも大きいだろう。ビフォーコロナにおいては、そもそも従業員がテレワークできる社内制度が整っておらず、テレワーク用にノートパソコンなどが貸与されているケースもまれだった。
しかし現在では、すでにテレワークができる環境や制度が整い、懸念されるセキュリティ問題も新たなソフトウェアの導入などで解決されていることが多い。このような状況も、テレワークが継続される一因となりそうだ。
ゼロか百かの対応ではなく、柔軟な取り組みが求められる
新型コロナウイルスの感染拡大がいつ収束するのかは、残念ながら誰にも分からない。ワクチン接種をすれば現在のところは重症化率が下がるとされているが、ワクチン接種後も重症化を防ぎきれない新たな変異株が猛威を振るえば、状況はさらに悪化してしまう。
その中では、テレワークの制度を完全にやめるという決断は、やや早計に感じる。ゼロか百かの対応ではなく、感染者数が少なくなれば一時的にオフィス出社を増やすといった柔軟な取り組みが求められそうだ。
ちなみに海外では、米EC(電子商取引)大手のAmazonも在宅勤務の期間を延長し、Googleも似たような対応をとっている。企業経営者はコロナ対策でまだまだ難しい舵取りを迫られるが、他社の例も参考にしつつ、従業員の健康を優先した上での対応が求められる。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)