楽天に不安要素がいくつも出てきている。モバイル事業向け基地局の整備の遅れ、テンセントから出資を受けたことによる情報流出の懸念、赤字額の拡大などだ。全てモバイル事業に端を発する懸念と言える。楽天を取り巻くこのような問題はいつまで続くのか。
1つ目の懸念:基地局整備の遅れ
楽天は、「第4のキャリア」を掲げて2020年4月にモバイル事業をスタートした。すでに通信サービスの提供を開始しているが、通信エリアの拡大を加速させるため、基地局の整備を急いでいる。しかし、思うように基地局の整備が進んでいない。このことが1つ目の懸念だ。
その理由は、基地局を整備するために必要な半導体が足りていないからである。現在、世界規模で起きている半導体不足は、自動車メーカーや電機メーカーなどに多大な影響を与えているが、楽天もこれらのメーカーと同様に悪影響を受けているわけだ。
このような状況の中、楽天は自社回線における4G通信の人口カバー率について、目標を後ろ倒しにした。人口カバー率を96%まで拡大するという時期を、これまでは「2021年の夏まで」としていたが、「2021年内」と変えた。
楽天モバイルの2021年5月末時点の人口カバー率は88.6%で、6月末時点では90%に達していることが明らかにされている。ちなみに、楽天が総務省に提出した開設計画では、2026年3月末までにカバー率96%を実現するとしており、この計画よりも遅れることはないとみられている。
2つ目の懸念:中国当局への情報の流出
続いて、2つ目の懸念について見ていこう。楽天はモバイル事業によって業績が悪化していることもあり、中国のIT大手企業であるテンセント(騰訊控股)の子会社から657億円の出資を受けた。出資金の払い込みは2021年3月に終えている。
このテンセントの子会社からの出資を、日本政府は警戒視している。テンセントの子会社から出資を受けたことで、楽天の日本ユーザーの情報が中国に流れることを懸念しているわけだ。
そもそも、楽天はモバイル事業だけではなく、金融サービスやEC(電子商取引)サービスなどさまざまな事業を展開しており、保有する個人情報は膨大な量である。そして、楽天が日本郵政グループと業務提携したことで、保有する個人情報などのデータは一層増える。
楽天は無論、テンセントを通じた中国当局への情報流出が起きないよう、細心の注意を払うとみられるが、中国政府が中国企業に対し、当局の情報収集に協力することを義務付けている。楽天からの情報流出の懸念は今後も付きまとうことになりそうだ。
3つ目の懸念:赤字額の大幅な拡大
そして3つ目の懸念は、業績の急速な悪化だ。まず過去5年間の楽天の業績を振り返ってみよう。
売上高が伸びているにも関わらず、2019年12月期から楽天は赤字に転落しており、2020年12月期には赤字額が1,000億円台まで拡大した。
2021年8月11日に発表した楽天の2021年12月期中間決算(1~6月)では、赤字額が前年同期の274億8,500万円から倍以上に膨らみ、654億3,800万円にも上った。このペースでは、通期決算で前期の赤字額を上回るのはほぼ確実だとみられている。
売上高の増加に反して赤字に転落しているのは、基地局の整備に多額の資金を要しているからだ。その結果、モバイル事業が単体で大赤字の状況となり、ほかの事業で稼いだ利益でその赤字額をまかなえない規模となっている。
3つの懸念から楽天の将来を占うのは早計?
冒頭でも触れたが、これら3つの懸念はすべてモバイル事業に起因するものだ。情報流出の懸念は今後もなかなか消えないかもしれない。だが、基地局の整備さえ完了してしまえば楽天の業績は元の状況に戻り、モバイル事業が軌道に乗れば業績がさらに上向く可能性も高い。
楽天の将来性を占うには、もう少し同社の様子を注意深く観察する必要がありそうだ。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)