矢野経済研究所
(画像=seamo/stock.adobe.com)

鉄鉱石、銅、原油など資源価格の高値が続く。とりわけ、鉄鉱石の急騰が著しい。新型コロナウイルスが世界に拡散した昨春、国際相場は1トンあたり80ドル台まで低下した。しかし、中国経済の回復を受けて夏場以降は反転、次いで米国経済も急回復、米中の旺盛な鋼材需要を背景に今年5月にははじめて同200ドル台に乗せた。資源高は三井物産、三菱商事、丸紅など総合商社の利益を押し上げ、鉄鋼大手3社の業績を急回復させる。日本製鉄の2022年3月期は3期ぶりの最高益を見込む。

一方、建設業界では鋼材製品の値上げが経営問題として顕在化しつつある。輸入に100%依存する鉄鉱石の価格高騰は、鉄鋼生産の1/4を占める鉄スクラップからの再利用鋼材の需給ひっ迫を招く。旺盛な海外需要は鉄スクラップの価格にも連鎖、輸出価格が国内の市場価格を上回る状態が続いている。再利用鋼材の主力販売先は建設業界であり、業界からは木材市場における「ウッドショック」に次ぐ、「アイアンショック」を懸念する声も聞こえてくる。

さて、国際市況に直結し、景気に左右されやすい鉄鋼産業ではあるが、当面は世界的なアフターコロナ需要が期待できる。一方、採算性については楽観できない。最大の資金需要は「脱炭素」投資である。鉄鋼連盟は2050年のCO2排出量を実質ゼロにするとの業界目標を掲げた。各社は鉄鉱石とコークスを使う高炉方式からCO2排出量が少ない鉄スクラップを原料とする電炉方式へのシフトを進める。加えて、コークスの代わりに水素を還元剤として使う水素還元製鉄技術の開発を加速する。しかし、いずれも技術的な課題は多く、投資総額は個社単位で数兆円に達するとの試算もある。

鉄鋼産業のCO2排出量は国内の1割、製造業の4割に達する。政府目標の達成には鉄鋼産業のイノベーションが必須だ。しかし、個社の利益で巨額投資を吸収することは困難であり、一方、個別需要家への価格転嫁にも限界がある。要は社会全体として脱炭素コストをどう考えるかということだ。 脱炭素は今や競争要件だ。国別、業界別、企業別の目標設定は当然である。しかしながら、それが地球環境問題である以上、文字通り、グローバルサプライチェーン全体としての取り組みも不可欠である。2日、コマツは世界有数の鉱山会社Rio Tinto(英)、BHP(豪)、CODELCO(チリ)、Boliden(スウェーデン)と鉱山オペレーションにおける温室効果ガス削減に向けてのアライアンスを発表した。新たな取り組みのカタチのヒントがここにある。

今週の“ひらめき”視点 8.1 – 8.5
代表取締役社長 水越 孝