イギリスの学者が提唱したパーキンソンの法則は、生産性の向上やコストの削減に役立つ法則だ。この記事では、パーキンソンの法則の意味を事例とともにわかりやすく紹介する。法則をふまえたビジネスや組織における対策も解説していくので、ぜひ参考にしてほしい。
目次
パーキンソンの法則とは?
パーキンソンの法則とは、イギリスの歴史学者・政治学者であるシリル・ノースコート・パーキンソンが、著書「パーキンソンの法則:進歩の追求」で提唱した法則だ。イギリスの行政組織を研究する中で導き出したという。
一般的にパーキンソンの法則は第一法則と第二法則に分かれる。
第一法則:仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する。
第二法則:支出の額は、収入の額に達するまで膨張する。
パーキンソンの法則を聞いて、思わず納得してしまう人は多いだろう。
たとえば、納期まで余裕があるとき、仕事に集中しないと締切直前までかかる。また、年収が上がっても貯金できないことを思い浮かべる方もいるかもしれない。
このように個人レベルの悩みでも、パーキンソンの法則は当てはまる。
パーキンソンの第一法則の意味と事例、対策
パーキンソンの第一法則の意味をわかりやすく解説し、経営に当てはめた場合の事例、対策も紹介する。
パーキンソンの第一法則の意味
「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」というパーキンソンの第一法則は、仕事量にかかわらず役人の数が毎年少しずつ増加していることから導き出された。
役人の数が増えれば、理論上は仕事にかかる時間が短くなり、新しい仕事に時間を割けるようになるはずだ。しかし、現実的には人数が増えても同じ仕事を同じ時間でこなす状況がみられた。
あくまでイギリスの行政組織を観察する中で導き出された法則であり、すべての組織に当てはまるわけではない。
しかし、パーキンソンの第一法則が、経営のヒントになることは間違いないだろう。
パーキンソンの第一法則の事例
A社では、長時間労働が常態化していた。働き方改革の影響もあり、定時退社を推奨したが、現場の社員はなかなか帰ろうとしない。そこで、現場責任者に原因の分析と対策の考案を指示した。
一週間後、現場責任者は下記の内容を報告した。
・人員に対して仕事量が多すぎる
・各部門で必要な人員数は10人
そこで、経営者は新しい従業員を雇用して各部門に10人ずつ配属し、状況を見守った。しかし、加わったメンバーにも残業が発生し、定時退社は実現しなかった。
これは極端な例だが、業種・業界によっては身近な出来事だろう。現場は人手不足を訴えて人員補充を要求する。しかし実際には、人手を増やしても生産性が向上しないことも少なくない。
経営者が生産性を本気で向上させたいなら、パーキンソンの第一法則を理解してから正しい対策を行うとよい。
パーキンソンの第一法則の対策
パーキンソンの第一法則の対策を2つ紹介する。
対策1.時間ではなくプロセスや成果を評価する
評価制度がない場合を考えてみよう。社員からすれば、労働時間が長いほど残業代が増えるので、金銭的なメリットを享受できる。長く働くほどお金がもらえると解釈してしまい、無意識に仕事の時間を引き延ばそうとする心理が働く。
したがって、評価の仕組みを見直さなければならない。
たとえば、各部門の責任者に仕事の成果目標に加え、残業時間の削減目標を提示させ、達成した部門を表彰したり、交際費の枠を増やしたりする。
そのほか、社員が定時退社を達成したらポイントを与えて、それに応じて賞与を加算する方法もある。
対策2.進捗管理の体制を見直す
成果が出ないプロジェクトがあるなら、進捗管理の体制を見直すとよい。
「いつまでに何をするか」を明確に設定し、お互いに共有するのだ。
期日になったら成果と進捗を確認し、もし成果が出ていない場合は再び期日を設定する。
実施作業と投下時間が視覚的にわかるガントチャートを作成するのもいい。タスク管理ソフトを導入し、プロジェクトメンバー全員が期日や進捗を共有できる体制を作る方法もある。
プロジェクトリーダーが一堂に会して、プロジェクトの進捗を報告する場を設けるのも効果的だ。いずれにせよ、お互いの進捗がわかればメンバーに危機感が湧く。
パーキンソンの第二法則の意味と事例、対策
パーキンソンの第二法則の意味をわかりやすく解説し、経営に当てはめた場合の事例、対策も紹介する。
パーキンソンの第二法則の意味
「支出の額は、収入の額に達するまで膨張する」というパーキンソンの第二法則は、国家の財政状況をもとに導かれた法則だ。
国家の運営費が一定だとすれば、税収の増加で国家の財源は潤うはずだ。しかし、イギリスの行政組織では、そのような結果にはならなかった。
税収が毎年増えているにもかかわらず、毎年お金を使い切ってしまい、税金の負担が増えた。
パーキンソンの第二法則は、経営だけでなく家計にも当てはめられる。人間は気が緩むと、お金を際限なく使ってしまう傾向を持ち合わせている。財務に対して真摯に向き合うことが大切だ。
パーキンソンの第二法則の事例
B社の経営者は、前経営者である父親の体調不良により、会社経営を任される立場となった。事業は好調で、今年は昨年比数パーセントの増収となる見込みだ。
B社の経営者は事業を成長させようと、広告宣伝に力を入れることにした。また、社員が心地よく働けるよう古い設備を買い替えたほか、新規顧客開拓のために社員が使える接待交際費の予算も設けた。
3年後、経営者は利益が変わっていないことに衝撃を受けた。
3年間にわたって増収を達成しているのに利益は横ばいで、今年にいたっては減益となるかもしれない。どこで経営を誤ったのか、経営者は首をかしげた。
極端な例かもしれないが、一見好調に見えるのに赤字経営に四苦八苦している会社はたくさんある。パーキンソンの第二法則が示しているように、売上が増えても支出が増えてしまうケースもあるのだ。
パーキンソンの第二法則の対策
パーキンソンの第二法則の対策を2つ紹介する。
対策1.予実管理を徹底する
健全な財務体質を作るために重要なのが、徹底した予実管理だ。予算と実績が異なる場合に原因を分析する。
新しい決算期に入る前に来期の計画を立て、すべての費用項目について一年間の予算を設定する。
予期できない突発的な費用も、あらかじめ一定金額を設定しておく。また、売上にともない増加する変動費については、売上の数パーセントで設定する。
面倒であれば一年間の予算を12ヵ月で割ってもいいが、月によって変動するので月次の予算を設定するのが望ましい。
そのうえで計画した予算と毎月の実績を月初に比較する。1年を通して予算内におさめれば、増収なら自然と増益となる。
対策2.投資効果を確認する
必要な投資だと考えても、実際に結果を見なければ適切だと判断できない。投資効果を測定してみると、自身の感覚と結果にかい離が生じるケースはある。
次の投資を成功させるためにも、投資効果を確認することが大切だ。
たとえば、新しい設備がもたらす売上やコストを見積もってから投資し、数年後に効果を数字で確認する。
この作業を続ければ、資金を最適な箇所に投資し、投資効果を高めていける。
パーキンソンの法則で新しい働き方を目指す
パーキンソンの法則は1958年に発見された。現在にわたって世界中で取り上げられるのは、会社やビジネスマンに普遍的な示唆を与えてくれるからだろう。
複雑な時代の変化によって経営難に苦しむ企業もある。
パーキンソンの法則を実際の経営に当てはめて、新しい働き方を模索してみてはどうだろうか。
文・木崎涼(ファイナンシャルプランナー、M&Aシニアエキスパート)