さまざまな社会問題が深刻視される中、その解決法としてアサーティブ・コミュニケーションが注目されている。人材育成にも役立つ手法なので、現代の経営者はぜひ身につけておきたい。概要に加えて、メリットやトレーニング法などをしっかりと押さえよう。
目次
現代ビジネスに欠かせない? 「アサーティブ・コミュニケーション」とは
古くから日本企業では「しつけ」や「社会的規範」が重視されており、今でもこれらを軸として研修を行う企業は少なくない。しかし、これらのものが「人間の社会活動を阻害している」といった考え方が浸透しつつあり、国内企業の在り方は少しずつ見直されてきている。
「アサーティブ・コミュニケーション」の重要性
このような現代において、経営者が確実に理解しておきたいものが「アサーティブ・コミュニケーション」の重要性だ。アサーティブ・コミュニケーションとは、自分と相手の両方を尊重しつつ、率直に意見や気持ちを伝えるようなコミュニケーションの取り方を指す。
さまざまな社会問題が浮き彫りになる中、アサーティブ・コミュニケーションの注目度は確実に高まっている。特にビジネスシーンにおいては、アサーティブ・コミュニケーションが主流になる可能性も十分に考えられるので、世の中の経営者は早めに概要やポイントを理解しておきたい。
アサーティブではないコミュニケーションとは?
予備知識として、「アサーティブではないコミュニケーション」についても紹介しておこう。具体的なものとしては、主に以下の3つが挙げられる。
アサーティブではないコミュニケーションの問題は、人間関係におけるさまざまなトラブルを誘発する点だ。例えば、攻撃型はパワハラやセクハラ、作為型は組織の崩壊につながる恐れがある。
受身型は一見すると害がないように思えるが、場合によっては周囲を苛立たせることがある。また、そもそも従業員が受身型になってしまっている社内環境にも、何かしらの問題があると考えられるだろう。
アサーティブ・コミュニケーションが重視された背景と4つのメリット
アサーティブ・コミュニケーションの概念は、もともとはアメリカの心理学者である「アンドリュー・ソルター」によって1949年に生み出された。当初は同氏の書籍(Conditioned Reflex Therapy)の中で重要性が説かれている程度であったが、その概念はアメリカの人権擁護運動をきっかけとして社会に浸透していく。
では、このように古くからある概念が、なぜ現代の日本で注目されているのだろうか。結論から言えば、アサーティブ・コミュニケーションはハラスメントやメンタルヘルスをはじめとした、さまざまな社会問題の解決につながるためだ。
具体的にどのような仕組みで解決につながるのか、ここからはアサーティブ・コミュニケーションのメリットを紹介しよう。
1.人間関係が円滑になり、離職率の低下につながる
従業員がアサーティブ・コミュニケーションを身につけると、職場の人間関係が円滑になる。
例えば、攻撃型のコミュニケーションを取る上司がいたとする。そんな上司が部下の気持ちを尊重するようになると、部下の考え方や意見を冷静に聞き出せるようになるはずだ。自分の気持ちを吐き出せた部下はストレスを溜めにくくなるため、理想的な上下関係を築きやすくなる。
つまり、現場にアサーティブ・コミュニケーションを導入すると、従業員のモチベーションアップ、引いては離職率の低下が期待できるのだ。
2.重大なミスへの対処が早くなる
一方で、上司との関係がうまくいっていない部下は、受身型のコミュニケーションになりやすい。受身型の従業員は、重大なミスをしたときの報告が遅れる傾向にあるので、受身型の部下が増えすぎると会社の経営リスクも必然的に高まっていく。
では、部下である従業員がアサーティブ・コミュニケーションを身につけた場合はどうだろうか。自分にとって都合が悪いこともスピーディーに報告するようになるため、重大なミスへの対処が早くなる。
また、社内のイエスマンが減ることで意思決定に多様性が生じる点も、企業によっては大きなメリットになるだろう。
3.ハラスメントの防止策になる
アサーティブ・コミュニケーションは、ハラスメントの直接的な防止策になる。例えば、上司と部下がお互いを尊重すれば、対等なコミュニケーションを図れるようになるため、近年問題視されているパワハラは発生しなくなるだろう。
また、スキンシップの取り方が変わり、性差別や性的な言動もなくなるので、いわゆるセクハラのような問題も防げる。
4.企業全体の生産性が高まる
上記で紹介したメリットが実現すれば、結果的に企業全体の生産性がアップする。また、さまざまな社会問題を未然に防げるので、安定した経営基盤や組織を作りやすくなるだろう。
さらに、ストレスが溜まりにくい職場環境を整えることは、働き方改革の実現にもつながっていく。アサーティブ・コミュニケーションによって社内外の評価が高まれば、優秀な人材も確保しやすくなるはずだ。
アサーティブ・コミュニケーションの4つの柱とは?
アサーティブ・コミュニケーションを本当の意味で理解するには、以下の「4つの柱」を押さえておく必要がある。
上記のうち、どれが欠けてもアサーティブ・コミュニケーションは成り立たない。上司が部下に歩み寄るだけではなく、部下側もコミュニケーションに対する意識を変える必要があるだろう。
また、実際にアサーティブ・コミュニケーションを導入する際には、ほかにもいくつかの点を意識しなくてはならない。そこで以下では、経営者が特に押さえておきたい2つのポイントをまとめた。
1.空気を読むのではなく、事実をそのまま受け入れる
現代の日本人は、その場の空気を読んだコミュニケーションを取りがちである。確かに空気を読むことは大切だが、実はアサーティブ・コミュニケーションではそれほど意識する必要がない。
アサーティブ・コミュニケーションにおいては、空気を読むことよりも「事実を正しく認識すること」が重要になる。例えば、周りから見ると表情がさえず、イライラしているように見える上司がいたとしよう。このとき、「不機嫌そうだから話しかけないでおこう」とビクビクするのは、前述の受身型のコミュニケーションに該当する。
つまり、空気を読むことに対する意識が強すぎると、理想的なアサーティブ・コミュニケーションは実現しない。仮に上司の表情が不機嫌そうに見えても、実際には「目が疲れているだけ」「プライベートで悲しいことがあった」といった状況は十分に考えられるため、経営者は事実のみを素直に受け入れるような意識づけをしていきたい。
2.命令を「提案」に、説得を「共感」に置き換える
命令と説得は、アサーティブ・コミュニケーションを阻害する行動だ。これらの行動はハラスメントにつながりかねないため、命令を「提案」に、そして説得を「共感」に置き換えることを意識したい。
例えば「書類を片付けてください」は命令口調だが、これを「書類を片付けませんか?」「書類を整理してはどうですか?」のように言い換えると、命令が提案に置き換わる。つまり、語尾や伝え方を少し工夫するだけで、言葉を受け取る側の心情は大きく変わってくる。
一見すると簡単なように思えるが、実践すると意外に難しいと感じるはずだ。言葉の使い方は癖になっていることが多いので、現場から命令・説得をなくすには従業員全体が強く意識する必要がある。
アサーティブ・コミュニケーションの効果的なトレーニング法
アサーティブ・コミュニケーションを身につけるには、地道なトレーニングをする必要がある。では、従業員全体に習得させる方法として、どのようなトレーニングが効果的なのだろうか。
最後に、アサーティブ・コミュニケーションの効果的なトレーニング法を2つ紹介する。
1.DESC法
DESC法は、相手を傷つけずに自己主張をするためのトレーニング法だ。以下の4点を意識した手法のため、その頭文字をとって「DESC法」と呼ばれている。
DESC法を通してアサーティブ・コミュニケーションを身につけるのであれば、上記の4つをすべて意識しなくてはならない。最初からスムーズにこなすことは難しいため、まずは簡単な状況を想定してひとつずつ流れを確認していこう。
2.アイメッセージ
アイメッセージとは、主語に「私(I)」をつけて会話をするコミュニケーション手法のこと。主語に「あなた(You)」をつけるユーメッセージに比べると、相手に少し柔らかい印象を与えられる。
例えば、「あなたのやり方は間違っている」と言うと攻撃的だが、これを「私のやり方とは違う」のように言い換えれば攻撃性が少し和らぐはずだ。さらに、DESC法を意識して具体的な方法を提案できると、アサーティブ・コミュニケーションを実現しやすくなる。
アサーティブ・コミュニケーションを実践する企業は地道なトレーニングを
アサーティブ・コミュニケーションは、現代社会におけるさまざまな問題を解決できる。従業員のメンタルヘルスや働き方改革とも関連性があるので、基本的な知識は早めに身につけておきたい。
ただし、すべての従業員がすぐに実践できるものではないため、円滑なやり取りが実現するまでは地道なトレーニングを重ねていこう。