伸長続けるフードデリバリー業界、外資系の参入が活発化、ゴーストレストランも拡大(画像はfoodpandaの配達員)
(画像=伸長続けるフードデリバリー業界、外資系の参入が活発化、ゴーストレストランも拡大(画像はfoodpandaの配達員))

2020年はフードデリバリーに注目が集まった1年だった。新型コロナウイルスの感染拡大で外食需要は大きく落ち込む中、多くの飲食店は減少する売り上げをカバーすべくテークアウトやデリバリーを始めている。配達を請け負う事業者も、これをチャンスと捉えて提案に力を入れている。また、これまで飲食以外を手掛ける企業もゴーストレストランという形で飲食事業への参入を進めている。

日本フードサービス協会によると、2020年の外食売上は前年比15.1%減で、売上金額(推計)は22兆円となった。一方で、フードデリバリーを含めた中食市場の規模は拡大している。外食の需要に行きづらくなる中、需要の受け皿のような形としてデリバリーは広がっていると見られる。

取材をしたデリバリー事業者も異口同音で「コロナ禍にデリバリー利用は大きく伸長した」と話す。

エヌピーディー・ジャパンの調査によると、2020年の出前市場の規模は、前年比50%増の6,264億円になったという。レストラン売上に占める出前の比率は、2019年から2倍以上に増え6.5%となった。新型コロナウイルスの感染拡大以前は利用の多くは夜間だったが、今では昼間の利用も順調に増えているという。

2020年は「foodpanda」や「Wolt」など、海外で広く使われているデリバリー事業者の新規参入が多かった年でもあった。日本のデリバリー利用率が低かった点に注目し、相次いで日本でのサービス開始を発表している。2021年6月9日には米国でトップシェアを誇る「DoorDash」も宮城県仙台市でサービスを開始した。

加盟店数も急伸した。「Uber Eats」では、加盟店数は10万店以上となった。サービスエリアは35都道府県まで広がっており、2021年中に全都道府県でのサービス実施を目指している。

「出前館」の加盟店数は7万店以上になった。サービスエリアは全都道府県をカバーしている。大枝千鶴執行役員は「今後は店舗数を追うのではなく、増やしながらも店舗それぞれの売上増を目指す」としており、ローカルチェーンの確保や、それらの売上向上につながる提案に力を注いでいる。

国内の事業者としてテークアウト向けのサービスを展開していた「menu」も、デリバリーへの参入を果たしている。加盟店数は公表されている範囲で3番目に多い約6万店となっている。また、KDDIと資本業務提携契約を締結したと6月2日に発表した。au IDとの連携を進め、デリバリーと店内飲食の双方で店舗支援やマーケティング強化に取り組む。

2020年9月にサービスを開始した「foodpanda」は、加盟店数は非公表だが「2020年にローンチした中では高い伸長率では」(津毛一仁CMO)と話す。フードに加えて、日用品関連の加盟店数拡大にも力を注いでいる。フードメニューは地方で人気の飲食店の加盟に力を入れている。また、日用品の在庫を持ち、配送する「D マート」というサービスも年内実施を目指している。

「Wolt」配送料を一律99円に抑え、地方では高いシェアを確保しているという。加盟店数の増加には、実際の店舗を持たない飲食店「ゴーストレストラン」(事業者によっては「バーチャルレストラン」とも呼ばれている)が一役買っている。いくつものブランドが同じ住所に集まっていることもある。最近では手の空いたホテルのキッチンをゴーストレストランとして活用する実験を行っている。

また、ゴーストレストランのブランド化も見られる。飲食店がゴーストレストランのブランドを運営する会社と契約し、店舗とは別のブランドの商品を作っているという。

ただ、1か所に数十ものブランドをゴーストレストランとして登録しているところもある。利用者の一部からは不満の声も出ている。こうした状況を懸念する事業者もいる。

売上が伸長する中で、サービス競争も激化している。様々な広告展開に加え、値引き競争が加熱している。事業者によっては初回の注文がほぼ無料になるところもある。

こうした現状について、foodpanda Japanの津毛氏は「成長期の今だからこそ、コストをかけて認知向上やサービス改善に取り組まなければならない」と力を込める。

出前館も同様の考えで、「今の売り上げならば、コストを抑えれば黒字化もできる。しかし、今はそれ以上にサービスの利便性向上や、さらなる認知拡大などに力を注ぐことが重要」との考えを明かす。売上は計画を上回る水準で推移しているといい、同社の3か年計画で掲げる将来的な黒字化達成に自信を見せる。

Woltでも小売り業態との連携を急ぐ。関東エリア代表などを務める安井春菜氏は「ネットスーパーで注文の場合、数日後に使いたいものが多い。しかし、もっと早くに欲しいと考える人もいるため、取り組みを進めていく」と話す。日本のフードデリバリー市場は、まだ大きいとは言えない。しかし、これだけ様々なキャンペーンを打ち出している中でも、まだ利用したことが無い人も多い。サービスに対応していない地域も多く、「サービスを受けられるのは、まだ日本全体の人口の5割に届いていない」という。

そのため、各社とも「今後も市場は伸びていく」と話す。飲食店関係者も「コロナが収束した際は一時的に落ち着くかもしれない。しかし、一度根付けば収束後であっても利用は伸び続けるのでは」と述べ、今後に期待を寄せる。

新型コロナウイルスで市況が一変した飲食業界。デリバリー事業者と食品メーカーが共同で新たな取り組みを進めているという話もある。大きく変化する市場の中で、各社がどのようにシェア拡大を図るのか、注目したい。

〈冷食日報2021年6月10日付〉