長引く新型コロナウイルスの影響で、飲食店の状況は厳しさを増している。ファストフード業態を除くすべての業態で、コロナ以前の売り上げを下回り続けている。助成金の支払いが遅れているという話もあり、廃業に踏み切る店舗の数は増え続けている。その中で、大手外食企業では新業態の開発や、新領域への参入などが活発化している。
日本フードサービス協会が発表した2021年4月の「外食産業市場動向調査」によると、全店の売上高は、コロナ拡大前の2019年4月と比べて19.5%減少した。まん延防止措置や3回目の緊急事態宣言の発令などで厳しい情勢が続く。特に、酒類の提供が終日禁止されたことで客単価の減少なども見られる。
最も堅調な推移を見せるファストフード業態でも、2019年同月比では0.9%減だった。ファミリーレストラン業態は同31%減、居酒屋・パブ業態は73.5%減、ディナーレストラン業態は53.6%減、喫茶業態は同31.8%減となっている。郊外型や住宅地隣接のエリアでは影響の少ない店舗もあったが、都市部ではテレワークの広がりなどで利用者は一時期ほどではないものの、コロナ以前からは減少した。
東京商工リサーチの調査によると、2020年における負債1,000万円以上の飲食業の倒産件数は、過去最多の842件だった。また、今年1月の調査では約4割の飲食店が廃業を検討していたという。
「外食、居酒屋については瀕死の状態であるといっても過言ではない」と語るのは、ワタミ代表取締役会長兼グループCEOの渡邉美樹氏。4月1日から5月末の期間に営業利益ベースで12~13億のマイナスの影響が出たという。街の飲食店からも悲鳴が聞こえる。都内の飲食店に勤める男性は「お酒の提供ができなくなって、来てくれる方が減った。1人当たりの単価も下がっている」と話す。別の男性は「売り上げが落ち込んでいるのも怖いけど、協力金の支払いが遅れていることにも不安を感じる」と吐露する。
飲食業界全体で厳しさが増す中、新たな事業展開を進める企業が増えている。
ワタミは、居酒屋業態から焼肉業態への転換を加速させている。今後は韓国発のチキンブランド「bb.q オリーブチキンカフェ」やから揚げ専門店「唐揚げの天才」のフランチャイズ展開をより進めていく。同社は政策投資銀行に約120億円の資本支援を申し込んだ。これを元手に新規出店や業態転換などを進める考えだ。
「ロイヤルホスト」などを展開するロイヤルホールディングスでは、5月29日にファストフードの新業態「Lucky Rocky Chicken(ラッキーロッキーチキン)」を都内に開いた。売上の75%をテークアウト、15%をデリバリーで獲得する考えだ。黒須康宏社長は「中食、内食が非常に伸びていて、外食そのものは少しシュリンクしてきている。この流れはおそらく今後、平常時に戻った後も続いていくのではと思うと同時に、さらなる食の多様化が進んでくることが想定される」と予測する。今後は、外食や中食、内食それぞれの垣根が下がるとの考えから今回の出店に至った。年内に10店舗程度の出店を計画する。
「焼肉ライク」などを展開するダイニングイノベーションは、新たに会社を立ち上げて昨年11月に値ごろな価格でグルメバーガーを楽しめる「ブルースターバーガー」を都内に出店している。人件費や初期投資などを抑えて、低価格での商品提供を実現した。
デリバリーでの新たな取り組みも広がっている。串カツ田中ホールディングスは、3月下旬からデリバリー限定の新業態「串カツ田中の串カツカレー」を展開している。串カツが引き立つよう開発したカレーに、好みの串カツをトッピングすることができる。調理は串カツ田中の店舗で行う。
織田辰矢取締役営業本部長は「コロナが収束したとしても、外食産業の売り上げはコロナ前の8~9割程度に留まると言われて。その中でデリバリー市場は伸長している。変化するニーズに応えるため、デリバリー専門の新ブランド開発に至った」と説明した。今後はデリバリーでグループ全体の売上の約10%を確保することを目指す。
「磯丸水産」などを展開するクリエイトレストランツは、業態転換と共にゴーストレストランの展開を進めている。居酒屋やビュッフェ業態の30店舗を、日常の食事利用を目的とした食堂や寿司屋、しゃぶしゃぶ業態などへ転換する。また、デリバリー専門の業態として「うなぎの岡島」と「からあげ専門店 巨匠の食卓」を開発した。既存店舗のキッチンを活用して新たな売り上げの確保に努める。
その他、冷凍食品の開発を強化している会社もある。俺の(東京都港区)は、「俺のフレンチ」などのレシピを活かしたオリジナル商品の開発を行っている。「サイゼリヤ」や「デニーズ」などでも冷凍食品の販売を強めつつある。
〈冷食日報2021年6月9日付〉