矢野経済研究所
(画像=Mariia Korneeva/stock.adobe.com)

5月28日、政府は「2021年版 ものづくり白書」を閣議決定した。白書は、コロナ禍にあって製造業の先行きは依然として不透明であるが、サプライチェーンの強靭化(レジリエンス)、カーボンニュートラルの実現(グリーン)、DXの推進(デジタル)をアフターコロナ期の戦略の主軸とすべき、と提言する。とりわけ、2050年という目標年次が設定された “グリーン” は事業構造改革の一丁目一番地であると言え、イノベーションの実現に向けて一刻の猶予もない。

さて、その “グリーン” であるが、環境意識の高まりとともに中古品、リユース市場が活況である。とりわけ、アパレル、ブランド品、雑貨、貴金属などファッションリユース市場の成長が著しい。2020年の市場規模(予測)は8,200億円と推計され、この5年間で1.8倍に拡大した(当社「ファッションリユース市場に関する調査を実施(2020年)」より)。
成長エンジンはデジタルネイティブ世代だ。所有に対する執着のない彼らはグリーン的な消費スタイルをごく自然に受け入れる。フリマアプリやネットオークションといったC2Cチャネルでの売買はもはや日常の光景である。

ただ、製造業との関係で言えば当然ながらリユースと新製品は相反する。2010年、環境省はリユースによる経済波及効果(生産額)を発表した。計算は2009年のリユース総市場からC2C市場を除いた中古品小売市場4,996億円を対象に、中古品がなければその商品を購入しなかった人の比率を1割と仮定して実施した。結果は中古品販売事業者の売上増500億円、新製品の生産抑制効果▲1兆6,240億円、消費者の中古品売却による所得増2,660億円、消費者の中古品購入による所得増7,850億円、総計▲5,240億円となった。生産抑制によって失われる製造部門の雇用は7万4千人、C2C市場を試算条件に加えれば生産抑制効果のマイナス幅は更に拡大する(環境省、第3回「使用済製品等のリユース促進事業研究会」より)。

一方、成熟市場となった新製品市場では大手流通による再編が進む。狙いは商品調達やPB生産におけるスケールメリットの追求である。これでは国内製造業の疲弊は止まない。
セカンダリーマーケットとしてのリユース市場の成長を前提とするのであれば、新製品市場こそ高付加価値に向かうべきだ。中古品小売の老舗、コメ兵は経営理念に「リレーユース」という言葉を掲げる。これは「再利用に止まらず、良質なもの、価値あるものを伝承してゆく」ことだと言う。製造、小売、リユースが全体最適視点において新たな流通システムとして再構築されたとすれば、これこそがイノベーションだ。将来、メイドインジャパンかつユーズドインジャパンが新たな価値の連鎖になるとすれば、製造業にも新たな未来が拓ける。

今週の“ひらめき”視点 5.30 – 6.3
代表取締役社長 水越 孝