食品産業新聞社
(画像=食品産業新聞社)

商品先物取引法に明記されている大きく2つの認可要件とは別に、第3の要件として「政権政党の意向」、その背景に「JA系統の意向」が浮上してきた。JA系統が先物に反対し続けてきたのは周知の事実。それも「無理解」からではなく、「意図して」反対しているのは何故か。ひとまずの最終回だ。

現役・OBを問わず、真正面からJA系統に取材したところで、まともな答が返ってくるはずがない。そこで、先物経験と全農からの現物仕入経験のある複数の中間流通業者と、同じく先物経験のある複数の単協関係者に、話を訊いた。結論からいうと、各者の見解は見事に一致していた。JA系統が意図的に先物に反対している理由は、第1に「価格決定権を奪われたくないから」だ。

「少なくとも毎年のハシリの相対基準価格は、概算金プラスいくらで決まっている。全農は『市場実勢を見て決めている』としているが、現実には概算金が“緩やかな岩盤価格”になってしまっている」(関係者A)。

一方、「集荷率が下がったりとはいえ、依然としてJA系統が国内最大の現物集荷業者の座に君臨し続けているのは事実。また共計(共同計算)こそ協同組合組織の“最後の砦”だと思い込んでいるのも、これまた事実なのではないか」(関係者B)。したがってJA系統が国内産米穀の価格決定権を握っていると言える。ただし集荷率の低迷、直売比率の増加とともに、価格決定権が揺らいできつつあるのも現実だ。

「よく反対の理由に『価格の乱高下』をあげるが、この10年、価格が乱高下しているのは先物よりむしろ現物だ。だからこそ、ここにきて先物市場“ごとき”にゴッソリ価格決定権を奪われたのではたまらないと考えていのだと思う」(関係者C)。

だが仮にコメ先物が廃止されたからといって、JAの価格決定権が回復するものでもない。むしろ中国の大連や鄭州に奪われる公算が高い。国内産米に影響して来るのはかなり先だとしても、対中コメ輸出に悪影響が出るのは避けられまい。そして、そんなことはJA系統にだって予測がつくはずだ。

「その通り。だからJA系統にとって最良の戦術は、表に出ずに複数の当業者を送り込み、あるとき大量に売りヘッジを入れてしまうことだ。そうすれば先物市場のなかで価格決定権を握ることが出来るし、苦しい言い訳をせずに『価格は市場で決まっているのだ』と公言することが出来る。実際ホクレンは小豆で似たようなことをやっている。決して前例がないわけではないし、共計とも併存できる」(関係者D)。

だが、やらない。10年、いや15年も経っているのに。それは何故か。これが、またもや関係者の見解が一致した第2の理由だ。「理解した上での意図的な反発」である。「要するに、一度ふりあげた拳の落としどころに困っている状態だ。15年も前から、あれだけ強硬に反対していれば、今さら賛成に回るのは、それこそ理屈が立たない」(関係者E)。

だから「追い詰められて、仕方なく認めるという図式に持っていければ、目下最良の着地点になる。その際、条件闘争に持っていければ、なお良い。全国の農家組合員に対して言い訳が立つし、この間の遅れを一挙に取り返せる可能性もある」(関係者F)。

問題は、(あくまで仮定だが)このJA系統の“本音”を、どこまで自民党が忖度できるか、だ。このまま突っ走って廃止になど追い込まれたら目もあてられない。取引所もJA系統も、誰も得をしないのである。「無理解か否かは別にして、感情的な反発は、誰にでもある。自民党にも、役所にもある。だから、この問題を切り抜けようと思ったら、そうした『感情を逆なでしない』ことが最善なのだ」(関係者G)。

先物側の関係者の多くが「つくづく米は『政治銘柄』だなあと実感している」とこぼしている。例えば、一方が「もう大丈夫。実現は確実」などと発言しようものなら、もう一方に「なら実現させてやるものか」という感情が働く例は、それこそ枚挙にいとまがない。

結論。制度上の要件「十分な取引量」と「必要かつ適当」は、検証の結果、ほぼクリア出来ていることが分かった。だが実際に本上場申請が認可されるかどうかは、「半々の確率」であるとだけ指摘しておいて、本連載を終える。2021年8月以降に「検証:なぜ本上場が認可されたか」連載を開始できることを願って。

〈米麦日報2021年5月26日付〉