食品産業新聞社
(画像=食品産業新聞社)

商品先物取引法に明記されている大きく2つの認可要件とは別に、第3の要件として「政権政党の意向」が浮上してきた。その背景を探っていく。

最も分かりやすいので、再び2006年(平成18年)自民・公明連立政権下の「不認可」判断と、2011年(平成23年)民主党政権下の「認可」判断の比較から入る。図式を単純化するため、まず公明党は除外する。すると答は自ずと明らかだ。政権政党の違いは、明らかに「票田の違い」に直結している。つまり「政権政党の意向」というより、票田である農村、もっと言えば「JA系統の意向」を、比較的反映しやすかった自民党政権下の2006年は「不認可」、どちらかといえば都市政党だった民主党政権下の2011年は「認可」――だったのではないか。

もちろん、自民党がJA系統の言いなりだったわけではあるまい。農村票に頼る自民党のごく一部だけがJA系統の意向を“忖度”して(コメ先物に)反対、それ以外が無関心であるが故に、まるで自民党全体の意思であるかのように映ってしまうに過ぎない。ではJA系統は、なぜ反対し続けているのだろうか。

その理由は当初、先物に対する「無理解」から来る、「感情的な反対」だと思われていた。JA系統のトップ指導機関である全中(全国農業協同組合中央会)が、初めて公式に「反対」の意思を表明したのは、2005年(平成17年)6月16日のこと。理事会で「米の先物取引市場の開設に関するJAグループの考え方について」決議したのである。

このなかで、「国民の主食である米の安定生産・供給の役割を担う生産者団体としては、価格変動を前提とし、投機を目的とする先物取引については、米の需給と価格の安定を損ない、その生産・流通に著しい支障を及ぼす恐れがあることから、市場開設には反対である」としている。

ここで問題になるのが「投機」という単語だ。「もとの英語は、短期の流動性資金を意味する『ホットマネー』。これを『投機』と誤訳してしまった。当業者のリスクにかかる費用を投資家が負担してくれる仕組みが先物だ。だから『ホットマネー』は当業者側に立った英単語なのだが、訳語は投資家側に立って、“ギャンブル”的なものを連想させるものになってしまった。これが今日の誤解の出発点だ」(2005年12月26日付、森實孝郎東穀理事長インタビュー)。

「赤いダイヤ」(小豆先物のこと)を持ち出すまでもなく、「先物は身ぐるみ剥がされる」という誤解を抱くのは、農協に限らず無理からぬところではあったが、2007年(平成19年)になって、いわゆる「不招請勧誘」が禁止されたこともあり、誤解は誤解以上のものではなくなった――はずだった。

この当時、いかに無理解からくる感情論が台頭していたかを示す代表例をあげておこう。国の審議会に提出した女性農業者のペーパーにこうある。「先物取引というのは、価格の変動を利用し、お金儲けをしようとする投資家の人たちによって成り立つものだと思います。私たちは、消費者の皆様のために米作りをしているのであって、『先物』という投機の対象となる商品を作っているわけではありません。投資家の人々の思惑によって価格が左右されてしまうことは、絶対に受け入れられるものではありません」(原文のまま)。

あれから10年、いや15年。さすがに「絶対反対」ではなくなったが、少なくとも農協組合員の感情論は根強い。何故なら、そもそも全中をはじめとしたJA系統が、誤解を解く努力をしなかったからだ。もちろん、そんな義理はないが、内部で議論や勉強をすることすら禁じていたのだから、異常事態といっていい。“最初の反逆児”大潟村農協(秋田)の小林肇組合長がことあるごとに持ち出すエピソードに、全中の富士重夫専務(当時)とのやりとりがある。「『主食を投機の対象とするのはケシカラン』、『こういうことに農家が手を出すと身ぐるみ剥がされる』、『農協はこうした市場に手を出すべきではない』というトーン。かなりヒートアップした末、『だったら、あんたがやればいいだろう』ということで、全中“公認”の先物取引を始めることにした(笑)」。

以上の「状況証拠」から、JA系統は決して「無理解」から反対しているのではなく、むしろ“冷静に”意図的に反対しているであろうことは、容易に推察できてしまう。

〈米麦日報2021年5月24日付〉