食品産業新聞社
(画像=食品産業新聞社)

商品先物取引法に明記されている認可要件は大きく2つあり、うち一方「十分な取引量」は、“追加要件”も含めて、どうやらクリアしていると思しいことが分かった。今回からは、もう一方の要件の検証に入る。

正確に指摘しておこう。商品先物取引法に明記してある第2の要件は、試験上場「生産及び流通に著しい支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあることに該当しないこと」(内閣法制局と合意した法解釈=生産・流通・価格政策と整合的であること)、本上場「当該先物取引をすることが当該上場商品の生産及び流通を円滑にするため必要かつ適当であること」だ。

このうち試験上場の要件「政策との整合性」は、2005年(平成17年)に「整合的でない」と解釈され、2011年(平成23年)には「整合的である」と解釈されたという“実績”があるが、本上場の要件「生産・流通円滑化に必要かつ適当か」が俎上にのぼったことは、実は一度もない。

大阪堂島商品取引所が本上場を申請したのは2017年(平成29年)と2019年(令和元年)の2回あるが、ともに不認可とされ、試験上場の延長を申請しなおさせられている(こちらは直後に認可されている)。その際、不認可の判断を下した理由を、監督官庁である農林水産省は2回とも「取引量が不十分だった」としただけで、「生産・流通円滑化に必要かつ適当か」には全く触れていない。だからといって、この要件がすでにクリアされているとは、残念ながら言えない。

「十分な取引量」と「必要かつ適当」は、両方ともクリアしなければならない並行要件だ。「片方が引っかかった(取引量が不十分だった)段階で、もう片方を勘案する必要がなくなった」。つまり厳密に言うと、農林水産省は「生産・流通円滑化に必要かつ適当か」を検証したことが一度もないのである。したがって本連載では、ゼロベースでこの要件を検証しなければならないわけだ。

そこで、内閣法制局に出向経験のある農林水産官僚OBを取材した。それによると、まず「法律の条文、(内閣法制局と合意した)法解釈を素直に読むと、微妙に要件が異なるものの、本上場の要件『生産・流通円滑化に必要かつ適当か』が、試験上場の要件『政策との整合性』の延長線上にある、かのように見えるし、それはそれで間違っていない」という。

どうも奥歯に物が挟まったような言い方なので、もう少し解説を求めると、「試験上場は政策と整合的である、ありていに言えば時の政策の邪魔をしなければいいのだが、本上場の場合はハードルが上がり、時の政策に必要不可欠、あえて言えば、政策の装置として(当該先物市場が)組み込まれている必要がある、ということ。ただし、これは、繰り返すが、あくまで条文などを素直に読めばの話」との答が返ってきた。したがって「現実は違う」ということになる。

「農林水産省所管の先物商品で、これまで本上場が認可され、現在でも(市場が)存在しているのは、大豆、小豆、とうもろこし、粗糖の4商品。いずれも政策に先物市場が組み込まれてはいない。せいぜいがとこ、『邪魔をしない』程度だ。そもそも試験上場は、本上場促進に向けたバイパスとして後から出来た制度。ハードルが高すぎれば政策意図に反する」。だが、だからといってスンナリ本上場が認められるかどうかは、また別の問題だ。

「大豆、小豆、とうもろこし、粗糖。いずれも組み込むべき政策のほうが、あってないような品目ばかり。だが米は違う。遠い昔、統制品目だったことは枷にならないだろうが、生産段階にはまだまだ各種助成事業が紐づいているし、そこへの誘導が需給調整を進める上での装置になってしまっている。整合的か否か、という意味では、2011年以降、2年に一度、計5回にわたって、『邪魔をしない』という結論が出ており、それは今でも同様だと思うが、必要不可欠かと訊かれると…。正直なところ、全く予測できない」。

では、何がどうなっていれば、「政策に組み込まれている」が故に「必要不可欠」と文句なく解釈されるのか。この点、複数の関係者に訊くと、一致した答が返って来た。それは「現物市場の有無」だ。例にあがるのは、今はなき横浜商品取引所が上場していた「野菜」である。「様々な事情から試験上場期限切れとともに廃止されてしまったが、少なくとも当時の農水省は、いわゆる卸売市場(現物市場)の振興を政策意図の一つに掲げていたから、『両輪をなす』と言われる先物市場の上場は、見事にスンナリ受け入れられたわけだ」。

〈米麦日報2021年5月19日付〉