対日輸出拡大続くアイリッシュ グラスフェッドビーフ、アイルランド政府食糧庁「ボード・ビア」が認証制度開始
(画像=豊かな自然環境で育つグラスを給餌、220日間の放牧)

〈豊かな自然環境で育つグラスを給餌、220日間の放牧〉
アイルランド政府食糧庁Bord Bia(ボード・ビア)は、2019年に日本事務所(ジョー・ムーアジャパンマネージャー)を開設し、日本向けにアイリッシュ グラスフェッドビーフの輸出拡大を図っている。2019年には日EU経済連携協定(EPA)発効による関税引き下げや、2020年には豪州の日本への輸出減少もあり、日本向け輸出が拡大している。日本向け輸出は2015年に解禁され、財務省の貿易統計によれば2020年には3900トン・約14億円にまで拡大している。

対日輸出においては、チルドはホテルなどプレミアムな牛肉を使用するユーザー向けに輸出している。フローズンは焼肉店や、一部スーパーマーケットに並ぶほか、タンは「牛たんとろろ麦めしねぎし」でも採用されている。北米や豪州と比べ、日本への物理的距離の問題や、生産規模の違いもあるため価格優位性は高くないが、特徴のあるグラスフェッドビーフであることや徹底したサステナビリティやトレーサビリティ管理などクオリティーに対する評価が年々高まり輸出実績が急伸長している。

アイルランドは豊富な水資源や済んだ空気など自然環境に恵まれており、人口約500万人ながら2500万人分の食料を生産し約9割を輸出している。2019年の輸出金額は1.6兆円(前年比11%増)で、うち牛肉は2500億円に上る。豊かな自然環境により、牛の飼料となるグラス(牧草)が良く育つ。年間降雨量が非常に多く、1年間のうち250日間(約8カ月)降雨に恵まれる。降雨によりグラスが10カ月間育つため、放牧を中心とした飼養が可能で、通年でグラスを給餌することができる。

また、ホルモン剤や成長促進剤は一切使用していない。飼養農家も家族経営の小規模農家が大半で、広大な土地を生かして、全体の76%が1ha 当たり2頭未満という低い密度で飼育するなど特徴ある生産に取り組んでいる。牛は個体識別管理が徹底され、出生からと畜に至るまで全ての移動をデータベースで管理している。

アイルランドの国家的食品サスティナビリティプログラム「オリジングリーン」を通じて、サステナブルな牛肉生産を可能とし長期供給を保証している。農家、農業生産者、加工業者、小売業者を対象にした任意プログラムで農場におけるCO2排出削減や、生産量あたりのエネルギー消費削減、水使用量の削減などに取り組んでいる。

日本でもサステナビリティやSDGsへの意識が高まっていることもあり、日本事業者に受け入れられている。これまでは事業者向けに認知向上を図ってきたが、2021年は一般消費者向けにアイリッシュグラスフェッドビーフを積極的に情報発信していく。

その一環として、アイルランド独自の「グラスフェッド スタンダード」という基準を制定し、
〈1〉飼料のうち90%以上が牧草(サイレージ含む)
〈2〉年平均220日の野外放牧
〈3〉牧草以外の給餌10%未満
――などと定め、自然豊かな環境で生産された牛肉であることを発信していく。

世界では、消費者はグラスフェッドビーフが高くても、購入するとする割合が高いとする調査結果もあるが、日本でも「グラスフェッドビーフ」を認知している者は半数以上で、“自然”かつ“ヘルシー”で“環境に良い”というイメージを持っていることがわかっている(ボード・ビアの2021年2月実施アンケート)。

ボード・ビアでは日本事務所開設以降、シェフやバイヤー向けに積極的にイベントを開催してきた。これらの取り組みにより、レストランでもアイリッシュ グラスフェッドビーフを打ち出したキャンペーンの開催や、インターネット通販でステーキ肉の販売が行われるなど、徐々に消費者がアイリッシュ グラスフェッドビーフに触れる機会が増えている。日本市場ではアイリッシュビーフがグラスフェッドビーフであり、赤身肉であることなど、和牛とは別の特別な牛肉として、さらなる認知拡大を図り、市場をさらに拡大していく考えだ。

〈畜産日報2021年5月12日付〉