5月12日、デジタル改革関連6法案が可決、9月1日付でデジタル庁が発足する。同庁は内閣府に直属、各省の関連予算を統括するなど強い権限をもって行政システム全体の標準化とクラウド化を推進する。
マイナンバーカードの電子認証化、銀行口座や健康保険証との連動、押印・書面交付の手続の省略、廃止などによる効用は多岐にわたる。もちろん、個人情報保護に関する厳正な運用が前提となるが、実現すれば生活の利便性は大きく向上するだろう。
それだけにリスクも巨大化する。先月20日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や国内の研究機関等に大規模なサイバー攻撃を仕掛けたとされる中国籍の人物が書類送検された。人民解放軍の関与も取り沙汰される。5月7日には米国東海岸の燃料パイプラインがサイバー攻撃を受けた。FBIはロシアのハッカー集団による可能性が高いと発表した。統合された行政システムは犯罪者集団にとって格好のターゲットとなりえる。意思決定、指示系統の一本化など関係機関と連携した非常時対応策の強化は必須だ。
さて、デジタル後進国とされる我が国であるが、決してITが軽視されてきたわけではない。2000年には「5年以内に世界最先端のIT国家になる」ことを目標に高度情報通信ネットワーク社会形成基本法を制定、2002年には行政手続オンライン化法が成立、「国と地方行政機関の5万2,000件の手続を2003年までにオンライン化する」ことが表明された。しかし、これらはやがて中途半端なまま “尻すぼみ” 状態となり、結果、昨年の “一律10万円給付” でIT化の現状が露呈する。長期戦略の欠落、縦割り行政、責任主体の曖昧さなど要因は複合的であるが、要するに場当たり的であったということだ。今度こそ長期的なビジョンと戦略性をもって成し遂げていただきたい。
最後にもう一点。行政のDX化とは単に現行の行政システムをITに置き換え、行政手続の効率化をはかることではない。組織、権限、役割、意思決定、働き方など行政機構そのものの在り方を再構築することにある。言い換えれば国民に対する責任と義務を再定義する作業と言ってもいいだろう。データの持ち方に際しての要件は「記録はすべて残すこと」、そして、「公開を原則とする」ことだ。“政府・行政機関の情報は主権者に帰属する” という原理原則を設計思想の根幹に据えていただきたく思う。
今週の“ひらめき”視点 5.2 – 5.13
代表取締役社長 水越 孝