
就業規則は、労働関係法令をベースとして、事業場における労働条件を明文化したルールである。今回は、就業規則の仕組みや作成のメリット、届出方法などを解説する。
就業規則を変更するときの注意点にも触れているので、ぜひ参考にしてほしい。
目次
就業規則とは
就業規則とは、社内で守るべき服務規律や賃金、労働時間など、社員の採用から退職までの労働条件を明文化したルールだ。正社員や嘱託社員、アルバイトなど、自社で雇用するあらゆる労働者を対象とする。
就業規則は、労働関係法令に準じた内容で作成しなければならない。
就業規則の仕組み
労働基準法第89条によると、労働者を常時10人以上雇用している事業場には、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務づけられている。
例えば、正社員が4名でアルバイトが6名の事業場では、作成義務がある。経営者は労働者に含めない。
事業場とは、本社だけでなく支店や営業所なども指している。自社に複数の支店や営業所がある場合、個別に就業規則を作成して、労働基準監督署に届出しなければならない。
ちなみに就業規則は、社員との労働条件に関する契約であり、作成内容について社員の同意や周知も必要だ。
労働基準法第120条によると、就業規則の作成義務に違反すれば、30万円以下の罰金が科される。
就業規則を作成するメリット
就業規則を作成するメリットは主に下記の通りだ。
・採用に必要な手続きや条件の明確化
・転籍や出向に関する運用の明確化
・退職や解雇におけるトラブル防止
・事業場の秩序維持
・労働関係法令の周知
・社員の業務態度を改善
・育児休業や介護休業に関する手続きの周知
・社内の機密情報流出に関する防止対策
・同業他社に転職するときの情報漏洩対策
就業規則の作成状況
就業規則の作成状況については、「平成30年度中小企業の雇用状況等に関する調査研究」で報告されている。

中小企業を対象とした調査結果であるが、回答のあった企業のうち約7〜8割が就業規則を作成しているとわかる。
ただ、策定や見直しを行う担当部署が明確になっていない企業は約半数だ。就業規則を運用する体制は不充分だといえよう。
就業規則と労働協約・社内規定の違い
就業規則と混同されやすいルールに、労働協約や社内規定などがある。それぞれの違いを確認してみよう。
就業規則と労働協約の違い
労働協約は、企業と労働組合の間で締結する労働条件に関する協約であり、労働組合法に準じている。
労働条件の取り決めを行う点では、就業規則と似ているかもしれない。しかし、労働基準法第92条では、就業規則は各事業場で締結した労働協約に反することが禁じられている。
つまり、企業が独自に作成する就業規則よりも、労使間で締結する労働協約のほうが優先される。
就業規則と社内規定の違い
社内規定は、社内ルールを明記したルールという点では就業規則と同じだ。しかし、会社が一方的に作成するルールであり、従業員の同意を必要としない。
そのほか、業務の進め方など、労働条件以外の項目についても作成できる。
就業規則に必ず盛り込む項目3つ
労働基準法第89条によると、就業規則には必ず記載すべき項目が3つある。それぞれの項目を確認してみよう。
項目1.給与(賃金)規定
臨時給与を除く賃金に関する規定を盛り込む。具体的には、基本給や職能給はもちろん、賃金を構成する要素や計算方法、支払日、支払方法、給与の集計締め切り日などだ。
昇給の判断基準も記載しなければならない。
項目2.就業時間・休暇規定
労働基準法第32条に規定されている法定労働時間を前提に、始業・終業・休憩時間などを記載する。フレックスタイム制など、変形労働時間制を適用する場合、その旨も記載しなければならない。
休日についても、労働基準法に沿って暦日を前提として設定する。
項目3.退職規定
退職規定では、自己都合退職や定年退職、懲戒解雇などの手続きに関して規定する。懲戒に該当する行為や、退職時の引き継ぎ義務、退職願の申告時期なども記載する。
労働者は就業規則の退職ルールに準じるが、民法では退職の申し入れから2週間で契約解除とされているため、極端なルール設定は望ましくない。
就業規則作成の4ステップ
就業規則の作成に関する主な流れは下記の通りだ。

ステップ1.就業規則案を作成する
使用者が就業規則の原案を作成しなければならない。就業規則は事業場ごとに作成するため、労働時間や規律などは、事業場の実態に合致した内容にする。
社員が理解しやすいように、複雑な言い回しや抽象的な表現の多用は避けるようにしたい。
ステップ2.労働者側から意見聴取する
労働基準法第90条では就業規則の作成にあたって、使用者の一方的な労働条件や服務規律の策定を防ぐために、労働組合や労働者の過半数を代表する者から意見を聴取することが義務づけられている。
あくまで意見聴取であり、同意を得たり協議したりする必要はない。しかし、労使対等が原則なので、労働者の意見を汲み取ったうえで策定するのが望ましい。
ステップ3.労働基準監督署へ届出する
就業規則の内容について、労働者代表の同意を得られたあとは、所轄の労働基準監督署長への届出が必要であり、提出書類は以下の3つである。
・作成した就業規則の本体
・就業規則届(表紙)
・意見書(労働者代表または労働組合が作成)
ステップ4.事業場で周知する
労働基準法第106条では、事業場における就業規則の周知義務が定められている。周知しない場合は、周知義務違反として罰金を科されることもある。
就業規則の周知方法は主に下記の通りだ。
・掲示板への貼り出し
・印刷と配布
・デジタル化して閲覧できる環境を整備
就業規則の作成に役立つモデルとツール
就業規則は作成項目も多く、ゼロから作成するには時間がかかる。厚生労働省では、「モデル就業規則」を無料公開している。
事業の実態に則した内容を検討する必要はあるが、参考になるだろう。
就業規則の作成には、厚生労働省が無料で提供している「就業規則作成支援ツール」も役立つ。
必要項目を入力すれば、労働基準監督署に提出できる書類として印刷できるため、申請の手間を大幅に削減できるだろう。
【参考】
厚生労働省:モデル就業規則について
厚生労働省:就業規則作成ツールについて
就業規則の変更について
就業規則は、労働関係法令に準じた内容にする必要があり、法改正にともない随時内容を変更しなければならない。
加えて、そのほかのタイミングでも変更の必要がある。主なタイミングは下記の通りだ。
就業規則の変更が必要なタイミング
・就業実態と就業規則の間に乖離が出てきた
・非正規労働者の雇用割合が増した
・労使協議制によって労働条件が変更された
・M&Aや吸収合併、会社分割などが行われた
・労働基準監督署から是正勧告を受けた
就業規則の変更手続きは作成の場合と同様であり、労働者代表の同意も得たうえで労働基準監督署へ届け出を行う。変更後の内容も社員に周知しなければならない。
なお、労働基準監督署への届出は、変更箇所のみの提示でも問題ない。
不利益変更には注意
就業規則の変更にあたって、従業員の待遇が向上する変更は問題ないが、不利な労働条件となる不利益変更には注意したい。
不利な労働条件の主な例は下記の通りだ。
・賃金ルールの見直し
・育休や産休などの適用期間を短縮する
・労働時間を従来よりも長くする
・退職金を減額する
就業規則の不利益変更箇所については無効となった裁判例もあり、労働契約法では労働者の合意なく労働条件を一方的に変更することは禁止されている。
変更の妥当性や明確な理由を従業員に説明したうえで、同意を得ることが重要だ。
就業規則の策定や改定の相談先
就業規則の策定や変更に関しては、専門家に相談するのも有効である。

就業規則を既に策定している企業は、さまざまな外部組織に相談を実施しているとわかる。
就業規則は労働関係法令に関する理解も必要だ。可能な限り法律面に強い相談先を利用してもらいたい。
担当者を定めて就業規則を運用
就業規則は、事業場の服務規律や労働条件などを決める重要なルールである。
労働者を常時10人以上雇用していない事業場に作成義務はないが、労使間で共通認識を持ち、労働紛争の発生を防ぐ意味でも作成して欲しい。
法改正によっても、就業規則の見直しが必要になる。既に就業規則を策定している企業であっても、担当者を定めたうえで内容の確認と変更も検討するとよいだろう。
文・隈本稔(キャリアコンサルタント)