
上場企業が企業価値の向上や持続的な成長を実現するには、組織ぐるみの不正を常に監視し問題行動が発生しないように努めなくてはならない。不正を防ぎ持続的な成長を実現する指針となるのが、今回紹介する「コーポレートガバナンスコード」である。
この記事では、コーポレートガバナンスコードの構成や特徴、基本方針、改訂をめぐる動きについて解説していく。
目次
コーポレートガバナンスコードとは
はじめに、コーポレートガバナンスコードの基礎知識を確認しておこう。
「コーポレートガバナンス」および「コーポレートガバナンスコード」の意味
東京証券取引所によるとコーポレートガバナンス(企業統治)とは、以下のような意味とうたわれている。
「株主をはじめ顧客や従業員、地域社会などの立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を下すための仕組みのこと」
出典:東京証券取引所
またコーポレートガバナンスコードとは、コーポレートガバナンスを実現するうえで役立つ主要な原則をまとめたものである。コーポレートガバナンスコードの原案によると企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現する目的でコーポレートガバナンスコードが策定されたとのことだ。
文中に示されている原則を参考にすることでリスクの回避・抑制や不祥事の防止を実現できる。
また健全な会社経営を実現する効果も期待できるだろう。
コーポレートガバナンスコードの構成
東京証券取引所が公開しているコーポレートガバナンスコードは、以下の5つの基本原則で構成されている。
- 株主の権利・平等性の確保
- 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
- 「適切な情報開示と透明性の確保
- 取締役会等の責務
- 株主との対話
また5つの基本原則の下には合計で31個の原則と42個の補助原則が示されている。
コーポレートガバナンスコード制定の背景
コーポレートガバナンスコードが制定された背景には、国内におけるコーポレートガバナンスをめぐる動きの加速がある。例えば2014年2月に「責任ある機関投資家」の諸原則(スチュワードシップ・コード)が策定・公表された影響で経営体制の適切性を投資家が積極的にチェックする動きが加速することになった。
また2014年1月6日よりグローバルな投資基準を満たしている会社で構成される株価指数「JPX日経インデックス400」の算出が開始。それに伴い「資本の効率的な活用」や「投資家を意識した経営観点」などが、投資する際の基準として重視される傾向が高まり投資家の間でコーポレートガバナンスを重視する動きが広まった。
企業がコーポレートガバナンスを実践する際の指針となる「コーポレートガバナンスコード」の策定が東京証券取引所によって行われた次第だ。
スチュワードシップコードとの関係性
先ほど軽く触れたスチュワードシップコードは、コーポレートガバナンスコードと非常に関連性が深いものだ。スチュワードシップコードとは、企業のコーポレートガバナンス向上を実現するために機関投資家が実践すべき諸原則をまとめたものである。
具体的には「投資先企業との対話を通じて認識の共有や問題の改善に努めること」などが原則として挙げられている。
つまりコーポレートガバナンスコードとスチュワードシップコードは「どの立場からコーポレートガバナンスを実現するか」という点に違いがあるわけだ。前者は当事者である企業、後者は企業に投資する投資家の立場からコーポレートガバナンスの実現を目指している。
視点は違うもののどちらも実現すべき最終目的は同じであることを理解しておこう。
コーポレートガバナンスコードの特徴4つ
金融庁では、コーポレートガバナンスコードの特徴として以下の4点を挙げている。
1. 攻めのガバナンス
一般的にコーポレートガバナンスは、不祥事の防止やリスクの回避を目指すなど企業を守る手段として認識される傾向だ。一方でコーポレートガバナンスコードでは「健全な企業家精神の発揮により持続的な企業価値向上を目指すこと」を主眼に置いているため、ガバナンスを攻めの手段として定義している。
2. コンプライ・オア・エクスプレイン
「コンプライ・オア・エクスプレイン(遵守か説明か)」は、コーポレートガバナンスコードにおける最大の特徴だ。具体的には「提示されている原則を必ず遵守する必要はなく遵守しない理由を説明できれば問題ない」という意味である。
一律で原則を守ることが強制されていないため、事業規模や業種など各企業が置かれた環境において最適なガバナンスを実施することが可能だ。
3. プリンシプルベース・アプローチ
プリンシプルベース・アプローチとは「抽象的で大まかな原則にしたがって各自が自由にガバナンスに取り組む」という考え方である。ケースに応じて柔軟に原則を解釈できる点が厳格に決まりを定める「ルールベース・アプローチ」とは異なる部分だ。
柔軟性の高さがメリットであるものの解釈の幅が広いためコーポレートガバナンスコードに取り組む各企業が原則の趣旨や精神を十分理解する必要がある。
4. 株主との対話の重要性
株主との対話の重要性が強調されている点もコーポレートガバナンスコードが持つ大きな特徴だ。なおコーポレートガバナンスコードの原案では、株主との対話を図ることで長期の投資を促す効果がもたらされるだろう。
コーポレートガバナンスコードの基本原則5つ
前述した通りコーポレートガバナンスコードでは、以下の5つの基本原則が示されている。この章では、原案で説明されている5つの基本原則の要点を分かりやすく解説していく。
1. 株主の権利・平等性の確保
1つ目の基本原則では、株主の権利および平等性を確保かつ権利を適切に行使できる環境を整備すべきとしている。また権利確保や権利の行使などに懸念が生じやすい少数株主や外国人株主に対して十分に配慮すべきとの明記も。
その具体的な施策として「資本政策の基本的な方針を説明すべき」「買収防衛策は経営陣や取締役会の保身を目的としてはならない」などの原則が設けられている。
2. 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
2つ目の基本原則では、従業員や顧客、取引先などのステークホルダーとの関係を重視すべきと定められている。また取締役会や経営陣は、「これらのステークホルダーの権利や立場を尊重する企業文化および風土の醸成に向けてリーダーシップを発揮すべき」となっている。
具体的な施策として以下のような原則が示されているのだ。
- 中長期的な企業価値向上に向けた活動の基礎となる経営理念を策定すべき
- 内部通報に係る適切な体制整備を行うべき
3. 適切な情報開示と透明性の確保
3つ目の基本原則では、財務情報や経営戦略・課題、ガバナンスに関する情報などについて法令に基づいて適切に開示すべきとしている。また開示される情報は、分かりやすく有用性が高いものであるべきとされている。
具体的な施策として上場会社が開示すべき情報が明示されているだけでなく外部会計監査人が行うべき対応が示されている点も特徴的だ。
4. 取締役会等の責務
4つ目の基本原則では、取締役会等の責務として「企業戦略等の大きな方向性を示すこと」などを挙げている。
原則「具体的な経営戦略や経営計画などについて建設的な議論を行うべき」「適切に会社の業績を評価し、その評価を経営陣幹部の人事に適切に反映すべき」など経営陣の意思決定や組織運営に言及している点が特徴的だ。
5. 株主との対話
5つ目の基本原則では、株主総会の場以外でも株主との間で建設的な対話を行うべきとされている。具体的な施策として「株主からの対話の申し込みに対して前向きに対応すべき」「事業ポートフォリオの見直しや設備投資など株主に分かりやすい言葉や論理で明確に説明すべき」などが示されている。
コーポレートガバナンスコードの改訂をめぐる動き
コーポレートガバナンスコードは定期的に改訂が行われているため、変更点を確認することで常に正確で最新の情報を把握しておくことが重要だ。この章では、2018年に行われた改訂のポイントおよび2021年に予定されている改訂の要点をお伝えする。
2018年における改訂のポイント
2018年の改訂において特筆すべきポイントは以下の通りだ。
- CEOの選任および解任に関する補充原則が新設された
- 十分な人数の独立社外取締役を選任すべき旨が原則として示された
- 監査役には適切な経験や能力、専門知識を有する者が選任されるべきという原則が新設された
- 経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、自社の資本コストを的確に把握すべき旨が原則で示された
上記の原則や補充原則を確認すると「企業経営の透明性や合理性を高める」という視点から改訂が行われた旨が理解できるだろう。
2021年における改訂の要点
2021年におけるコーポレートガバナンスコードの改訂では、以下に挙げたことが要点となる。
- 資本コストを踏まえた経営のさらなる推進(事業ポートフォリオ戦略の実施など)
- グループ・ガバナンスの強化(上場子会社の取扱いの適正化を含む)
- 監査の信頼性確保
- 中長期的な持続可能性(サステナビリティ)に対する考慮
- 社外取締役の質の向上
2018年の改訂と同様にコーポレートガバナンスコードの実用性をさらに高める改訂内容であると言える。
コーポレートガバナンスコードを参考にしよう
コーポレートガバナンスコードは、不祥事の防止だけでなく長期的な企業の成長にも資するものだ。経営陣がガバナンスの実施に向けて行うべきことが具体的に示されているのでぜひ参考にしてみてはいかがだろうか。
文・鈴木 裕太(中小企業診断士)