配車アプリ「Grab」が時価総額4兆円超えに急成長 Uberに勝利した驚愕の理由とは?
(画像=Chinnapong/stock.adobe.com)

2021年4月、SPAC(特別買収目的会社)合併でNASDAQに上場を果たし、40億ドル(約4,316億5,618万円)を調達したシンガポールの大手配車アプリ「Grab(グラブ)」が、早くもシンガポール証券取引所へのセカンダリー上場を検討しているという。東南アジアの一スタートアップが設立からわずか10年足らずで、異例の急成長を遂げた原動力について探ってみよう。

ソフトバンクグループが出資する「Grab」とは?

Grabの歴史は、ハーバード・ビジネス・スクールの学友だったアンソニー・タン氏とタン・フイリン氏が、同校のビジネスプラン・コンペティションで準最優秀賞に選ばれたところから始まる。両者は2012年、獲得した賞金2万5,000ドル(約2億6,977万円)でGrab(当時はMyTeksi)を設立した。

東南アジア版「Uber(ウーバー)」として、瞬く間にネットワークを広げた。SPAC合併以前には、ソフトバンクグループ(SG)の総額26億6,000万ドル(約2,870億 4,876万円)の出資を含む総額121億ドル(約1兆3,177億円)を、数々の資金調達ラウンドで調達した。

コロナ禍でも順調に成長を続け、2020年のGMV(流通取引総額)は約125億ドル(約1兆3,489億円)と2018年の2倍以上を記録した。現在は、アジア8ヵ国500以上の都市で、配車やフードデリバリー、モバイル決済、保険など、複数のサービスを提供する「スーパーアプリ」へと成長を遂げている。

SPAC合併史上最大の取引き

過去数年にわたり、「東南アジアの急成長株」として注目を集めていたGrabの上場は、予想以上の反響を呼んだ。その理由は主に二つある。

反響を呼んだ理由、その1

一つ目は、通常の上場手段であるIPO(新規公開株)ではなく、SPAC合併として上場したことだ。SPACは買収を目的とする企業のことで、上場した時点では一切事業を行っていない。通常、2年以内に有望な他の企業(被買収企業)を買収あるいは合併する。SPACと被買収企業が合併することにより、被買収企業が存続企業=上場企業となる仕組みだ。

今回のケースでは、米Altimeter Capital(アルティメーター・キャピタル)がSPAC、Grabが被買収企業である。2020年のIPOで4億5,000万ドル(約485億6,015万円)を調達したAltimeter Capitalと合併したことにより、Grabは通常の上場手順を踏むことなく米上場企業の肩書を得たというわけだ。

反響を呼んだ理由 その2

二つ目は、SPAC合併史上最大の取引きとなったことだ。この中には、BlackRock(ブラックロック)やFidelity International(フィデリティ・インターナショナル)など大手資産運用企業による、総額40億ドル(約4,316億3,840万円)相当のPIPE(上場企業私募増資)が含まれる。Grabの企業価値は、2020年の2倍を上回る約396億ドル(約4兆2,731億円)へ上昇した。株式の保有比率は、SGが18.6%、Uber Technologiesが14.3%、中国配車アプリの滴滴出行が7.5%、トヨタ自動車が5.9%となる。タン氏は株式の3.3%だが、議決権の60.4%を保有する。

「超地域特化型アプローチ」でUberに勝利

異例の成功の原動力となったのは、超地域特化型アプローチを介して、強敵Uberと効果的に差別化を図ったことだ。

Grabがサービスを開始した翌年、すでに世界各地で成功を収めていたUberが、シンガポールを含む東南アジア市場に進出した。状況は新参者だったGrabに、圧倒的に不利なように見えた。しかし、Grabにとって有利だったのは、Uber にとって東南アジアが未知の市場であったのに対し、Grabは東南アジアの市場や文化、消費者マインドに精通していた点だ。

Grabはこの強みを活かし、超地域特化型アプローチを精力的に展開して行く。Uberのように、西洋の消費者の需要に合わせてカスタマイズされたサービスの代わりに、東南アジアの各国や地域の文化と価値観を重要視したサービスを打ち出した。地元の運転手を雇用し、徹底的に地元に焦点を当てたのだ。

決済法がその一例である。Uberは当初、カード決済のみ受け付けていた。しかし、東南アジアでは未だに現金ベースの国や地域も少なくない。早期にこの重要な事実を見抜いていたGrabは、サービス開始当初からアプリに現金支払い機能を採用していた。Uberがようやく現金決済を開始した2015年には、どちらが東南アジア市場の勝者かが明白だった。

もう一つの例は、バイクタクシーサービス「Grab bike」だ。東南アジアは混雑している道路が多い。Uberの配車が渋滞に巻き込まれている脇を、Grabのバイクタクシーがスイスイ通って行く光景は痛快ともいえる。両社の勝負は2018年、Uberが東南アジア事業をGrabに売却するという形で幕を閉じた。

シンガポール上場か?Grabのさらなる野望 

米上場の興奮冷めやらぬ今、同社がすでにシンガポール証券取引所へのセカンダリー上場を検討していることが、内部の事情に詳しい関係者の証言から明らかになっている。実現すれば、地元の投資家からさらなる資金を調達し、新たなネットワークを介してシンガポールのビジネス基盤を強化できる。折しもシンガポールは、ファミリーオフィスなど富裕層投資家の拠点として知られている。

その一方で、2020年のEBITDA(利息、税金、減価償却、および償却前の収益)と損失マージンが47%の赤字であることを理由に、モビリティ部門とデリバリー部門のマージン改善の必要性を指摘する声もある。Grab曰く、東南アジアは世界で最も急速に成長しているデジタル経済の1つであり、人口が米国の約2倍という無限の可能性を秘めた巨大市場だ。さらなる成長の原動力となるかどうか、今後の動向に注視したい。

文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)

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