食品産業新聞社
(画像=食品産業新聞社)

〈ワクチンによる免疫付与は8割程度、国・県・生産者が同じ方向を見て感染防止を〉
日本有数の養豚県の群馬で県内2例目となる豚熱(CSF)の患畜が2021年4月2日に確認された。国内での発生は、2018年9月に岐阜県で発生して以降64例目となる。県内では、2020年9月以来の発生となった。これまでの国内の殺処分対象は19万頭を超える。

岐阜での発生以降、野生イノシシ対策に取り組んできたが、2019年に入ってからは愛知県田原市の養豚団地での発生など、発生地域が岐阜・愛知に拡大した。以降は隣県に拡大する形で、関東圏にまで拡大した。農水省は2019年9月に飼養豚へのワクチン接種を決定し、防疫指針の改訂などを経て2019年10月末からワクチン接種を開始した。

ワクチン接種に関しては、2018年の発生時から養豚業界などから早期の接種を求める声が挙がっていたが、当時は感染地域が限定的だったこともあり、飼養衛生管理基準の遵守徹底による感染拡大防止を図っていた。

ワクチン接種が開始されて以降は、感染野生イノシシの確認地域の拡大もあり、順次ワクチン接種地域が拡大した。ワクチン接種開始以降も離島の沖縄で感染確認がされるなど、一定の拡大が続いたが、2020年4月以降は9月に群馬県で発生するまでは、感染を抑制できていた。

その後は12月に山形・三重で発生、2021年1月には和歌山でも確認され、3月末には奈良、4月には群馬県前橋市で確認された。2021年に発生した事例ではいずれも、豚舎に入る際の手指消毒の不徹底や、農場内豚移動時の消毒不備が指摘されている。

ワクチン接種開始以降は、ワクチン接種農場での発生となり、農場サイドからは「ワクチン接種をしているのに、なぜ発生するのか」などの声も聞かれるが、ワクチン接種による免疫付与率は8割程度であり、ワクチン接種により絶対に安心ということはない。ワクチン接種による付与率について、農水省は業界に対し、あくまでも農場における飼養衛生管理基準の遵守徹底が大前提であることを周知してきた。

子豚では母豚の免疫移行期間の関係もあり、適切な時期のワクチン接種が求められるため、ワクチンの空白期間が生まれる可能性があり、養豚県の群馬では全国に先立ち、初発が確認された2020年秋以降は、月2回の接種が可能な体制を構築していた。

従来は家畜防疫員のみに接種が認められていたが、2021年4月からは都道府県知事の認定を受けた獣医師によるワクチン接種が可能となった。

ワクチン接種体制が改善されたとはいえ、農場における飼養衛生管理基準の遵守徹底が最重要であることには変わりはなく、今後の拡大を防ぐためには、改めての飼養衛生管理基準の徹底が求められる。

農水省消費・安全局動物衛生課も、発生農場の疫学調査を公表するのは遵守徹底がなされていないことだけを指摘するではなく、「レベルが高いとされる農場であっても、何かしらの不備が明らかとなっており、自らの飼養衛生管理が問題ないかを確認してほしい」と飼養衛生管理を強調する。

ワクチン接種と飼養衛生管理を補完することで、不要な感染拡大は防げるはずだ。農水省を初めとした国や県の行政機関、養豚生産者が密に連携を取り、同じ方向を向いて感染拡大に取り組むことが期待される。

〈畜産日報2021年4月13日付〉