マーケターは消費者への恐怖アピールで損したくない気持ちを喚起させよ
(画像=YuriiKibalnik/stock.adobe.com)

商品の購入や投資の場面では、多くの人がある程度損得を基準に意思決定を下すだろう。今回紹介するプロスペクト理論は、そんな損得を基準にした意思決定の仕組みを説明する理論である。プロスペクト理論を理解して行動すれば以下のようなメリットを享受することが可能だ。

  • 投資で大損するリスクを軽減できる
  • より顧客の心理を踏まえた販促や広告宣伝が可能となる

そこで今回は、上記のメリットを得たい人に向けてプロスペクト理論の意味や具体例、マーケティングでの応用方法を解説する。

目次

  1. プロスペクト理論とは
    1. プロスペクト理論の概要
    2. プロスペクト理論の簡単な例
    3. コンコルド効果やフレーミング効果との違い
  2. プロスペクト理論から分かる心理傾向3つ
  3. プロスペクト理論をマーケティングで応用する方法3つ
  4. 対象の動き、心理を「プロスペクト」したマーケティングを

プロスペクト理論とは

はじめにプロスペクト理論がどのような理論であるかを具体例や類似する理論との違いを踏まえつつ解説していく。

プロスペクト理論の概要

プロスペクト理論とは、1979年に行動経済学者であるダニエル・カーネマン氏とエイモス・トベルスキー氏によって提唱された理論である。プロスペクト(prospect)とは「期待、見込み」という意味を持つ。単語の意味が表す通りプロスペクト理論は「不確実性を伴う状況において、ある事象が生じる確率やそこから得られる損得が分かっている場合にどのような意思決定を行うか」を表す理論だ。

行動経済学における代表的な理論であり各種の実験から得られた事実をもとに展開された点が特徴である。投資家の意思決定を現実的に説明した点や心理学やファイナンスを組み合わせた新しい経済学の分野であった点などから、プロスペクト理論を提唱したダニエル・カーネマン氏は2002年にノーベル経済学賞を受賞するに至った。

プロスペクト理論の簡単な例

より理解を深めるためにプロスペクト理論に関する有名な実験を使って考えてみよう。例えば以下2つの選択肢が提示された場合、あなたはどちらを選ぶだろうか?

(質問1)

  • A:何もせずに200万円を受け取れる
  • B:コインを投げて表が出たら400万円受け取れるが裏が出たら何も受け取れない

この場合、ほとんどの人は「確実に200万円受け取れるAの選択肢を選ぶ」といわれている。一方、現時点で400万円の借金を抱えている前提で以下の2つの選択肢が提示された場合はどちらを選ぶだろうか?

(質問2)

  • A:何もせずに200万円の借金が免除され残りの借金は200万円となる
  • B:コインを投げて表が出たら400万円の借金が免除されるが裏が出たら何も受け取れない

若干文言こそ変えているものの選択肢の内容は質問1とまったく変わらない。しかし「借金を抱えている」という前提がつくことで質問2では多くの人がBの選択肢を選ぶことになる。2つの質問で期待値はまったく同じ(200万円)であるにもかかわらず、どうして人々の意思決定は変わってしまうのだろうか。この非合理的な意思決定を説明するのがプロスペクト理論の核となる部分である。

コンコルド効果やフレーミング効果との違い

プロスペクト理論と同様にコンコルド効果やフレーミング効果も人々の行動心理を説明する理論だ。ただし厳密にはそれぞれに異なる行動心理を表すので注意を要する。

・コンコルド効果
このまま投資し続けると失敗すると分かっているにもかかわらずこれまで費やした時間や投資資金を取り返そうとして投資をやめられない心理的な傾向を意味することだ。事業が失敗しているにもかかわらず投資をやめられなかったことで有名な「コンコルド」という超音速旅客機に由来がある。

・フレーミング効果
物事を表現するフレーム(枠組み)を変えることで相手に与える印象が変わってくる効果を指す。例えば「成功率95%の手術」と「100人中5人が死亡する手術」は、どちらも成功率95%で同じであるにもかかわらず多くの人が前者の選択肢を選ぶといわれている。

プロスペクト理論から分かる心理傾向3つ

プロスペクト理論を読み解くと以下に挙げた3つの心理傾向が分かるといわれている。

1.人は「得すること」よりも「損すること」を過大評価する
プロスペクト理論に関する実験では「実際に得られる価値」と「主観的な価値」の関係性について横軸に「利益と損失(実際価値)」、縦軸に「満足と不満(主観価値)」を置いた価値関数で表す試みが行われた。その結果、利益を獲得した部分よりも損失をこうむった部分のほうが傾斜の大きなグラフとなることが判明した。

つまり同額であると仮定した場合、利益から得られるうれしさよりも損失からこうむる悲しみのほうが大きいということである。例えば10万円の利益を獲得した場合のうれしさが「+10」ならば10万円の損失をこうむったときの悲しみが「-20」といった感じになるイメージだ。

2.人は得している場面では安定志向、損している場面ではリスク志向になる傾向がある
前述した価値関数は、損益が±0の点を中心にS字カーブの形を示しており利益が出ている状態では緩やかな傾斜、損失をこうむっている場面では急な傾斜となっている。この性質から同額の利益を得た場合でも現時点で得している状態と損している状態で満足度の高まり方が以下の通り異なるのだ。

  • 得している状態:あまり満足度が高くならない
  • 損している状態:満足度が大きく上昇する

つまり得している場面ではリスクを負って大きな利益を獲得しようとはせず(安定志向)、損している場面ではリスクを負ってでも大きな利益を獲得しようとする(リスク志向)わけだ。上記の傾向があるゆえに前述の例で借金の有無によって多くの人が選ぶ選択肢が異なったのである。

3.利益や損失の金額が大きくなるほど、価値の変動は小さくなる
プロスペクト理論のS字カーブを見ると利益や損失の金額が大きくなるほど心理的な価値の変動が小さくなることも見て取れる。例えば借金がまったくない状態からいきなり100万円の借金を背負った場合、大半の人はかなりの悲しみやショックを受けるだろう。一方ですでに1億円の借金がある状態でさらに100万円の借金が増えてもすでに多額の借金を抱えているため、あまり悲しい感情を抱きにくい傾向だ。

逆も同様でまったく貯金がない状態で100万円を獲得するよりも、すでに1億円の貯金がある状態で100万円の現金を受け取るほうが満足度は低くなると考えられる。つまり持っている資金や負債が大きいほどお金の増減に対する感覚がまひしてしまうわけだ。莫大な負債を抱えてしまったり逆に多額の資産を持ったりしたときほど金銭感覚が狂わないように注意すべきである。

プロスペクト理論をマーケティングで応用する方法3つ

最後にプロスペクト理論をマーケティングで応用する方法を3つ紹介する。現在よりも効果的な販促施策や広告を行いたい人は必見だ。

1.フレーミング効果で与える印象を良くする
プロスペクト理論で応用する際には、前述したフレーミング効果が役に立つ。具体的には、顧客が良い印象を抱きやすいような商品・サービスの伝え方を実践すれば良いだけである。例えば顧客満足度が20%と低い商品を販売しなくてはならないとしよう。満足度が20%であることを真正面から伝えると品質や性能、サービスが悪いなどマイナスの印象を与えかねない。

一方で具体的な数字は提示せず20%の人たちが満足している様子をひたすらアピールすれば見込み客に対して良い印象を与えやすくなるだろう。もしくは、数字をあえて示したうえで「人によって良し悪しはあるものの相性が良ければ非常に満足してもらえる」といった形でアピールするのも良いかもしれない。商品・サービスを販売するときは、虚偽の説明とならない範囲で良い印象を与えるような伝え方を心がけよう。

2.恐怖アピールで「損したくない」という気持ちを喚起する
人は損することを過大評価するという性質を逆手に取り「損したくない」という気持ちを換気する手法も効果的だ。例えば資産運用を例にすると「資産運用をすれば資産を増やすことができる」など得することをアピールするより「資産運用をしないと老後の資金が足りなくなる可能性がある」などと損するリスクをアピールしたほうがより見込み客から商品やサービスを利用してもらいやすくなる。

上記のような「損すること」を全面的に伝える手法は、恐怖アピール(フィアアピール)と呼ばれている。あらゆる商品・サービスで活用できるため、ぜひ一度挑戦してみよう。ただしいたずらに恐怖をあおったり多用したりすると効果が軽減しかねない。最悪の場合は、悪徳商法に認定されるリスクがあるので注意しよう。

3.リスクリバーサルで不安を取り除く
マーケティングにおけるリスクリバーサルとは、顧客が抱える不安を売り手が肩代わりする手法である。ここまで解説した通りプロスペクト理論では「人は損失を避けたがる」ことが示されている。そのためリスクリバーサルによって「損失をこうむるのではないか」という顧客の不安を取り除けば商品やサービスを使ってもらえる可能性が高まるだろう。

リスクリバーサルの具体的なやり方としては、主に以下に挙げたものが有用である。

  • 無料期間を設ける
  • 返金保証を設ける
  • アフターサポートを充実させる

どの方法もあらゆるビジネスで一般的に用いられていることからもリスクリバーサルの有用性が理解できるだろう。ただし商品の性質や顧客の属性によって商品・サービスに抱える不安は変わってくる。リスクリバーサルを実践する際は、見込み客が何に対して不安を抱えているか明確にしたうえでその不安を的確に解消できる施策を実践することが重要だ。

対象の動き、心理を「プロスペクト」したマーケティングを

今回紹介したようにプロスペクト理論を学べば消費者や投資家が行う非合理的な意思決定の仕組みを解明できるようになる。特にマーケティングの分野では、理論を応用して優れたマーケティング施策を打ち出すことも可能だ。ぜひ今回紹介した内容を参考にプロスペクト理論を応用したマーケティングや投資を実践していただきたい。

文・鈴木 裕太(中小企業診断士)

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