コロナ禍により、多くの飲食店で売上が落ち込んでいる。薄利で商売をしていた店舗は、特に厳しい状況で、今後のためにも早めに利益率を高めたいところだ。利益率を高める手段としては「値上げ」があるが、値上げしても客数を落とさないためにはどうすれば良いのか。
コロナ禍で大ダメージを受けている飲食業界
新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、国や自治体は不要不急の外出を控えるよう人々に呼び掛け、地域によっては飲食店などに対して時短営業などを要請している。このようなことで経営に大きなダメージを受けているのが、レストランやバーなどを含む飲食業界だ。
外出自粛が広がるということは客数が減ることに直結し、時短営業によって売上をあげることができる時間も制限される。そうすれば当然、店舗の収支は悪化する。赤字が膨らむ前に、閉店を決めた店舗も全国で相当な数に上っている。
民間調査会社の東京商工リサーチによれば、新型コロナウイルス関連の経営破綻が最も多い業種は「飲食業」で、2021年2月15日時点で177件に上っている。全業種合わせた件数は1,014件で、コロナ倒産の実に約17%が飲食業界で起きているのだ。
一方、このように飲食業界に逆風が吹く中でも、そう簡単には赤字とならない店舗も少なからず存在する。利益率が非常に高い店舗だ。利益率が高い店舗の場合、少々来店客数が減っても、店舗の賃料や人件費などの固定費の負担感はそれほど大きくならない。
「値上げ=コスパの悪化」とならないためにできる3つのこと
利益率が高い店舗は、不況に強いことを前段で説明したが、利益率を高めるためにただ値上げをするだけでは、客は離れていく。当然だ。客にとっての「コストパフォーマンス」(コスパ)が悪くなるからである。
値上げしても客が離れない、もしくは客が増えていくためには、客側から見たコスパを強く意識した店舗改革を実行し、「値上げしたのに客から見たコスパは上がった」という状況を作り出すことが重要だ。ではその状況を作り出すためには、どのような店舗改革や取り組みを実行するべきなのだろうか。ここからは、どの店舗でも努力次第で可能な取り組みを3つ紹介する。
レシピの研究による味の改善は大前提の条件
客側から見たコスパに大きく影響するものの1つが、当然ではあるが「味」だ。この味の改善の努力が足りていない店は実は少なくない。開店前や閉店後、客が少ない時間帯にレシピの改善に努め、客に対してテストマーケティングを繰り返し、より客に美味しいと思ってもらえるよう励んでいる店舗は、どれくらいの割合であるだろうか。
特にいまは、コロナ禍で来店客が少ない状況だ。店舗の経営者はレシピの研究に使う時間が存分にある。そう考えればいまのこのコロナ禍の状況は、飲食店にとってはピンチでもあるがチャンスでもあるわけだ。
店舗での「感動体験」が客に価格を忘れさせる
世の中には2種類の飲食店がある。価格を気にされる飲食店と、価格を気にされない飲食店だ。後者の場合、客がそのレストランで食事をすること自体に大きな価値を感じているケースが多い。そして、そのようなレストランに共通しているのが「感動体験」だ。
この感動体験は「味」に起因するケースももちろん多いが、「店主の人柄」「従業員の接客」「店舗の清潔さ」なども重要な要素となる。これらの各要素をくまなくブラッシュアップしていくことで、客に感動を与えることができれば、料理の価格が少々高くても客には困らない。
店内の各要素を洗練させるためには、店主自らの努力だけではなく、従業員の意識改革も必要となる。それには従業員との信頼関係作りが非常に重要で、店主は日頃からの「従業員満足度」(ES)を意識する必要がある。
メニュー数を少なくし、仕入れコストや手間を抑える
利益率を高めるためには、「仕入れコスト」や「手間」などを極力抑える努力も欠かせない。そのためには、店舗で客に提供するメニュー数を少なくし、その数少ないメニューの味に徹底的にこだわる、というアプローチもあり得る。
メニュー数を減らせば仕入れる食材や調味料の種類が少なくなり、食材や調味料ごとの仕入れ量は逆に増える。食材ごとの仕入れ量が増えれば卸売店などで値引き交渉がしやすくなり、店側の仕入れコストを抑えることにつながる。
仕入れコストを減らす効果だけではなく、メニュー数を少なくするということは、それだけ各メニューのレシピ研究に充てる時間を増やせるということだ。つまり、メニュー数を少なくするということは、最初に紹介した「レシピの研究による味の改善」とシナジー効果がある。
値上げ成功に向けた「仕込み」が重要
このように、値上げを成功させるアプローチは複数あり、努力すればどの店でも実践可能な取り組みであると言える。コロナ禍で当面の売上減は免れないかもしれないが、値上げ成功に向けて「仕込み」はできる。アフターコロナを見据えて、いま努力するかどうかが、将来のそのレストランの成否に大きく影響してくる。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)