新型コロナウイルスの感染拡大防止に向け、日本で2度目に出された「緊急事態宣言」が、1カ月延長されることとなった。時短営業の協力店舗に対する1日一律6万円の支援金制度も継続されるが、この「一律」という枠組みが協力店に「天国」と「地獄」の状況を招いている。
「一律」が招いた「天国」と「地獄」
日本政府は2021年2月2日、2回目の緊急事態宣言を3月7日まで延長すると決定した。栃木県は対象から除かれたが、依然として10都府県(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・愛知県・岐阜県・大阪府・兵庫県・京都府・福岡県)においては、飲食店に午後8時までの時短営業を要請する。
この緊急事態宣言の延長に伴い、時短営業に協力した店舗に対して支給される「感染拡大防止協力金」の制度も継続されることになった。この協力金は時短要請に従った「店舗ごと」を対象に1日一律6万円が支給されるもので、営業実態がある店舗が対象となる。
しかし、国が店舗ごとに6万円を「一律」で支給する制度設計にしたことで、結果的に通常の営業日よりも収入が増える飲食店と、そうではない飲食店が出てきている。どういうことなのか。具体的に数字を用いて解説していこう。
個人店などにとっては「天国」
1日一律6万円の協力金で通常の営業日よりも収入が増える可能性がある飲食店は、個人で営業する小規模な食堂やバーなどだ。具体例を挙げて考えてみよう。
例えば、午後4時から深夜0時まで営業していた店舗が時短要請に応じて午後8時までを営業時間とし、結果として営業時間が8時間から4時間に短縮されたとする。そしてそのことにより、売上が半分になったとする。もし「1日の売上が平均6万円の店舗」であれば売上が1日3万円程度に減るが、この減った売上に支給金の6万円を足すと9万円となり、通常時より3万円収入が増えることになる。
「1日の売上が平均8万円の店舗」が営業時間の短縮によって売上が半分になったケースでも、通常時よりも収入が増えることになる。半分になった売上の4万円に支給金の6万円を足すと10万円となり、通常時の売上8万円よりも1日当たり2万円収入が増えることになる。
しかもこれはある1日に限った話ではなく、延長された対象期間の3月7日まで続く。つまり、前者のケースでは1日3万円、後者のケースでは1日2万円ずつ、増収分が積み重なっていき、まさに「天国」のような状況であると言えよう。
大手チェーンなどにとっては「地獄」
一方で、1店舗の規模が大きい大手飲食チェーンなどの場合は、1日一律で支給される6万円という金額は、雀の涙ほどの助けにしかならないケースが多い。こちらも具体例を挙げて考えてみよう。
「1日の売上が平均100万円の店舗」の売上が、時短営業によって50万円に減ったとする。このケースでは、50万円の売上に6万円を足しても56万円にしかならず、1日当たり44万円の減収となってしまう。
しかも前述の通り、これはある1日に限る話ではないため、減収額は毎日積み重なっていき、例えば30日間合計の減収額は1,320万円にも上る。もし、同じ平均売上の店舗を10店舗営業している飲食チェーンなら、全店での減収額は30日間で1億3,200万円まで膨らむ。
このように、「一律6万円」という仕組みでの協力金は、小規模な個人店などにとっては「天国」だが、大手チェーンなどにとっては「地獄」であるわけだ。
しかも、大手チェーンは家賃コストや人件費などの負担が個人経営の店舗より大きい上、低い利益率で営業しているケースも多い。そのため、時短営業による売上減少が経営に与えるインパクトは非常に大きい。
集団訴訟の可能性を指摘する弁護士も
このような状況に、大手チェーンからは不満が続出している状況だ。いまの状況が改善されなければ、国を相手取った「集団訴訟」が大手チェーンなどによって起こされる可能性があると指摘する弁護士もいる。
しかも、今回の2度目の緊急事態宣言は1度目とは異なり、時短要請に従わなかった店舗は店名が公表される可能性があり、実際に公表された場合は、さらに大手チェーンなどの不満が大きくなるはずだ。
いまはまだ集団訴訟に関する具体的な動きは見えてこないが、新型コロナウイルスの収束が長引き、さらに緊急事態宣言が再延長される事態になれば、大手飲食チェーンなどが具体的に訴訟に向けて動き出す可能性が大きくなる。
ちなみに東京都は、当初は大手チェーンなどの大企業は時短要請に応じても協力金支給の対象として含めていなかった。現在はすでに対象に含まれているものの、大手チェーンの反感を高めることにつながった。
事業規模に応じた支給金を求める声も
今回紹介した天国と地獄は、「一律」という制度設計によって起こった事態だ。事業規模に応じた支給金を求める声が大手事業者からは高まっているが、いまはまだ国からはその声に応じようという動きがみられない。コロナ禍が収束する前に、大手チェーンによる集団訴訟が起こされる可能性は、決して低くなさそうだ。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)
※一部内容を2021/2/15(月)10:46に修正いたしました。