肥後銀行 法人営業部 コンサルティング室 推進役代理 中園 浩輝氏
肥後銀行 法人営業部 コンサルティング室 推進役代理 中園 浩輝氏

日本M&Aセンターが行うM&A大学。
その卒業生として最前線で活躍するOB・OGバンカーにインタビューする企画の第4弾。
肥後銀行 法人営業部 コンサルティング室 推進役代理 中園 浩輝氏にインタビューした。

M&A大学とは
日本M&Aセンターが協業する地域金融機関に向けて行う、研修・出向制度。M&A大学入学者(地銀からの出向者)はM&Aシニアエキスパート研修(JMAC)、評価・概要書研修などの座学と日本M&AセンターとのコンサルタントによるOJTなどを経て、自ら顧客への提案からM&Aの成約、契約の締結までを完結できるM&Aコンサルタントとなることを目指す。

M&Aと向き合ってみてわかったこと

――中園さんは入行当時から本部勤務だったのですか。

中園:入行後4年間は営業店で勤務していました。現在は法人営業部にてM&Aを担当していますが、本部に来た当時は法人営業部の前身である事業開発部で不動産担当をしていました。
もともと宅地建物取引士(宅建)の資格を持っていたため、不動産担当として事業開発部で1年ほど勤務したときに、上司から「次は何の業務をやりたいのか」と聞かれたので、「M&Aをやりたいです」と手を上げました。

ちょうど当行で初めて、日本M&Aセンターさんに出向を出すというタイミングでした。
「若手の子を出したいから誰かいい奴いないか」と上司から聞かれたので、私自身が申し出て出向させてもらったんです。

――では、M&Aに関して知識的には初歩の方から入っていったわけですね。

中園:はい、全然知識のないところからです。

――実際日本M&Aセンターへ出向してみてどうでしたか。

中園:非常に良かったです。もう1回出向したいぐらいですね。

――何が良かったですか。

中園:皆さんいい人ばかりで熱心に教えてもらいました。社風が素晴らしいです。法務や財務、税務等様々なことを勉強しましたし、「M&Aは人の役に立つ仕事なんだ」と、はっきりと思えるようになったのは、日本M&Aセンターさんのお陰です。

ここ最近、M&Aというものが浸透してきて、請け負う案件も増えてきて、ご相談も沢山いただくようになりました。このように中堅・中小企業にM&Aが浸透したのは、日本M&Aセンターさんの功績が大きいとお世辞でなく思います。

地域活性化に力を入れている肥後銀行

東京ミネルヴァ,破産
肥後銀行 2015年に完成した新本店

――肥後銀行さんは、地域産業の活性化のため農業の分野にも力を入れていると伺ったのですが。

中園:熊本県内を15ブロックに分けており、各ブロックに1人ずつ農業アドバイザーを配置して、農業分野への支援にも力を入れています。

また、熊本県としても農業に力を入れており、県の元農林水産部長や農業大学校の元校長に当行に来ていただき、行員の農業知識向上に尽力してもらったり、お客様へ直接的な支援も行っていただいています。

――それから、肥後銀行さんは自社で水田を持っているそうですね。

中園:公益財団法人 肥後の水とみどりの愛護基金にて、耕作放棄地の解消と水田による水源涵養を目的とし、阿蘇市と水田湛水事業に関する協定を締結しました。締結した棚田を「阿蘇水掛の棚田」と命名し、毎年当行の行員も阿蘇の水田で田植えや稲刈りを行なっています。

――行員の皆さんも田植えなどをするんですね。

中園:はい。田植えや稲刈りの日には、行員や家族を中心に、地元の人たちと1,000人弱ぐらいの規模で行います。収穫されたお米は、行員や関係者の皆さんに配布され、おいしく頂いています。

――肥後銀行さんは、いろいろなことに投資しているというか、地域のためにお金を使っている感じがしますがいかがでしょうか。

中園:そうですね。「お客様や地域に徹底的に役に立ち、地域の価値を高める」というのが当行の目標です。地方銀行なので地域に密着した経営を行っていますし、水田作りなどのボランティアもそうですが、「株式会社 くまもとDMC」という地域商社を設立し、観光資源を生かすための企画も行っています。

また、当行がファンドを通じて出資をし、海外で飲食店を運営などしています。香港で「櫓杏(ろあん)」という名称で飲食店を出店していますが、この店は、熊本の食材を海外に輸出するためのアンテナショップにしたいという考えのもと行っているものです。

現在の地方銀行に期待される役割は金融だけではありません。地域に密着して地域を盛り上げていくことが、地方銀行自身の発展にも繋がると考えています。

苦しい時に地域に尽くすのも地銀の使命

――熊本県といえば、地震や豪雨の被害の話題は避けて通れないと思いますが、そういったことに関して銀行での取り組みがあれば教えていただけますか。

中園:熊本地震のときは、法人、個人に関わらず、すべてのお客様のもとに足を運んで、融資のご支援はもちろん、融資以外のご支援や相談も承りました。また、復興のサポートとしてM&Aなど、事業所向けのご支援もさせていただきました。

令和2年7月豪雨により、人吉市と球磨村を流れる球磨川が氾濫し水害が発生しましたが、そのときも、お客様の所に足を運び、災害ボランティアを行いました。

私自身、約1か月間、平日週3日被災地に足を運び、ボランティア活動を行っていたので、7月中は通常業務をかなりセーブしていました。

人吉市は当行本部から車で1時間ぐらいの距離なのですが、朝7時にジャージを着て本店に集合し、被災地に向かい、スコップ持ってお客様の会社や自宅の泥の掻き出しなどを行いました。 旅館の中に泥が入っていて、作業前はこのような感じです。

これが(写真を見ながら)旅館の客室です。1日かけて10人ぐらい清掃を行い、出来上がりはこのような感じです。泥を掻き出して、畳を全部剥がしましたね。

――それは御行のお客様だから、ということですか。

中園:全くお取引のないお客様の支援もしました。高齢のご夫婦で営んでいる理髪店など、「力作業は難しく、誰も手伝ってくれる人もいないから」という話を聞いたのでお手伝いに行きました。当行との取引がないお客様でしたが、そんなことは関係なく、泥掻きや大型ゴミの搬出などの手伝いをしました。「地域のために」という気持ちです。

――あとは、これも一種の災害のようなものですが、新型コロナウィルスの影響も伺いたいと思います。熊本県下での影響は、銀行員としてどう感じられていますか。

中園:コロナの影響は少なからずあると思います。熊本には、阿蘇や天草などの観光地もありますので観光産業は大変ですし、飲食店は相当被害を受けていると思います。

――M&Aに関してはいかがでしょうか。

中園:資金的な面は手厚く支援をさせてもらっているので、資金繰りが悪化して会社を譲渡したいという相談は殆どないですね。

ただ、今回のコロナで業績が悪化したのではなく、もともと後継者がいないお客様が、「このままの体制では、いつまでも続けられない。経営のリスクは多種多様で、災害などのときにも耐えられる資本力をもって、従業員を守っていくことが重要だよね。」という話をされ、これからは地方でも資本力のあるグループに入りたい、という話は多くなったように感じます。

熊本に浸透してきたM&Aへの意識

――M&Aについてのイメージは、中園さんが6年前に出向したとき比べて、熊本では今、いかがでしょうか。

中園:6年前は、M&Aというと否定的な考えを持たれる方も多かったのですが、現在は、お客様においてもM&Aは大事な経営戦略の一つとして強く認識されています。以前と比べ、M&Aという手法が、一般的になってきたように感じています。

このようにお客様のM&Aに対するイメージが変化してきたのも、日本M&Aセンターさんの功績が大きいと私は思っています。毎年、九州各県でお客様向けのセミナーを複数回開催していただき、熊本のお客様も、M&Aについての基本的な知識やM&Aを行うにあたっての心構えができているような実感があります。

昨日も1件、初回の譲渡相談を受けましたが、お客様は面談早々私に「会社を売ります」と話されました。

以前は、後継者がおらず、解決策がM&Aしかないと感じていながらも、決断に躊躇されているお客様が多くいらっしゃいました。しかし、このお客様のように、ご自身でM&Aというものを経営判断の一つだと決断した上で、当行にアドバイスを求められる方も相当数増えています。

――お客様の理解が深まってきているということですね。

中園:はい。確実にお客様の理解は深まっていると思います。
現在、熊本県内の約5割の企業で後継者がいないという統計が出ています。お客様の理解は深まり、以前よりも相談が増えてきたことは事実ですが、この統計上の数値から見ると、M&Aによる支援はもっと必要であると感じています。

現在はM&Aを成約したお客様が「銀行に相談して、M&Aをやって良かったよ」という話を知人に話されて、当行に相談をいただくことはありました。

しかし、今のままでは、人的ネットワークの中でしか話が広まりませんので、今後は積極的にPR活動をしていき、地方全体でM&A・事業承継について盛り上げていくことが必要であると感じています。

――今後、日本M&Aセンターが皆様の期待に応えられることは何か、今までの業務以外に我々が提供できるものは何か、ヒントがあれば教えていただきたいのですが。

中園:地方においてM&Aのムーブメントを作る試みは、銀行だけでは難しいと思います。2020年11月に滋賀銀行さんと一緒に「事業承継・M&Aカンファレンス」を開催されたと思いますが、これも日本M&Aセンターさんの力があるからこそ、このような大規模なカンファレンスが開催できたのだと思います。

現在、日本M&Aセンターさんは日本各地でそのような環境作りにご尽力されていると思いますが、このように地域全体を盛り上げるような企画があれば、更にM&Aは浸透していくのではないかと思います。

今後もM&Aによる後継者不在企業の支援と地域活性化のために、地域全体を盛り上げるような企画を日本M&Aセンターさんと一緒に行っていきたいですね。