企業活動において重要な営業であるが、営業にもさまざまな種類や方法がある。また、IT技術の向上により、営業方法も進化し続けている。今回は、営業の種類に関して、4つの切り口に焦点を当てて説明する。営業の種類とその特徴を把握し、自社の事業形態に適した営業活動を選択して欲しい。
目次
営業の種類は切り口で変わる
一口に「営業」といってもさまざまな種類がある。特定の顧客を対象としたルート営業や、新規開拓営業などの営業方法の括りもあれば、法人営業や商社営業、メーカー営業などといった括りもあるだろう。
今回は、以下の4つの切り口から営業の種類について解説していく。
(1)顧客の対象の違い
(2)扱う商材の違い
(3)企業形態の違い
(4)展開方法の違い
営業の種類1:顧客の対象の違いによる営業の特徴
顧客の対象が法人か個人かで、営業の特徴は次のように分類できる。
法人営業
法人向けの営業であり、BtoB(Business to Business)とも呼ばれる。コンサルティング業やメーカー、物流、一部の人材派遣・紹介業などが該当する。
法人営業は、個人営業よりも販売するモノやサービスが高額になるため、高い利益を生みやすい。セールスパーソンにとっても、高い報酬を得やすいという長所がある。
しかし、直接的に営業活動を行った相手が好反応だったとしても、成約につながるとは限らない。法人を対象とした営業では、提案先の相手と決裁者が異なることがよくあるからだ。そのため、法人営業では契約の成立がわかるまでに時間がかかる。
法人営業で成功するためには、提案した相手が最終決裁者にも魅力を伝えられるかどうかも重要である。そのため、顧客の社内の仕組みをある程度把握するだけでなく、ビジネスマナーや論理的に相手を説得する思考能力、プレゼンテーション能力が重要になる。
個人営業
営業先が個人を対象とした営業方法であり、BtoC(Business to Consumer)とも呼ばれる。アパレルや旅行代理店、不動産の賃貸・売買、保険や車の販売が具体的な例として挙げられるだろう。
個人が顧客だと、意思決定が早いので成果の有無が分かりやすい。法人と違って、「目の前の顧客=最終決裁者」だからだ。
ただし、不動産や車のような「高い買い物」は直接生活に影響を与えるため、短期間で多数の契約を成立させるのは難しい。また、個人顧客は一般的に最終決裁者でもあるが、営業先が夫婦や家族、親子など複数の場合は例外だ。住宅の決済・名義人が夫でも、妻からNGが出れば成約に至らないこともある。
個人営業では、相手のニーズや価値観だけでなく、家族構成や契約の最終決定者を知っておくことが必要だ。また、個人営業で成約させるには法人営業以上に人間力の勝負となるため、「ぜひこの人から買いたい」と思ってもらうことが重要だ。
営業の種類2:扱う商材の営業の違いによる営業の特徴
扱う対象が有形商材か無形商材かで、営業の特徴は次のように異なる。
有形商材の営業
有形商材は、目に見えるモノや形があるモノ、実際に触れることができるようなモノだ。小売業や量販店などで扱う飲食料品や文房具、家具、機械、薬などが挙げられる。実際に目で見て確認できるという点では、建物や土地といった不動産も有形商材に含められるだろう。
有形商材の営業の長所は「誰でも売りやすい」という点だ。人は実際に目で見て使ってみてから、「これはいい!」と思ったものを購入する傾向にあるため、営業する際にも提案しやすいし、扱う商材にブランド力があればさらに売りやすくなる。
有形商材は、売りやすいというメリットがある反面、営業成績が顧客と商材に縛られやすいという短所がある。商材の質が悪ければそもそも売れないし、いくら商材の機能がよくても相手の好みに合わなければ買ってもらえないだろう。有形商材が売れるか売れないかは、商材のアピールポイント次第だと言える。
セールスパーソンにとっては、商材に関する深い知識や説明するプレゼンテーション能力が営業の武器となる。
無形商材の営業
無形商材は、目に見えないモノやサービスのことである。コンサルティングや広告、保守サービスや保険、ソフトウェアやアプリなどが無形商材の代表格だ。この他、人材や金融商品も無形商材に該当する。
無形商材の営業は「言い方次第」で、相手にうまくセールスを行うことができる。商材そのものは見たり触れたりすることができないので、相手は商材の善し悪しを直接判断しにくく、商材の性質や効果を分かりやすく丁寧に伝えることができれば購入につなげられるだろう。
無形商材には、見えないモノである以上売りづらいという短所がある。人は体感で確かめられない商品に心を動かされにくいため、売手から見た商材の長所・短所や特徴を伝えただけでは相手の「買いたい!」という欲求を高めることが難しい。
無形商材の営業を行う際には、購買意欲をかき立てる前に、まずは相手の悩みや困り事を丁寧にヒアリングすることが必要だ。そして、問題や悩みの解決に商材がどう役立つかを伝え、ニーズにつなげる姿勢が営業のコツとなる。
営業の種類3:企業形態の違いによる営業の特徴
営業する側の企業の形態も、営業を分類する一つの切り口となる。「メーカー」「商社」「代理店」で営業の特徴は次のように異なる。
メーカー営業
メーカー営業は、電機メーカーや化粧品メーカーなど、自社が開発した製品を販売する営業だ。また、メーカー営業には「家電は量販店に売ってもらう」といったように、代理店営業・商社営業も含まれる。
商材にもっとも近い立場による営業なので、商品・製品の知識は欠かせない。また、代理店や商社に情報提供を行うことが重要であり、代理店などが対応できないならばメーカーも営業に同行することがある。
また、代理店や商社が営業で得たユーザーのニーズを、拾い上げることも大切だ。得られた情報を自社の研究・開発部隊に伝えれば、新たな商品・製品の開発につながるであろう。
メーカー営業は、テレアポや飛び込み営業は少なく、土日も休みを取りやすい。有形商材を扱うので営業のハードルは比較的低いだろうが、それなりのブランド力や販売チャネルのあるメーカーに限られる話だ。知名度の低いメーカーが、一から自分たちで商品・製品の開発を行って販売するならば、泥臭さや土日返上での営業活動も必要となるだろう。
商社営業
商社営業は、メーカーが開発した商品・製品を集めて、取引先の要望とマッチングの高い商材を提案していくものだ。メーカーから大量に安く商材を仕入れて利益を乗せて販売するため、大量に売りさばけば、その分商社の利益も高くなる。
メーカーよりも顧客に近い立場なので、顧客の課題や問題を解決できる商材の提案を、いかにできるかが成約の秘訣となる。また、幅広い商品・製品を取り扱うので、知識よりも顧客リストの多さや顧客との折衝力や段取り力、人間的な魅力が問われることとなる。
商社営業は1つの商品・製品に集中して売り込むのではなく、幅広い商材の中から顧客に見合ったものを提案していく。顧客の問題解決をしたい人、相手に寄り添うのが得意なセールスパーソン向けだろう。
代理店営業
代理店営業は、商社営業と同じくメーカーやサービスの開発元の代わりにモノ・サービスを提案していく営業だ。メーカーやサービスの開発元と契約を結び、成約に応じて「手数料」という形で販売インセンティブを受け取る。取り扱う商材には、保険・不動産などもある。
代理店になればいつでも営業を開始できるので、個人でも着手しやすい。代理店営業は、商社と同じく交渉力も問われるが、商材の知識と人間力がより成否を左右する。
営業の種類4:展開方法の違いによる営業の特徴
続いて、展開方法別の営業の特徴について解説する。
新規開拓営業
新規開拓営業は、新たに顧客を開拓して提案を行っていく営業だ。人材紹介・派遣、投資用不動産、ITのソフトウェアなどの業界に多く、営業スタイルとしては、テレアポや飛び込み営業などがある。
新規開拓で一番重要なのが「とにかく顧客数を増やすこと」であり、「相手のニーズを引き出すこと」が成約には必要だ。
ニーズがあるか分からないところに飛び込んでいかなくてはならない。営業先の顧客は自社が提案するモノ・サービスに興味がないのが前提であるため、相手との会話から価値観や現状を聞き、そこからニーズを引き出す必要がある。この時、商品の良さをニーズに合わせて説明していくのだ。
新規開拓営業には、気力・体力・忍耐力や観察力、もちろん会話力も必要となる。相手のニーズに合わせて商品のメリットを伝える以上、商品知識も必須だ。成約数が自分の報酬に直結するので、上昇志向の強い人に向いている。
新規開拓営業は、見方を変えれば「自分の好きなところにアプローチできる」ため、決まった営業先と相性が合わない時のような苦しさがない点はメリットであろう。
ルート営業
ルート営業とは、既に契約してある顧客に対して、再提案やフォローを行っていく営業だ。ルート営業は一見必要なさそうに見えるが、企業が安定的な収入を得るには非常に重要である。
例えば商材が会計ソフトだったとする。営業がうまく行って購入につながったとしても、その後のフォローしていなければどうなるだろうか。他社からより良い製品が紹介されれば、他社品に切り替えられてしまうかもしれない。また、自社製品の機能に不満を感じて、顧客自ら他社製品を購入してしまうかもしれない。
ルート営業は新規開拓のようなテレアポや飛び込みはないが、定期的に顧客を訪問して困り事やニーズを聞き、それを解決していく。些細なことだが、これが信頼関係の維持と強化につながり、自社製品や商品を使いつづけてもらう秘訣となる。
ルート営業は、断られるストレスがない点では新規開拓よりも着手しやすいが、営業先との関係を維持するために、接待を行うこともある。コツコツと業務をこなすタイプや、相手の話を親身に聞いて誠実な対応ができる人には、ルート営業が向いているだろう。
反響営業
反響営業とは、自社の広告等に反応した未契約の顧客に対し、モノ・サービスを提案していくものだ。ウェブサイト上に賃貸や分譲の情報を乗せている不動産仲介業や、資料請求をした顧客に電話やメールを送るIT企業などに多い。
新規営業と違い、潜在的なニーズのある顧客を相手に営業をするので成約しやすい。しかし、相手のニーズに合わせた提案ができないと成約が得られ難いため、顧客が商品やサービスに何を求めているのかを細かく知ることが重要だ。
ルート営業と同様に、飛び込みやテレアポのようなストレスはないので未経験者でも取り組み易く、新規顧客との出会いになるのでたくさんの人と関わることができる。その反面、反応した顧客との相性が合わなければ、ルート営業と同じようなストレスを抱える可能性もある。
反響営業は、ルート営業と同様に傾聴力や誠実さが必要となる。さらに、相手のニーズを的確に聞き出して、それに合わせた提案ができる能力も必要だ。
状況に合わせてベストな営業をしよう
営業の種類について解説してきたが、いかがだったであろうか。これまでは、営業の種類はいくつかあっても営業手段が限られていたが、IT技術の向上で営業手法も進化している。営業の打合せも、かつては対面前提であったが、コロナ禍以後はオンライン会議での営業も増えていくかもしれない。つまり、営業の仕方はいろいろ選べるのだ。
ただ、それでも何がベストな営業方法かは営業する自分自身とモノ・サービスによって分かれる。自社の状況や今後のビジョンに合わせて、無理なく続けられる方法で営業するのが肝心だ。
文・鈴木まゆ子(税理士・税務ライター)