レピュテーションリスク
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鈴木 まゆ子
鈴木 まゆ子(すずき・まゆこ)
税理士・税務ライター。税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU online」「マネーの達人」「朝日新聞『相続会議』」などWEBで税務・会計・お金に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著)」。

会社に対する評判は、経営に追い風になる事もあれば、逆に倒産に追い込まれる事態を招く事もある。そのような評判による企業のリスクを、レピュテーションリスクという。ここでは、レピュテーションリスクの意味や発生原因、レピュテーションリスクの事例を交えて対応策も説明する。

目次

  1. レピュテーションリスクとは
    1. レピュテーションリスクの背景
  2. レピュテーションリスクで経営危機に陥った3つの事例
    1. 事例1:アルバイトの不衛生な行動でフランチャイズ店が倒産
    2. 事例2:情報漏洩でベネッセコーポレーションが巨額赤字を計上
    3. 事例3:産地偽装で売上低迷
  3. レピュテーションリスクが起こる3つの原因
    1. 1.企業の法令違反
    2. 2.社員の不祥事
    3. 3.一般消費者による評判
  4. レピュテーションリスクの顕在化による3つの損失
    1. 1.企業価値・収益の損失
    2. 2.信頼回復のためのコスト増大による損失
    3. 3.行政手続きによる損失
  5. レピュテーションリスクを防ぐ4つの対策
    1. 1.積極的な情報発信
    2. 2.従業員教育
    3. 3.企業・人物調査
    4. 4.ネット情報の管理
  6. レピュテーションリスクの2つの測定方法
    1. 1.報道調査
    2. 2.アンケート調査
  7. レピュテーションリスクへの対策はしっかりと

レピュテーションリスクとは

レピュテーションリスクとは、一言で表すと「評判リスク」だ。レピュテーションそのものは「評判」「評価」のことであり、否定的なものだけでなく肯定的なものも含む。

企業経営におけるレピュテーションリスクとは、悪評や風評の拡大によって企業評価が下がり、経営に支障が出る危険性を指す。後述する事例を見ると分かるが、レピュテーションリスクの顕在化は、企業を存続の危機に陥らせる。

レピュテーションリスクの背景

かつては、レピュテーションリスクは企業価値を左右するような要素ではなかった。企業価値は、売上高や利益、ROA(Return On Assets:総資本利益率)といった財務指標で測られるものであった。しかし、経済の成熟化に伴って企業判断の価値観が多様化し、「目に見えない数値化しにくい要素」も経営を左右するようになったため、企業はレピュテーションリスクを意識せざるを得なくなったのだ。

1990年代から特許権などの知的財産やブランド、人材といった無形財産の役割が企業の損益を左右するようになり、会計上も重視するようになった。加えて、同時期から企業の相次ぐ不祥事や反社会的な企業の商品・サービスの不買運動などから、利益さえ出せばよいだけだった企業に対し社会的・倫理的側面を重視した経営の遂行が求められるようになった。

実際、新しい指標として評価会社によるCSR(社会的責任)格付けや学生の就職人気ランキング評価などが登場した。このような中で、ステークホルダーからの認知やイメージといった形で現れるレピュテーションリスクも、企業経営の重要な指標として扱われるようになった。

経済産業省「2003年事業リスク評価・管理人材育成システム開発事業」では、レピュテーションリスクは11あるリスクの内、技術・製品要因リスク・市場リスク・信用リスク・情報システムリスクに次いで5番目に重要なリスクと認識されている。

なお、1990年代後半からレピュテーションリスクが重視されるようになったが、それでもまだ大企業や上場企業の問題にとどまっていた。しかし昨今は、SNSやネットの掲示板の普及から、ネガティブな評価や評判は瞬時に拡大するようになった。今や中小企業にとってもレピュテーションリスクは無視できない重要な要素なのである。

レピュテーションリスクで経営危機に陥った3つの事例

レピュテーションリスクなどの影響に限らず、企業の評価が下がると、業績が下がるだけでなく企業の信用やブランド価値も下がって販売不振などを招き、結果として資金繰りが困難になる可能性もある。最悪、事業の縮小や倒産に追い込まれることになりかねない。

ここでは、レピュテーションリスクによる企業評価の低下によって、経営難に陥った事例を3つ紹介する。

事例1:アルバイトの不衛生な行動でフランチャイズ店が倒産

2013年8月、宅配ピザ「ピザーラ」のフランチャイズ契約店で、アルバイト店員が厨房の冷蔵庫に身体を入れるなどの不衛生な悪ふざけをした画像をネットに投稿して騒動となった。この件に関して、ピザーラ事業の運営本部が謝罪文を発表したが信用は回復せず、2015年10月に事業停止となって破産に追い込まれた。

事例2:情報漏洩でベネッセコーポレーションが巨額赤字を計上

「進研ゼミ」や「こどもちゃれんじ」で知られるベネッセコーポレーションでは、2014年6月に3,500万件超の顧客情報が流出した。関連会社であるシステム会社の派遣社員が、システム開発業務に従事している立場を利用して、名簿業者に情報を転売したことで、意図的に個人情報を流出させた。この結果、取締役2人が引責辞任しただけでなく、顧客離れによって同社は経営赤字に陥った。

事例3:産地偽装で売上低迷

2018年、居酒屋チェーン「塚田農場」を展開するエー・ピーカンパニー(現エー・ピーホールディングス)が、看板メニューである鶏の産地を偽装表示していたことが明らかになった。

同社では、使用する鶏肉を宮崎地鶏であるとしていたが、実際には一部にタイ産のブロイラー(若鷄)が使われていた。メニューや店内POP、ホームページ等には地鶏一筋と表記しており、ブロイラーを使用する表示は一切行っていなかった。消費者庁から「景品表示法違反(優良誤認)」という指摘を受け、900万円超の課徴金を支払うこととなった。

レピュテーションリスクが起こる3つの原因

レピュテーションリスクの事例を見ると分かるように、一見小さな出来事も経営破綻の要因になってしまう。ここでは、レピュテーションリスクが生じる原因を3つ説明する。

1.企業の法令違反

レピュテーションリスクが起こる原因の1つ目は、企業そのものがコンプライアンスを遵守していないことにある。

ベネッセの個人情報流出事件の他、2015年に発覚した東芝不正会計事件や同年の電通社員過労死事件のように、企業そのものが本来守るべき会計・税務・労務上の法令に違反していることが発覚すれば、企業イメージは悪くなるだろう。さらに、産地偽装や違法建築、違法契約などの重大事実も明るみに出れば、信用は失墜してしまう。

仮に事件として明るみに出なくとも、労働基準法違反などがあった場合、従業員が辞めた後にSNSやネット掲示板で悪評を広める恐れがある。「ニュースにならないから問題ない」「行政機関から指摘されないから大丈夫」ではないのだ。

2.社員の不祥事

レピュテーションリスクが発生する2つ目の原因は、社員の不祥事だ。不祥事を起こしたのが正社員ではなくアルバイトや派遣社員であっても、一旦不祥事が起これば、雇用主である企業の責任が問われることとなる。

社員の不祥事は、顧客情報の流出といった社外を対象としたものにとどまらない。社内のパワハラやセクハラといった不祥事も、レピュテーションリスクになりうる。

3.一般消費者による評判

SNSの普及もあり、「あのお店の対応が最悪だった」「ここの受付は冷たい」「返品の対応が遅い」といった評判は、TwitterやFacebook、Instagramでたちどころに悪評として拡散される。社外・社内のコンプライアンスを徹底していたとしても、エンドユーザーとの関わり方が不適当ならば、これもレピュテーションリスクにつながる可能性がある。

レピュテーションリスクの顕在化による3つの損失

実際にレピュテーションリスクが顕在化すると、次のような3つの損失を被ることになる。

1.企業価値・収益の損失

レピュテーションリスクによる損失の1つ目は、企業価値や収益の損失だ。

アルバイトが不祥事を起こしたピザーラのフランチャイズ店は信頼を損なって倒産に追い込まれた。ベネッセも個人情報の流出が顧客離れを起こし、多額の赤字を抱えてしまった。たかが評判の毀損だが、その評判を元に消費者や取引先はサービスの利用継続の判断をするのだ。

2.信頼回復のためのコスト増大による損失

レピュテーションリスクが顕在化するときは、何らかの不祥事や不始末が起こることが多い。そのため、多額の損害賠償を抱えることにもなりかねない。また、その後の信頼回復に向けて、広告宣伝やコンプライアンス遵守のための専門家報酬などにもコストが掛かることになる。

3.行政手続きによる損失

レピュテーションリスクの元となる事実によって、刑事罰や業務停止命令、免許停止といった行政処分の対象となることがある。消費者は刑事罰や行政処分に対して敏感なので、一度このような法的処分の対象となると、信頼回復には時間がかかってしまう。その時間の分だけ損してしまうのだ。

レピュテーションリスクを防ぐ4つの対策

レピュテーションリスクは評判悪化による損失を定量化しにくいため、保険の補償対象となりにくい。結果的に、レピュテーションリスクからは、企業自ら守るしかない。ただ、残念ながら評判悪化によるリスクはゼロにはならない。

しかし、次の4つに留意すれば、レピュテーションリスクを最小限に抑えることができる。

1.積極的な情報発信

レピュテーションリスクを防ぐ方策の1つ目は、積極的な情報発信だ。企業が積極的に情報開示や自社の考えを明らかにしていれば、レピュテーションリスクを抑えることができる。

SNSでは、日常的に一般人がモノやサービスに対してさまざまな評価を行っている。適正な評価もあるだろうが、中には誤解や個人的な感情によるものもあるだろう。

レピュテーションリスクに晒されている企業が、この時点で何も情報発信しなければ、他の消費者は一般消費者による評価やコメントに頼るしかない。しかし、企業が情報発信していれば、消費者によっては「SNSの情報は本当か」と疑念を抱く人も出てくるため、誤解されにくくなるのだ。

2.従業員教育

従業員よる顧客情報の流出などが発生するのは、従業員の情報セキュリティに対する意識の低さや、ネットリテラシーの不足が原因である。これを防ぐには、従業員を定期的に教育するだけでなく、機密の漏洩が発覚した時の処罰や責任の所在を明らかにしておくことも必要だ。

コロナ禍でのリモートワーク急増により、パソコンやタブレットといったデバイスを従業員が持ち帰ることもあるだろう。この時も、デバイス内の情報を管理し、重大な機密が入っているものは持ち帰り対象外とするなどの対処も重要である。

3.企業・人物調査

新たな人材を採用したり、不審な行動をしている社員がいたりする場合は、専門家に人物調査を依頼して、過去の不祥事の有無などを調べるのも一つの手だ。

また、状況によっては取引先を調査する必要もあるだろう。レピュテーションリスクは自社が発生源となるだけではない。取引先がレピュテーションリスクによって突然倒産すれば、自社の経営にも影響を及ぼすことがあるからだ。

4.ネット情報の管理

レピュテーションリスクが叫ばれるようになってから、「ネット監視」というサービスを提供する企業が登場している。これは、ネットでの企業の悪評や誹謗中傷をチェックするサービスだ。

「ネット監視」サービスを利用すれば、誹謗中傷が投稿されても、その都度対処して被害を最小限に食い止められる。また、投稿者と訴訟問題に発展する場合に備えて、投稿内容を記録して証拠として押さえることもできる。

レピュテーションリスクの2つの測定方法

レピュテーションリスクがどれくらいあるのかを測定できれば、対処がしやすい。この測定方法には、次の2つがある。

1.報道調査

報道調査とは、メディアでの自社の噂や印象を調べ、一般社会での自社の評価を調べるものだ。知名度の高い大企業向けの方法となる。新聞やテレビ、インターネットメディアなどで情報を調べることが第一歩だ。「入りたい会社ランキング」や「ブラック企業ランキング」で自社がどのあたりに位置するかを確認するとよい。

しかし、それだけでは不十分だ。悪い噂は、SNSであっという間に広まってしまう。そのため、TwitterやFacebook、InstagramといったSNSや検索エンジンで自社名を検索してみる必要がある。根拠のない噂や誹謗中傷、内部情報の暴露などがあるかもしれない。

仮に良くない評判を見つけても、落ち込む必要はない。「なぜそう言われるのか」を考えて分析し、原因を探して改善すればいいのだ。レピュテーションリスクで怖いのは「悪口を言われること」ではなく「噂をきっかけに自社が倒産すること」である。最悪の事態を回避できる機会と考えれば良い。

2.アンケート調査

アンケート調査とは、従業員や顧客、取引先の企業や株主といったステークホルダー(利害関係者)に対し、アンケートを行って自社の評価や印象を聞き出すものだ。これは、中小企業に向いている。全国的に知られてはいないものの、地元や特定の分野での噂や評判が商取引に影響するからだ。

今後の取引や業務に影響が出る懸念から、実名だとなかなか正直に答えないかもしれない。そのため、できれば匿名アンケートを作成し、答えてもらうのが望ましい。

なお、ステークホルダーにインタビューして調査を行う方法もある。ただ、ケースによっては実名アンケートと同じく、本音を聞かせてもらえない可能性もある。相手との関係性に応じて、インタビューとアンケート、実名と匿名を使い分けるとよいだろう。

ここでも、思わぬ評判や批判を目にして衝撃を受けるかもしれない。しかし、見方を変えれば、相手はこちらと長く付き合いたいと思っているからこそ、わざわざ言ってくれたのだ。感情的にならず、冷静に対処しよう。

レピュテーションリスクへの対策はしっかりと

残念ながら、他者の企業に対する評判は、完全にコントロールできない。レピュテーションリスクをゼロにすることは不可能なのだ。しかし、レピュテーションリスクの存在を認識した上で、企業自らがコンプライアンスを意識して、定期的な情報発信や社員教育、ネット管理などを行うことで、レピュテーションリスクを最小限に食い止めることができる。

今一度、自社のレピュテーションリスクへの取り組み状況を整理してみてはいかがだろうか。

文・鈴木まゆ子(税理士・税務ライター)

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